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何度でも好きになって

「……ここで、髙橋藍の強烈なバックアタック!!攻守ともに抜群の安定感を見せる髙橋から目が離せません!」


中学2年の夏、バレーボール部を辞めた。

辞めた理由はいろいろあって、後悔がまったくないといえば嘘になるけれど、当時はそうするほかに道がなかった。

バレー部を辞めたあとも、ずっと仲良くしてくれる友達、先輩や後輩には感謝という言葉では足りないほど、ほんとうにいつもありがとう……ありがとうございます……と思いながら過ごしている。

地面に頭でもめり込ませておきましょうか。

とにかく私は、中学2年の夏、バレー部を辞めた。

小学生のときまで、お世辞にお世辞を重ねても、スポーツが得意とはとても言い難い子どもだった。

身長が小さくなく、手足が比較的長かったおかげで、身体能力の割には……みたいな、「体格でカバー」を地で行くタイプ。

でも結局、もともとの身体能力が高くはないから、親に頼んでスイミングも器械体操も習い事に通わせてもらって、やっとこさ及第点(?)みたいな小学校生活だった。

そんな自分を変えたかった。

運動部に入ったからといって何かが急に変わるとか、そんな幻想を信じていたわけじゃない。

でも、何かちょっとでも、いやもう少し期待してたかな、何か、自分のなかの何かが改革できるんじゃないかって、信じようとして、きっと信じていた。

バレー部に入ってからの日々は、基礎体力の足りない私には単純にしんどいことも多かった。

でも、友達と先輩方のことが大好きで、きっとだから部活が楽しかった。

小学生まで、チームで何かに取り組む、という経験が乏しかった私にとって、新しい景色だった。

大好きな仲間がいたから、生まれて初めてスポーツが、バレーが、好きになった。

休みの日には、テレビ中継しているバレーの試合をよく観ていた。

好きな選手もできた。

長岡望悠選手。

プレーがものすごくかっこいいだけじゃなくて、人間的にもすごく尊敬していて、私のロールモデルだった。


それでも、私はバレー部を辞めた。

「あんなにバレーが好きだったじゃないか」

退部届けを出しに行ったとき、顧問にそう言われた。

泣く気なんてさらさらなかったのに、言われた瞬間、堰を切ったように涙があふれてきて、とまらなくなった。

顧問は、

「そんなに泣くんじゃないよ」

と言って、私の頭をぽんぽんしてから、職員室に帰っていった。

人生初の頭ぽんぽん、だった。

そういえば顧問は、こそあど言葉をよく使う人だったのかもしれない。


バレー部を辞めてから、私はバレーに関わることを執拗に避けた。

バレーのことは、嫌いになったわけじゃなかった。

でも、私にバレーを好きでいる資格はないと思った。

体育の授業では、何食わぬ顔をして、それなりにバレーをした。

変に反抗的な態度をとったり、わざと投げやりにしたら、まわりが困る。

まあみんなよりは、まあ、それなりに、できまっせ?みたいな顔をして、授業をやり過ごした。

いやいや、それがいちばん面倒くさいタイプの人間じゃん、ということには、のちのち気づくことになる。


そんなこんなで、部活を辞めてからの中高時代は、スポーツとはまったく関係のないことだけに打ち込んで過ごした。

それで、あっという間に気がついたら私は大学2年生、もうすぐハタチになろうとしていた。

ある日の夜、地上波の番組が軒並み響かず、たまにはBSでも観るか〜と思って、なんとなくザッピングしていた。

適当なチャンネルにしたまま、キッチンに水を飲みに行った。

そうしたら、聞こえてきたのだ。

「……ここで、髙橋藍の強烈なバックアタック!!攻守ともに抜群の安定感を見せる髙橋から目が離せません!」

水を飲むつもりだったことも半分忘れて、水のボトルを握りしめたままリビングに逆戻り。

なにこれ、めちゃくちゃかっこいいじゃん。

ここまでか、と悟った。

やっぱり私はバレーを嫌いになんかなれなかった。

大好きだったんだ。


あとから調べたら、髙橋藍選手は私とちょうど同い年で、それにも刺激を受けたし、オポジットとしてはあまり身長が高くないのに、信じられないくらい跳ぶ西田有志選手にも惹かれた。

瞬く間に、私はバレー観戦にハマった。

バレーって、楽しすぎない???

ディズニーに行っても、どこかに自分を客観視してしまう自分がいて、フルに楽しみきれない屈折した性格の私が、久しぶりに我を忘れられる時間に出会った。

バレーの試合を観ていると、ついつい、わー、とか、あー、とか、声が出ちゃうし、気づいたら手をばしばし叩いて応援している。

現地でもそうだし、最近は家でもそうだ。

ちなみにここのところは、私のバレー熱が家族にも伝染して、家族と一緒に試合観戦に行くこともある。

家族や友達と並んで、一心不乱にハリセンを叩いている時間が、最高に幸せだ。


バレー部を辞めた当時は、もういちどバレーが好きになる未来なんて、ちっとも想像していなかった。

でも、想像できないから、未来って楽しいんじゃん?

スーパーポジティブ人間こと私ユミヨシは、今日も元気にバレー選手たちを応援しながら、超絶ハッピーに過ごしている。


何度でも好きになってよ今はまだ想像しない未来の私/弓吉えり

#想像していなかった未来

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