マガジンのカバー画像

虚妄の夢と恋

12
詩を集めたものです
運営しているクリエイター

記事一覧

ある冬の日のカーテン

 街路樹の葉がようやく紅葉して舞い落ちている。まだパーカー一枚羽織っただけで十分な気温に疑問を感じながらも午後五時には空が真っ暗になるから、【やはり冬なんだなあ】と実感するにはそれだけで、いいようなよくないようなで迷ってしまう。落ち葉の葉一枚一枚の葉脈だけ荼毘に付した後の骨のようにまばらに残っている。それがまるで黄色いレースのカーテンのように歩道に敷きつめられているので、私はふと、このカーテンを開

もっとみる

美しい風景を探して

美しい風景を探して

美しいものがいい なんでもいいから
部屋から飛び出した
小雨が体を囲う
マイナスイオンの香り漂(ただよ)って
      ああ美しいな
本屋に向かう
整頓された本棚 
平積み 短冊(たんざく)置き あいうえお順
印刷の香り漂(ただよ)って
      ああ美しいな
スーパーに行く
見慣れた景色 安売りの値札
試食販売の香り漂(ただよ)って
      ああ美しいな
帰り道

もっとみる
なにくそ!

なにくそ!

ゴミだのクズだの言われてもいいんだ
私は価値のある人間だと信じているから!
そのために他人の承認などはいらない!

自分は自分、他人は他人なんだ
私は誰に何を言われても生きてきた
これからも寿命尽きるまで生きる

誕生日おめでとう!
誰も祝ってくれない、みんな自分の記念日ばかり祝って欲しそうにする
私は嫌われ者だけど自分のことが好きだよ

それでいいんだよ、それで
最後に頼れるのは自分だけ!
それ

もっとみる
運命を感じてる

運命を感じてる

心配させて不安を取り除いてもらうことで愛情を感じていたいの
私のことが嫌いになるのは当たり前だから
死にたいなら死んでもいいと私の意思を尊重してくれる気持ちに驚く日々

誰かのためにしていることはすべて自分のためだということは分かってる
誰かが私にしてくれていることはその人自身のためだということも知ってる
「あなたのためだけに!」なんて詐欺師の手口に惑わされるほどウブじゃない

何かが私に侵入して

もっとみる
失恋5

失恋5

意気地なしの花びらが言えないことを乗せて君の唇に触れている
話かけられたことすべて肯定か否定かで判断するなんて
あいまいな結末を望まないのは自殺しようとしているようなものだよ
いつだって君にとって春は燃え尽きた冬の屍でしかないから埋めてしまおう
地中から芽吹くのは新しい命かもしれないけど道化師は空から落下するだろう

心も身体も踊る広場で目を交わせば始められたかもしれない
心も身体も眠る個室で目を

もっとみる
失恋4

失恋4

死んでほしいと願えないくらいに
愛と交換しながら君を想っている
傷つくから言わないようにしてほしいという言葉を知るたびに
優しい人以外になれない理不尽さを君は分かっていない
その理不尽さを、かわいいと思えたなら、
私のことを、かわいいと、思ってくれただろうか

君のことを100%否定する言葉を持てるだけ
一緒にいられたならよかったのに
君のことを100年かけて嫌いになるほど
一緒にいられたならよか

もっとみる
失恋3

失恋3

濡れない雨に乾かされて重くなる服を脱いだ
ふたりで傘をさして歩く夢は寝言のようだ
あなたの眼差しは温かいが床は冷えている
わたしの震えは予感だったのかもしれない

黒い雲に青い空が抵抗することはできない
ふたりは空を飛べたなら大地に抵抗できた
あなたの青い空を信じていたが黒い雲を数えた
わたしの黒い雲は測れなかった

数えることはまるで愛を失うための儀式のようだ
愛するためにはなにもかも数えてはい

もっとみる
失恋2

失恋2

私は嘘つき
それは真実を知っているから
嘘をつける

嘘がばれたとしても
真実はばれないから
嘘をつける

みんな真実なんて望んでいない
嘘つきの私を嫌悪して
乾杯なんてしている

みんな優しいのね
だから特別に
教えてあげるわ

彼の愛を失ったことが真実
言われてみれば納得するでしょう

失った愛を私が失うために
彼の愛を求め続けた
彼もみんなのように私を嫌悪した

私はようやく失うことができた

もっとみる
失恋

失恋

失恋はけっしてふたりがバラバラに散ることではない
失恋はふたりの最後の共同作業なのである

明るく振舞いあって
幸せだと言いあって
楽しげに歌おう

別れの悲しみを抱えているふたりにとって
失恋した者は失恋した者としての演出をこらす

別れ続けるふたり
失ったものを失うために求めて過ちを繰り返したこともある

頬を伝う雫が絶え間なく流れ出て
言葉でない言葉が口から漏れ出る時

怒りや憎しみや恨みや

もっとみる
トイレ

トイレ

トイレを我慢して日が暮れる
トイレを我慢できずに夜が更ける

トイレを我慢して陽が昇る
トイレを我慢できずに席を外す

トイレは大事です
我慢したくないなあ

恋をしてきてよかった

恋をしてきてよかった

片想いすらしたくない
そう言って君はすっかり諦めているけれど
時は過ぎて思い出は色あせていくから
立ち止まって時に振り返っても
きっと前に進める日は来るから
ひとりじゃないよ 元気を出して
ずっとそばにいるから

感謝も謝罪も必要ないよ
すべては君の期待通りに進んでいるだけだから
良いも悪いも関係無いよ
すべては君の願いが美しくあればいいだけだから
罪も罰もあってもいいよ
すべては原始から続く人類

もっとみる