今日のハチミツ、あしたの私|読書感想
読書感想をまとめてみました。寺地はるなさんのハルキ文庫作品。3年前に初めて読んでから先日、再読したものです。
日常系の長閑な雰囲気で進行し、蜜蜂の習性や養蜂の仕事にまつわるトピックも盛り込まれています。ちょっと突飛な状況に主人公が追い込まれたり、それに内心ツッコミ入れたりして、クスッと笑える描写が読んでいて心地イイです。やっぱり、この作品好きだな。
温かい大人の成長譚|あらすじ
些細なきっかけから孤立していた中学生の頃、見知らぬ女性に蜂蜜の瓶と温もりをもらって成長した碧(みどり)。あれから 16 年、付き合って長いものの結婚すべきかどうか悩むような頼りない恋人である安西と、彼の故郷に帰り、とあるきっかけから養蜂の手伝いを始めることになる。
蜂蜜園の主である黒江(くろえ)や朝花(ともか)、三吉やあざみさんなど、さまざまな人と出会い、蜜蜂の姿に自分自身を重ねて成長していく。
養蜂を通して気づく心模様
碧に変化が見えてくる
子どもの頃に比べれば、大人になって多少生きやすくなったとはいえ、周りの環境や恋人の顔色を伺って、言いたいことや伝えるべきことを飲み込んでしまう。
こんなふうに友人に諭されていた碧が、物語が進むにつれ逆に自然に他の人にそう伝えられるようになっていく。まるで1枚のイラストがゆっくり変化していって「果たして一体どこが変わったでしょう?」と問われて閃くアハ体験ゲームみたいで、劇的な事件は起きなくとも、確実に小さな「気づき」を与えてくれる。
物語の最初と最後で違った印象を抱く成長の振れ幅に胸を打たれる。
安西は面倒くさいけれど
「自分より苦労している」とか「自分より下だ」と思えるとどこかホッとしたり、頼ってもらえれば優越感にも浸れる。だから逆に、上手くいかずにもがいている自分と対照的に、活発で生き生きとしている姿を見せられると面白くはない。露骨に子どもじみて序盤からイラッとさせられる恋人の安西だけど、自分にも思い当たる節がないこともないなと思うと、その心情が少しわかる気がした。
自分の居場所とは
「自分自身を変えてみたい」とか「こんな仕事してみたい」と思いつつ、今まで得てきた経験や積み上げてきたキャリアなんかがあると、なかなか人って生活をかけた新しい挑戦に手を出しづらい。すべて失ったからこそ踏み出せる一歩ってホント力強い。
これがきっかけで碧を取り巻く環境が変わっていき、周囲の人間と対比した自分自身の問題にも気づきながら、少しずつ居場所を開拓していく。最初は流されてたどり着いたかもしれないけれど、確実に碧の能動的な行動が活きている。