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スピッツに会いに行く

スピッツに会いに行った。
と言ってもライブ会場へではない。
街の小さな映画館へ。

劇場版『優しいスピッツ』

北海道•帯広市にある「旧双葉幼稚園園舎」でのスピッツのライブ映像。

この園舎は大正11年に建てられた国の重要文化財らしい。
洋館なのかな? 趣のある八角形の遊戯室で、彼らのライブは無観客で行われた。
4人が丸く向き合うような形で。

この小さな会場が彼らの音楽にとても合っている感じがした。4人のありのままな感じがとてもいい。誰からともなく「始めますか?」と言って、ドラムの﨑山さんがスティックをカッカッカと鳴らす。草野マサムネさんの変わらないやさしい声が真っ直ぐに届く。とても心地いい。

私はスピッツのコアなファンではないが、彼らとは世代が同じで、ずっと一緒に歩んで来た感覚がある。
春先に商店街を歩いていた時、ふいに『ロビンソン』が流れてきて、当時のマサムネさんの、今よりもっと若くてやさしい声がスーッと胸に入ってきて泣きそうになった。
だから今回の劇場版スピッツの上映を楽しみにしていた。やっとわが街にもやってきた。
普段行くメジャーな大きな映画館ではなく、子どもの頃に行っていた小さな映画館での上映。お客さんもまばらで、自由に席が選べた。開演前には、古い古い映画『太陽がいっぱい』のテーマ曲が流れてて。そう、アラン•ドロンのやつだ。ここの映画館はメジャーな映画はやっていない。フランスやアイルランドの映画などが上映されている。実にマニアックだ。
出来立てのポップコーンなども売ってない。あらかじめ箱詰めされたポップコーンが気持ち置いてあるだけだ。
飲み物は自動販売機で。
小さな小さな映画館。でもこのコンパクトさと人の少なさが、自分だけの空間のようでなんとも居心地がいい。

話をスピッツに戻そう。
キーボードのサポートメンバーやカメラマン、ローディーさんも自然な形で映像に溶け込んでいる。何より4人の飾らない様子が音楽とともに垣間見れ、1人1人をじっくり観察できたし、4人のやり取りも、普段の練習風景を覗き見してるようでワクワクした。
ギターのテツヤさんは、髪型や衣装はトリッキーだけど、1番ノーマルな人なんじゃないかと思う。﨑山さんのドラムは荒ぶってる感じがしない。が、ドラムを叩いて気持ちが荒ぶらないわけはないと思っていて、なんだろう、熱くてスマートな人だなと思う。マサムネさんは変わらない。ほんと変わらない。でも一般的なやさしいだけのイメージを私は持っていない。ロック好きな少年が、そのまま大人になって今もある。って感じ。
知ってる?マサムネさんて自分のこと「俺」って言うんだよ?
いつかの音楽番組で、エレカシの宮本浩次がタモリさんに話を振られ、一生懸命に自分がスピッツの音楽が好きなことを喋っていた。そうしてるうちにスピッツのスタンバイになる。ステージに移動する際、マサムネさんは宮本の前をうつむき加減に通りながらひと言、「俺も好きです」って言ったんだ。宮本は告白された女子のようにキュっと体をすぼめて黙ってしまった。
そういうところだ。草野マサムネは男っぽい。雰囲気とのギャップにズキュンとやられる。
そしてベースの田村さん。1番よく動く。このライブでは比較的大人しかったが、観客がいるライブなんかでは、跳ねたり走ったり、しまいには肝心のベースをほっぽり出したりする。とても好きだ。

さて、肝心の音楽。
セットリストはとても良かった。全部は覚えてないしここには挙げない。
『つぐみ』で始まり、2曲目は私の好きな『冷たい頬』だった。まだシングルCDが細長かったころ、私はこれを買っている。今も道端にシロツメクサを見つけると必ずこの曲を思い出す。
中盤『空も飛べるはず』では、聴き慣れているはずなのに涙が出そうになった。なんだろうあの感じ。上手く言葉にできないのがもどかしい。マサムネさんの声なのか、メロディなのか、聴いていた頃を思い出す懐かしさがそうさせるのか。あらためてすごくいい曲だ。
『優しいあの子』はここ帯広で草野さんがイメージを湧かせた曲。数年前の朝ドラのテーマ曲だ。この曲を歌うためにこの場所でのライブが行われたと言ってもいいくらい。
『雪風』も今回入れたかった曲らしい。私にはあまり馴染みがない曲だったが、園舎の雰囲気にとても合っていた。
ラストの曲は『運命の人』

♪ 走るぅーはーるかー、こーのほーしの果てまでー

ココロの中で一緒に歌う

これも私の大好きな曲だ。嬉しい。よく歌った曲だ。

バスの揺れ方で人生の意味が
解かった日曜日

『運命の人』

不思議な歌詞だが、初めて聴いた時、
この最初のフレーズで「あ、この歌好きだ」と思った。スピッツは不思議な歌詞が多い気がする。独特な表現。

今回は長くライブでは演っていない曲が多かったと4人が言ってた。そうだったんだね。
「スピッツでしたー」と草野さんが言ってライブが終わり、その後アフタートークやメイキング映像などもあったけど、とにかくライブを一本観終わった充実感と彼らの声と音楽で、まさしく『優しい』気持ちになった。ありがとうスピッツ。会いに来て良かった

今度は生のライブで会いたいな。

そんな思いで外に出た。晴れ間が見えたけど雨はまだ少し降っている。
きつねの嫁入りと言うやつだ。
今日は寄り道せずにまっすぐ帰ろう。
『優しいスピッツ』の余韻に浸りながら。

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