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わたしの世界を開いた「入門書」

古文は日本語で書かれた暗号だった。
教科書に並ぶ文字列からは意味が読み取れない。
ひらがなと漢字が並び、なんとなくわかりそうで、わからない。
いまつかっている単語を見つけたが、意味が違うようだ。
単語も文法も違う。だれが何をしているのかわからなくなる。
ダジャレのような掛詞。暗唱しなさいと練習した動詞の活用法。

古文を習い始めてすぐのころは、まったくおもしろくなかった。

そんな古文に対しての認識を一変させた本がある。
恋する伊勢物語』だ。

この本を読んでくることが長期休暇の課題だった。
本を読むのも苦手だったが、課題は課題。なかば、いやいや読み始めた。

もう10年以上前に読んだから、なかみについての記憶はあいまいだ。
だけど、読んだときの衝撃は、今でも覚えている。
ぼくは、驚いた。笑った。いや、にやけた。

「色恋沙汰ばっかりやないか!! 今も昔も変わらないじゃん!」

『恋する伊勢物語』は、俵万智さんが平安時代の『伊勢物語』を現代語訳したもの。
そこには、恋して、別れて、涙して…憎んで、怒って、復讐して…
いまと変わらないことに悩み、怒り、悲しみ、おどろき、喜んでいる人が描かれていた。
「古文」には、今と変わらない、人の感情が書かれていたことを知ったのだ。

あの暗号のような文章に、そんなことが書いてあるなんて、知らなかった。

そのことを知った瞬間、古文が一気に好きになった。

「古文」が、受験に必要な克服すべき「問題」から、
人の営みが描かれた「おもしろい物語」に変わった。

「どうにか、この人たちの関係性と、なぜこうなっているのか、なにを感じているのかを解き明かしたい」
暗号のようだった文章を少しずつ読み解いていくと、だんだんと、人間関係と、それぞれの思惑や感情が見えてくる。
思春期の下世話な気持ちもあって、「解読したものだけがわかる、人の営み」としての古文に喜びとおもしろさを感じるようになった。
単語や文法を覚えるのは苦労したが、授業もテストの問題も、どれもおもしろかった。楽しく勉強ができた。

高校生のときのこの発見は、まさに、人生を変える大発見だった。
『恋する伊勢物語』は人生を変える「入門書」だった。
古文への認識が一変した。
過去に生きた人と、いまの自分のつながりを発見できた。
苦手だったものでも、好きになることを知った。
世の中には、まだ知らないおもしろい世界がたくさんあることを知った。
世界が広いと知った瞬間、ワクワクした。

1冊の本で、世界の見え方が変わる体験だった。

この本の出会い以降も、たくさんのよい本に何度も出会った。
なにかで失敗して落ち込んだり、不安になったり、
誰かと比べて卑屈になったり、ねたんだり、苦しくなったり、
そんな閉じてしまうような状況のなかでも、
世界はもっと広い もっと楽しめる
と、ぱあっと視野をひろげてくれ、生きる活力をくれた。
そのたびに、もっとこの世界を楽しく生きたい、おもしろさを知りたいと強く思った。

きっと世の中には、たくさんのそういう本がまだたくさんあるのだろう。

世界の広さを教えてくれる本。おもしろさを教えてくれる本。
自分の世界のちっぽけさを知らせてくれる本。
一緒に考えてくれて、まだまだ変われることを教えてくれる本。
新たな世界への切符のようであり、生きる意味と元気を与えてくれる本。

そんな本に、これからも出会っていきたい。

そして、ぼく自身も、仕事を通して、新たな世界への「入門」となる本を届けていきたい。つくっていきたい。



もし、このnoteを読んだ人がいれば、
あなたの一歩を踏み出すきっかけになった本をおしえてほしい。
人生を変えた1冊があったらおしえてほしい。

それを集めたら、すごく素敵な書籍リストがつくれそうだ!





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