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【書評】『女のいない男たち』、村上春樹の雨
わたしはいわゆるハルキストではないが、ここ10年の間に刊行された村上春樹の新作はいつも自然に手に取り
家の書棚に並んだあとで、基本的に何度も読み返すことになる『再読に耐えられる』棚に移ることになる
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『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』も、『騎士団長殺し』も、『海辺のカフカ』も
それら長編ではなく、短編集で最も好きなのが『女のいない男たち』に収められている『木野』という作品だ
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妻に去られた男が、東京の根津美術館の裏手でひっそりと小さなBARを営み、その店を訪れる客は常に何か不思議な気配を纏っている
店で何かが起こる日は常に雨に降りこまれ、それは音の無い静かな雨だったり、身にまとわりつくような執拗な雨が多く、店内ではいつも古いジャズレコードが小さな音で流れ・・・
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裸電球しかない殺風景な部屋で身体にタバコを押し付けられた痕の残る女を抱き、ワインはカリフォルニアのナパ
店の庭先の柳が垂れて、禍々しい色の蛇が木野の目に入り出した頃に、長身で坊主頭の常連に不吉な宣告を受けて、木野は店を一時的に閉め、南への旅を始め、そこから白紙のポストカードを、店の建物を提供してくれた叔母に出し続ける・・・
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妻に去られた喪失を、喪失として受け止めなかった木野に対する、反自然性のような心の在り方に、見えない何かがまるで雨と共に木野を追いかけ続け、木野はそれを視認することも感じることもできずに、金で買った若い女の肉を抱き、小さなビジネスホテルの窓の雨だれを見つめ続ける
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村上春樹特有の日常と非日常が混じり合う独特の世界観に、夜のように静かに降り続ける雨が、読後には雨の匂いのようになって鼻に残り続ける不思議な短編
短編だが、長大な物語を読んだような質量感