「デザイナーと仕事する」ってどういうこと?ー事業会社の中からみたデザインのお仕事その2|客観視
こんにちは。
NEWhでサービスデザイナーをしている渋谷(しぶたに)です。
私はもともと事業会社のデザイン部署出身で、今は支援側にまわりクライアント様と一緒にデザインのお仕事をさせていただいています。
このnoteでは、
・事業会社の中でデザイン部署で働いている方
・デザイナーに仕事を依頼している方、しようと思っている方
向けに、どうすればお互いの垣根を超えてワクワクするデザインが出来るか
ということをサービスデザインというお仕事を通じてお伝えできればと思います。
前章ではサービスデザインとは?というお話と、デザイナーと仕事をするということは「問い」から始めるということをお話しました。
今回は2章になっているので、もしよろしけば1章から読んで頂ければと思います。(https://note.com/yuriko_shibutani/n/n44786beb3502)
今回は、その「問い」を内部と外部に広げ、その先に進むためにプロジェクトを客観視するというお話をささやかなTipsとともにお話できればと思います。
1.まずは内部の「問い」を明らかにしてみた
さて、商品部長さんから預かった頼みごとに対して「問い」をたてた私は、データ収集から始めることにしました。
ここではまず、事実として分かっていることを客観的に見ます。これはまだデザインリサーチと呼ぶよりももっと前段階の「情報の再整理」です。会社にはさまざまなデータがあります。顧客情報、定点観測、販売情報、アンケート結果などなど。それらの誰かが出した結論は気にせずに、まずは自由に自分が立てた「問い」に沿って答えを探してみるのです。
もちろん分からないことは多いですが、「分からないこと」が分かることが
一番大事だと思います。
第1章での「問い」を思い出します。
・なぜ、売上が伸張しているのだろうか?
調べ方:同地域の営業実績、定点観測との比較、営業ヒアリング
わかったこと:コロナのリバウンド影響、テイクアウトの増客
・なぜ、このタイミングでアクションを起こすのだろうか?
調べ方:戦略方へのヒアリング、決裁者の行動や発言を追う
わかったこと:数値を出すべきタイミングであった(予算との辻褄を合わせる時期)、コロナのリバウンド需要を逃したくない
・なぜ、デザートを刷新することで女性とお子様が増えると思うのか?
調べ方:戦略方へのヒアリング、商品担当者へのヒアリング
わかったこと:コアターゲット(客層の大多数)がファミリーであり、ファミリー=ゆっくりお食事を楽しみたい→食事後のデザートが必要なのでは?という仮説に立っていること
・なぜ、女性とお子様を増やしたいのだろうか?
調べ方:戦略方へのヒアリング、定量調査の洗い出し
わかったこと:女性やお子様連れのファミリーは客単価が比較的高く、顧客増=売上増につながるという仮説に立っていること
・なぜ、デザインを変えるのだろうか?
わかったこと:なんとなく。ということ。。
2.つぎは外部の「問い」を考えてみよう
現状が整理できてくると、起案者の中にいくつかの仮説とさらに深く問うべき点があることがわかります。
例えば、
1.売上が伸びている理由は主にテイクアウトだが、店内でゆっくりしてもらうためのデザートはニーズがあるだろうか?
2.女性やお子様は店内でゆっくりしたいという仮説は本当なのだろうか?
3.女性やお子様連れは客単価が高いのはなぜだろうか?何を食べている?
4.そもそもユーザーはどんな体験をブランドに求めているだろうか?
先ほどの「問い」は、あくまでビジネスにおける前提を整理したまでですので、ユーザーは無関係でした。しかし、課題を整理したことによって、つぎはユーザーに興味が湧いて来るのです。自分はユーザーをこういう人だと思っていた…ということが明らかになるのですね。これをチーム内でやるだけでも、「自分はこう思ってた」「私はこう」のような思ってもみなかったチームの面白い意見が聞けますよ。
さて、改めて「問う」べき「問い」が見えてきた訳ですが、ここで通常であれば「よしっ!では一度ユーザーインタビューだな」となると思いますが、企業の中においては予算や時間が取れないことも多いでしょう。(実際この商品は春に企画を始めて秋には売り出したいというものでした…)
そこで、私がお勧めしたいのはリサーチ前段階での「セールスシート化」です。まずは自分の思い描くユーザーが世の中にいると想定して、そのプロジェクトを上司や友達に説明するために簡易的なプレゼンシートを作ると思っていただければ良いと思います。
そんなの美術が2だった俺には無理だよ(泣)・・・
そんな声が聞こえてきそうですね。
大丈夫です。そんな時のためにもデザイナーがいます。今回は私がヒアリングしていたので、私がこのセールスシートを作りました。写真やターゲットの人物などは起案者の方と相談しながら、まずは妄想で作っていきます。
ここで少し特殊なのは、私はセールスシートの一番最初にヒアリングで得た「ビジネス背景」を入れていました。あくまで社内の人に話す資料なので、これを入れておくことで「なぜ私たちがこれをするべきなのか」というWHYの部分がまず明らかになって、安心してユーザーの目線に入っていけると思ったからです。本来はユーザー中心に考えるべきですが、社内で聞き耳を持ってもらうには、まずそこの整理・理解が起案者やデザイナーができているかが大事になると思います。
つまり
・私達はこういう事業をしていて
・今こういうビジネスの課題を持っている
・将来はこのくらい成長したいと思っている
・その為に今こういう形で役に立ちたいから
・こんな事をやるんだよ、ということ
→セールス内容
という作り方です。
3.「自分の子供は買わないけどね」という言葉
セールスシート化してみた後は、プレゼンです。ひとまず私から商品部長さん始め担当者の皆さんにプレゼンをしました。
すると、起案者である商品部長さん自身の口から
「うーん、これは自分(の子供)は買わないなぁ。」という一言が(!)
….なるほど客観的になるということはやはり大事ですね。また、ここで素直にそう言える部長さんは、個人的に素晴らしい人だと思います。
戦略マップなどで難しい言葉でアイディアを連ねてしまうとそれなりに良く見えてしまうものですが、「世の中に出す姿」をイメージすると、ユーザーとして直感的にそれを欲するかどうか?という視点になり、早い段階でそのサービスが魅力的かどうかということにも気づけるのです。
では、ヒアリングからセールスシート化、プレゼンの時間がムダだったのか?というと、全くそんな事はないと思うのです。
「では、どうすれば欲しくなるか?」「どのポイントが合わなかったか?」こういった新たな「問い」が生まれるきっかけになるからです。
それこそが「インサイト」と呼ばれるユーザーの深層心理に近づく第一歩なのではないでしょうか。
勿論、ターゲットが自分とは全く異なる場合は、このプレゼンをターゲットになりえそうな人に聞くというプロセスが必要になります。まずは目の前のターゲット1人に「欲しい!」と思わせられるかどうか。これが大事なのだと思います。
これはユーザー中心であると同時に、持続可能性のある事業ですから、ビジネスとしても優位性が高いという事になるのではないでしょうか?
次回は、このセールスシートをどの様に変えていったか、リサーチそしてプロダクトを生み出す際にサービスデザインとしてどうアプローチするかというお話ができればと思います。