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とても短いお話

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超短編小説。気が向いたら書きます。
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2017年3月の記事一覧

桜の木とおはぎの話

卒業式の日に、各々が思い出の品々を持ち寄り、それを手頃なアルミの箱などに詰め、見栄えの良い桜の木の下に埋める。そして同窓会にでも皆で掘り起こし、大いに懐かしむ。
人々はこれを、タイムカプセルと呼んでいる。

とは言っても、これはもう、半世紀も前の風習である。

テクノロジーが発達し、物質も情報化された今、思い出の品を保管し、また、取り出すことなど、クラウド上で十分に可能となっている。
そのため、タ

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明日の水

雨が降ると、どうにも咳が止まらない。湿気のせいか、低気圧か悪いのか。

雨上がりの帰り道、夜道を歩いていると、自動販売機がペカペカペカペカと光っている。冷えた手を温める為にホットコーヒーを買い、手のひらでコロコロと転がそうかと考える。主張する灯りに近寄り、ドリンクのラインナップを確認する。右上の端に気になる商品がある。水色のラベルには黒縁緑色のゴシック体で「明日の水」と書かれている。350mlで3

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タイムパラドクス治験

■実験■
ようやくタイムスリップの原理が解明された。だが、タイムマシンが実用化されるには、まだ重大な課題が残っていた。
タイムパラドクスの危険性についてである。
本人にどんな影響を及ぼしてしまうのか、世界自体はどうなってしまうのか。
タイムスリップの原理から様々な考察がなされ多くの論文が発表されたが、とうとう確証にはいたらかった。

これは、実験をしなければならない。

□青年□

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タイムスリップ泥棒

男はいつものように全く無駄の無い動きで、アパートの一室に入った。あまりにスムーズな動作のため、端から見たら自分の家に入ったように見えるだろう。

だが、男は泥棒だった。それも凄腕のプロフェッショナル、一流の泥棒だ。

今回の仕事も完璧にこなす予定だ。住民の情報も十分に集めた。32才の独身のサラリーマン。今日は出張で帰らない。趣味は腕時計とアンティーク。良い趣味をしている。独身故に金は有るのだろう。

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