【毎日書評】「勝負頭脳」を手に入れるための3つの大切なこと

仕事も「恋も駆け引き」が重要。
ゲーム理論という学問を学べば、駆け引きがうまくなるとのこと。
本書では、情報学者でありながらパズル作家でもある著者が、あらゆるゲームを具体例としながら、その「勝ち方」について詳しく説明しています。
日常生活にゲームの戦術を取り入れ、勝負脳を少しずつ身に着けていくと色々な事がうまくいきはじめるかもしれません。

ただ勝つことではなく、"勝ち方にこだわる

まずは、勝つために頭を使うとはどういうことかを理解し、頭を「勝負頭脳」に切り替えるために、兵力差を覆して今川義元を破った織田信長の戦略について考えてみましょう。

今川軍の4万に対して、織田軍は2000余りと明らかに劣勢であった。今川軍が攻めてきたと報告を受け、部下から戦うか逃げるかと選択を迫られたとき、信長はなんと返事をしただろうか。

ゲーム理論トレーニング

本書の効果を最大化するために、用意された設問にはまず自分の頭を使って考えてみてください。

この設問ですぐに戦うか逃げるかを選んでしまうようではゲーム理論の考えが身についていないと著者は述べています。選択する際には徹底的に選択肢を掘り下げることが重要です。

信長は敵の出方だけでなく、味方の態度も見定めようとし、スパイがいる可能性も警戒し、すぐには答えなかったといいます。

では、内心では今川軍を攻めることに決めていた信長が選択したのは、敵軍がよく見える昼間に攻めることか、それとも自軍がよく見えない夜中に攻めることでしょうか。

正解は夜中に攻めること、要するに奇襲でした。戦力差が大きいときに勝機があるのは奇襲しかない。これはもはや、あまりにも当然というべき常とう作戦です。

このようにすべてのゲームには"勝ち方"があります。現実世界のゲームで駆け引き上手になるためには、論理を身につけるとともに、過去の実例にも目を向けるとよいでしょう。

多人数型のゲームでは後出しじゃんけんが基本

本書では新規市場への参入をテーマに「多人数型のゲーム」についてある考察がなされています。
一般的に小さな企業は弱く、大きな企業は強いと思われがちですが、大きな企業にも弱点はあります。「合理的なブタ」と呼ばれるゲームに沿って語られています。

大きなブタと小さなブタが1つの檻の中にいます。檻の中にレバーがあってそのレバーを押すと餌が出てきます。でも餌が出る場所はレバーの反対側です。レバーを押したブタは反対側まで走らなければなりません。しかし、押さなかったブタは餌場で待ち受けていて、先に餌を食べることが出来ます。

小さなブタがレバーを押すと大きなブタが先に全て食べ尽くしてしまいます。しかも小さいブタは体力を消耗します。
大きなブタがレバーを押すと小さいブタが先に食べ始めますが、全て食べる前に大きいブタが駆けつけて大きいブタも食べることができます。(独り占めはできませんが・・・)
両方のブタが同時にレバーを押すと、2対1の割合で大きいブタの方が沢山食べれます。
両方のブタがどっちもレバーを押さないといつまでも食糧にありつくことはできません。

どちらのブタがレバーを押すでしょう?

ゲーム理論トレーニング

答えは、「大きなブタがレバーを押す」です。

わかりやすく食料が3kgあったとしましょう。
パターン①:小さいブタが押して、大きいブタが押さない場合
→小さいブタは食べられない(そのうえ体力を消耗するため仮に-1kgとします)、大きいブタは3kgすべて食べる
パターン②:小さいブタが押して、大きいブタも押す場合
→小さいブタは1kg、大きいブタは2kgを食べます
パターン③:小さいブタが押さず、大きいブタが押す場合
→小さいブタは1kg、大きいブタは2kgを食べます
パターン④:小さいブタが押さず、大きいブタも押さない場合
→小さいブタも大きいブタも0kg(食べられない)

以上より小さいブタは押すを選ぶと相手が押したら1kgの利益、相手が押さなかったら-1kgです。それに比して待つを選ぶと相手が押したら2kgの利益、相手が待ったら0kgです。相手がどちらのパターンで来ても小さいブタにとっては、自分が押すより待つ方が有利です。ですから小さいブタはひたすら待つ方を選択します。大きいブタは自分も待っていると永遠に餌にありつけないため自分が押すしかないのです。

このように小さいブタは大きいブタを利用して最良の方法を手に入れています。
この小さいブタが大きいブタに勝つ方法は、しばしば中小企業が大企業に勝つ方法に比喩されます。

"損をしたくない"という感情を捨てる

ゲーム理論を使うことは、シビアな戦いを繰り広げることだと思われがちですが、ゲーム理論を専門にする研究者たちは、「道徳哲学」を重視することが多いようです。

ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センは、子供の世界を扱ったこんなジョークを書いています。

大きなリンゴと小さなリンゴの2つがある。少年Aが大きいほうを取ると、少年Bが不公平だと言った。そこで少年Aが「きみだったら、どっちを取った?」と尋ねる。

もし少年Bが「大きいほう」と答えたら、少年Aは「だからそうしたんだ」と言い返すだろう。そう考えた少年Bは「もちろん小さいほうさ」と答えた。すると少年Aは勝ち誇ってほほ笑む。「きみは望み通りにできるじゃないか」と言えるからだ。

二者択一に乗ってしまった時点で、少年Bの負けは決まっていた。もっと深く考えれば、リンゴを2個とも半分に切って分けたり、ジャンケンで決めたりと、公平さのある決め方ができるだろう。

ゲーム理論トレーニング

少年Aがゲームルールを決めているパターンですね。
アマルティアによると、どんな決め方でも結局「自分が損をした」と思いがちなのが人間というものだそう。
相手のほうが余分にとったように見える状態になって初めて、不公平感を感じることもしばしばありますが、「損を取って得を取れ」という言葉にもあるように必ずしもすべての局面で勝つことが成功の原則とは限らないということでしょう。
むしろ「相手には、自分より多く与えよ」という精神が鍵になることもあるのかもしれません。


日常にゲーム理論の原理を生かしてみると、交渉上手になったり、人のふるまいがわかったりするようになってきます。これから自分でビジネスを立ち上げる方や、競争することに苦手意識をお持ちの方は、参考にしてみてはいかがでしょうか?

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