うさぎさんと観た「黄色いベスト運動」
こんにちは、旦那様です。
うさぎさんが日本のニュースでも話題という黄色いベスト運動のことを話したいというので、今回書くことにしました。ちなみに、うさぎさんは48歳(オス)。汐留にある某広告代理店で勤めていたそうですが、一念発起して新橋のカルチャースクールに通い、人間からうさぎになったという不思議な生き物です。
なお我が家は働き者の妻を筆頭として、うさこ、うさまる、くまさん、カエルのジェイド、ぐうたらな旦那、うさぎさんの、計7匹で暮らしています[※. 家庭内での権威順]。
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■「日常」から連続する「デモ」
冬に入ってから、毎週土曜日我が家はお出かけせずテレビでニュースを観ています。フランス語なので半分も意味がわからないのですが、黄色いチョッキを着た人々が、車道を行進したり、凱旋門の上に昇ったり、シャンゼリゼ通りで警察隊と対決したり、上半身裸の女の子たちが登場したり、高速道路を封鎖したり、放水車で流されたり、街にあるゴミ箱を転がしたり、セーヌ川の橋の上で戦っています。
で、日が暮れて、日曜日になるといつものパリに戻ります。
ここは、我が家から歩いて10分程度の、ルーブル美術館近くの橋。youtube の映像にあるように、土曜日にはデモ隊と警官が小競り合いを繰り広げていたのですが、日曜の朝には規制も解除され、パリジャンやパリジェンヌや観光客が橋を渡っています。
■ 転がる空き瓶やゴミ箱のように
黄色いチョッキ運動は、毎週土曜日に行われます。最近 (2019年の1月中旬) からは、パリ市内でのデモの予定ルートが公開されるようになりましたが、実のところ、どこでデモを行うのか、恐らく当人たちもわからないのだと思います。
デモの目的も、実のところは決まっていないように見えます。
最初は、燃料に係る税金に対する抗議行動が主でした。続いて、高等教育制度改革に反対する学生が加わり、ともかく腹が立つから何かしら抗議をしたい人たちが参加するようになり、マクロン政権の倒幕運動や、あるいは、国民投票制の導入を主張する一団も居ます。Brexit よろしく、Frexit という言葉を使うグループも居ますが、二番煎じ感が強いのかあまり流行っていない様子です。最近では、「女性の黄色いベスト運動」も、日曜日に開催されるようになりました。
では、デモの主催者が居るのかというと、個別具体的な団体や個人を、それっぽく言えば、ジャンヌ・ダルクを特定するのは難しかったりします(もしかしたら、ジャンヌ・ダルクも誰かの思い込みと勢いで顔役になっただけかもしれませんが)。
目的も決まっていないし、行動内容もその場その場だし、主催者もわからないけれど、行動の結果が毎週ごとに残る。それが黄色いベスト運動の内実のように思えます。
1月のはじめ、デモの一団が僕らの家の近くを通ったことがありました。
ちょうどその日はガレット・デ・ロワを買いに行く予定にしていたので、デモ隊が通り過ぎたことをテレビで確認した後、お出かけしたのでした。
道の真ん中に転がっているのは、ゴミ箱です。
どうやら、デモ隊がひっくり返したみたいですね。
ゴミ箱がひっくり返された結果、空き瓶が散乱していました。
通りには、色々な人たちがいました。突然の出来事に困惑する観光客、スーツを着た人たち、片付けをしている消防員、黄色いチョッキを着て20人くらいで何かを話し合っている人たち、ガレット・デ・ロワを買いに行くうさぎと人間、そのガレット・デ・ロワを買いにいったパン屋さんで九官鳥を小脇に抱えながら店員でいつもの調子で話しかけてバケットを買っていく九官鳥おじさん。
それから、写真からは伝わらないのですが、鼻をつくような、ゴムが燃えたような匂いが周辺に漂っているのも印象的でした。どうやら、駐車されていたバイクのタイヤが燃えた匂いのようでした。
翌日。
フレームだけになったバイクが転がっていたのでした。
■ 「グランドディベート」をしたのはいいけれど
こうしてデモは去年から続いており, マクロン大統領および政府も優遇税制の実施など, いくつかの施策を打つことで, 事態の打開を目指しているようです。
こちらは, 12月10日に行われたマクロン大統領のテレビ演説。各局横並びで、マクロンさんの演説を中継していました。日本と同じ感じですね。・・・右下のテレビ東京状態の番組はレキップという、スポーツ専門チャンネル。生活の中にはいつだってフットボール。マクロンよりンバッペ。
だけど演説の後も、デモは終わりませんでした。
そこで、マクロンさんが始めたのは「グランドディベート」と呼ばれる、国民と政府の対話集会。先日行われた第一回は、フランスの地方都市で行われました。15時から22時近くまで、約6時間強を掛け、質問ひとつひとつにマクロンさんが丁寧に答えていく様子が印象的でした。
最後には、会場から総立ちの拍手も。
おめでとう、おめでとう!の、エヴァ最終回状態。
しかしながら、お気づきになりましたでしょうか?
会場にいるのは、白人の、少しお年を召した、スーツを着た人々ばかりなのです。普段、土曜日に、黄色いチョッキを着て街を歩いている人たちが参加していない、あるいは参加しているように見せかけていないのは、とても不思議です。例えば、フランスのニュース番組では毎回、「今週の面白発言」が取り上げられる大西洋の向こう側の金髪の大統領の演説を見ていると、毎回様々な人種や、年齢層や、ジェンダーが、巧妙にテレビ映りやソーシャルメディア映えするように調整されているのですが。
そして、このグランドディベートの結果。
やっぱり、デモは終わりませんでした。
■まとめ: うさぎは跳ぶしキャラバンは進む
先日大学のセミナー (研究発表) に登壇したとき、「今年フランスに居るのは本当にラッキーで、ワールドカップの優勝や、カルロス・ゴーンの逮捕や、黄色いベスト運動を眼の前で見られるのは得難い経験だ」という話をしました。それに対しフランス人の教授が「最初はともかく、残りの2つは俺たちにとっては大変だけどな」とツッコミを入れたのでした。
黄色いベスト運動を見ていて思うのは、人々が日々を生きる日常と、デモという異議申立て手段が、努めて地続きに行われているということです。
ニュースを見ていると、デモの参加者数や、拘束者数や逮捕者数が毎週公開されます。その数字の多寡や変分では説明できないことが、たくさんあります。
12月のはじめの土曜日、フランスの地方都市に出かけたことがありました。地下鉄で僕らの斜向いに座ったパリジェンヌは、駅に到着するとカバンから黄色いチョッキを取り出して、地上へと向かったのでした。
こんな風に、日々の暮らしとデモがとても近い感覚は、例えば日本で暮らしているととてもイメージしずらい気がします。
もちろん、破壊行為や人々を傷つける行為は看過出来るものではありません。だけど、デモという手段を用いて、自分たちが伝えたい思いを発露するのも、社会の在り方を問う上では必要な手続きのように思えます。
デモ隊の言うことが正しいのか、マクロン大統領の言うことが正しいのか、それもよくわかりません。それぞれに拠って正しさを主張するのは簡単だけど、たぶん、そんなに単純ではないことだからこそ、黄色いベスト運動は終わらないのだと思います。
キャラバンは進むし、うさぎは無頓着に跳ぶしかなかったりしますしね。