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ブランドの育て方

「もうとっくに仕事には飽き飽きしていて、正直いうと辞めたいんだけど、今辞めちゃうと困る人が周りにいるから、走り続けなきゃならないんだ」

とあるブランドのファウンダー兼デザイナーがそんなことを口にしていたらしい。友人経由で聞いた話だ。

話を聞いた友人は、そのデザイナーの“漢気”に感銘を受けたそうだが、私はあまりいい印象を持たなかった。ブランド運営の中で、自分で自分の首を絞めてしまったように感じたのだ。きっともっと、適切なブランドの成長のさせ方があったのではないか、と思わずにはいられない。


いいブランドにすることと、デザイナーが楽しく仕事をすることは、必ずしも重なり合わないかもしれないが、少なくとも私は楽しく仕事をし続けたいと思うし、またそれがひいてはいいブランドになるための下地を作ってくれると信じている。

その環境を作るにあたって、私はふたつのことを“しないように”意識している。過去にも同様のことについてそれぞれどこかで書いてきたかもしれないが、新年だし改めて、今日はそれについて書いていこうと思う。


ひとつ目は、「事実以外のことを表記しない」ということ。

ブランドの説明文や各香りのディスクリプションを書く際、「こだわりぬいた」、「最高級の」、「高価な」、「希少価値が高い」、「唯一無二の」等の、“フワッとした”言葉は避けるようにしている。これらの言葉は主観的な側面が強く、また本来はどちらかというと受け手が判断するべき内容だ。どこかの誰かに「あなたの感想ですよね?」と言われかねない。「高価」や「希少価値」などは客観的なものと思われるかもしれないが、何を持って高価、希少価値といっているかはかなり曖昧であり、実際の運用は“言ったもん勝ち”となっている。

ちなみに、本題からは少し離れるが、フレグランスにおいて、やたら「高価な香料」や「希少価値の高い香料」と言っているものは、往々にして単純にブランド側が香料を“高値掴み”しているケースがほとんどだ。さらに、「ふんだんに使用して」の「ふんだん」も、実際は微量であることがままある。特に欧米のブランドは、このあたりの「完全には嘘とは言い切れないけど実質ほぼ嘘」となる言葉を躊躇なく発しがちだ。そしてまた違った話だが、「余白」という言葉をやたら使うブランドは、だいたいにおいて技術力がなく細かい調整ができないことを、お茶を濁してそう呼んでいる場合が多いと思料する。本当に意味と意志のある「余白」を作ることはそう簡単ではないはずだ。最近あまりにも頻繁に見るその言葉には、正直辟易させられる。いずれにしても、私はそれらの言葉も基本的には使わないようにしている。


もうひとつは、「売上や認知を拡大するためだけの施策を行わない」ということ。

昨今のSNSの発達によって、お金を払ってしまえば、ある程度の認知を獲得するのはさして難しいことではなくなったようだ。実際にSNSを戦略的に駆使して成功しているブランドも多々あるのだろう。

ただ私は、今現在においてはそういうことをしないようにしている。具体的には、SNSにおける広告やインフルエンサー等を使った発信になる。もちろん、それらそのものが悪いわけではないが、現状çanomaの身の丈に合っていないと感じているのだ。小さなブランドなのだから、知られていなくて当然で、それを無理に知らしめることは、どこか間違っているように思う。もしブランドが大きくなっていって、その一方で認知が追いついていない場合に、それらの手法を使うときっと効果的なのだが、少なくとも今はその時期ではないはずだ。


「事実以外のことを表記する」ことと「売上や認知を拡大するためだけの施策を行う」こと、いずれにしても、この手の施策のひとつの問題点は、ブランドの実態と認知の乖離が生まれてしまうことだと私は考えている(注:ここでいう認知は、そのブランドがどのように認識されるか、ということと、どのくらい広く知られているか、の両方を指す)。認知だけが拡大していき、それに実態が伴わない場合、その乖離がどんどん大きくなっていく。乖離している状態がずっと続けばいいのだが(実際にその乖離を維持することに全力を注いでいるブランドは、なんとなくうまくいっているように見える)、往々にしてどこかのタイミングでバブルが弾けるようにこの乖離が収束する。これがブランドが「飽きられる」という現象なのではないか、と私は思っている。

その乖離をどうにか維持しようとすると、ファウンダーやデザイナーの、当初やりたかったこととは違う動きがどうしても出てきてしまう。そういった不本意ながらやらざるを得ないことは、だんだんと彼ら彼女らを不幸にする。ブランドを大きくして経済的な成功を獲得することが主目的ならばそれでいいだろうが、純粋なクリエーションの中に喜びがあるケースは、負のスパイラルに陥ってしまうのだ。


私は今は、認知はさておき、ブランドの中身を充実させる時期だと思っているし、それをすることに喜びを覚える。いつまで認知を無視したブランド運営ができるのかはよくわからないが、いずれにしてもこの期間をなるべく長くして、ゆっくり味わっていきたいと思う。

そして、ひいてはそれが、ブランドを時間をかけて大切に育てていくことだと、私は考えている。それが実際にうまくいくかどうかは、時間が立ってみないとわからないことだが、将来“答え合わせ”をするその日まで、私は常に楽しく仕事をしていきたいと思う。

私はそのために、çanomaを立ち上げたのだから。


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