イグアノドン
実家に帰省し、自分のものを整理する。
帰省をする度に自分が実家に残した荷物を見返し、取捨選択する。クローゼットの上段だけに収まるくらいには、かなり少なくなった。
今回はその中に美術の作品を見つけた。
あぁ懐かしい。カラー版画で描いたイグアノドンよ。
私の美術のモットーは「とにかく色塗りが簡単そうな、線画の少ないものを描く」というハイパーめんどくさい性格が滲み出たものだった。
周りの女子は、色鮮やかな熱帯魚などを選択している。なるほど、賢い。他の人とジャンルが被ることを嫌った私は、混乱しながらイグアノドンを選択した。
しかも。実際下絵はこれよりも鱗がかなり繊細で。版画なので1度紙から版画に転写させる必要があり、転写するのも彫刻するのも色付けするのも、普通にしたら終わらないことを下絵の段階で悟った。
だから私は下絵で外枠だけ転写し、鱗はさもそうであったかのようにかなりザックリ写した。なんとセコい。
色付けも色毎に刷らねばならないものだったが、ほぼ緑。緑のチューブを丸々1本使って、それを適当に分散させて黄色や白、青を加えて適当に塗った。瞳の赤だけは魂を込めるように。
そうやって、アレンジを何度も加えられて完成したイグアノドン。女の子らしくない完成形に辟易していた私は、ちがう題材に変わることを日々心待ちにしていた。
なのに。なぜか美術展で名前付きで、とても目立つところに飾られた。何が良かったのか、今でもさっぱり分からない。
懐かしきイグアノドン。
お前を捨てようと思う度に、このエピソードを私は思い出していたよ。娘に見せたいような、見せたくないような。
親の美術作品を、娘は見たがるだろうか。
娘が高校生になった頃に、面白おかしく親と子の作品を比較する日を楽しみに、まだ取っててもいいかな。
ごめんね、お母さん。実家に残してるもの、ママになったけど、まだ捨てられそうにないや。