河川の急カーブはメランジュのせい?:岩手県北東部山間・高山地域【地元再発見の小旅行vol.17】
岩手県北東部の山間・高山地域の地形と地質を見ていくシリーズ。
今回は河川がつくった面白い地形についてお話します。
川の場所は?
岩手県北東部の山間・高山地域、場所を再確認しましょう。
図の茶色線と赤線に囲まれた地域です。
今回紹介する川はこの地域南端部で岩泉町東部を流れています。
図中の赤点線で囲った場所になります。
こちらです!
かなりグルングルンと急カーブが連続していますよね。
急カーブだらけの凄い川
もっとアップにしてみましょう!
あれ?見覚えありますよね(笑)
そうなんです。
龍泉洞がある岩泉町市街地付近を流れている小本川(おもとがわ)でした。
さて、もう少し上流から見てみましょうか。
あれ?上流の方はあまり蛇行していません。
画像真ん中よりやや右下の急カーブの上流と下流で全く違いますね。
上流側は谷幅が広く大きな蛇行は見られません。
一方、下流側は狭窄部が多く急カーブが連続しています。
これは何か秘密がありそうですね。
こういう時はたいがい地質が関係しているものです。
小本川沿いの地質
シームレス地質図V2をかぶせてみましょう。
色々な地質がありますが、ここでのポイントは黒色の線と灰色の地層です。
黒色の線は断層です。
この断層は過去に活動したもので、活断層ではないようです。
ただし過去に何度も動くうちに脆く弱くなっています。
また断層そのものだけでなく周囲の地層も脆くなっています。
小本川の上流部が直線に近いのは、この断層沿いを流れたからでしょう。
でも小本川は下流になるにしたがって断層から離れ、やや南を流れます。
その地域は断層から離れているため、その地層本来の性質が残り、その影響で惰行の激しいカタチになったと考えられます。
この灰色の地層は中生代ジュラ紀の混在岩です。
またまた新しい地質が出てきてしまいました・・。
混在岩とはなんぞや?
これはかなり特殊な岩石です。
イヤ、「岩石」と言うよりは「地層」というのが適切か「地質」と言うのが適切か、難しいところです。
と言いますのは、もともとは泥や砂などの地層が「グチャクチャのゴタ混ぜ」になったものだからです。
地質学者の間では英名のメランジュと呼ばれることが多いです。
とにかく「グチャグチャの地質」であればメランジュと呼ばれ、どうやってできたか?は問いません。
しかしこの地域のメランジュ(混在岩)の場合は、もともとは海洋プレート上にたまった泥や砂などの堆積物が、沈み込み帯に差し掛かった時にプレートと一緒に沈み込めずに大陸にくっついたものです。
プレートは年間数cmなどのスピードで沈み込むので、当然、うしろから次々と同じような堆積物がやってきます。
前には大陸プレートがあってつっかえてますから、後ろからギュウギュウに押される。それでグッチャグチャのゴタ混ぜになります。
見た目は泥岩や砂岩、チャートなどがグッチャグチャに混ざってます。だから混在岩と呼ばれるのですね。
メランジュは以前からお話ししている付加体につきものの地質です。
上の画像の黒っぽい部分は泥岩、白っぽいのが砂岩のようです。
このような感じでチャートの岩塊が含まれる場合もあります。
河川の蛇行はなぜできた?
では再び地形図と地質図を見てみましょう。
この赤点線で囲ったカーブより下流で蛇行が多くなります。
下流側を詳しく見てみましょう。
やはり断層から離れ、メランジュの分布範囲内で蛇行が激しい。
そもそもメランジュはグチャグチャな地質ですから、浸食に弱い方だと考えられます。
私がまだ若手社員だった頃に、関東のとある山でメランジュ地帯を調査したことがあります。
この時に初めてメランジュに対峙してビックリしたのですが、黒っぽい泥岩部分は比較的やわらかくて脆いんです。
場合によっては粘土になっていました。
しかし砂岩やチャートの部分はガッチガチに硬い。
つまり同じ地層でも場所によって硬軟のムラが大きいんですね。
つまり小本川のこの流域では、軟らかい泥岩部分を削って流れ、硬い砂岩やチャートにぶち当たると曲がって、泥岩部分を流れる・・ということを繰り返すために、こんなに蛇行が多くなったのでしょう。
ちなみに本来、河川は蛇行するもののようです。
それについては、また別記事でお話ししたいと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。