③オンライン大学院生!ロンドンメトロポリタン大学 会議通訳修士課程で学ぶ
こんにちは!
前回に引き続き、ロンドンメトロポリタン大学の会議通訳修士コース、前期モジュールについて書いてみたいと思います。前期は10月〜1月の12週間です(間にクリスマス休暇が入る)。そして1月の最終週に、前期修了試験がありました。これもオンラインで行われました。
逐次通訳のスタミナを鍛える
前期は、逐次通訳のモジュールを2つ履修しました。私の場合①英語→日本語と、②日本語→英語の逐次通訳です。この二つのモジュールの最終目標は「6分間」のスピーチを止めずに聞いて、通しで逐次通訳ができるようになることです。これは、EU本部や国連の専属通訳者になるための選考試験と同じ方法なのだそうです。残念ながらEUや国連の公用語に日本語は含まれていないため、現時点で日本語の専属通訳者の採用はありません。しかし、この不可能に思えた「6分間の通訳」を目指すトレーニングは、何にも替えがたい貴重な学びとなりました。
まず、このモジュールで徹底的に鍛えられるのが逐次通訳の「スタミナ」です。スピーカーが6-8分話し続ける間、ひたすら聞き、それを後にまとめて訳出していきます。この過程でメモ取りはもちろん、記憶力、分析力、集中力をより長く持続できるよう、スタミナをつけていきます。初期の授業では、メモを取らず記憶力だけで短い内容を訳すことから始まります。回を重ねるごとに、少しずつスピーチの時間が長くなっていき、メモを取る量も多くなっていくよう、巧妙に授業が進められていきます。私はこのトレーニングを通じて、今まで何となく行ってきた自分の逐次通訳と徹底的に向き合わされることになりました。
徹底した分析
毎回、自分の訳出を録音して聞いてみると、必ず課題が見つかります。そこで「なぜ私はそれができていないのか?」という問いかけを、一つ一つ徹底的に分析していきます。例えば、「フィラー(言葉に詰まった時や、発話のあいだに入ってしまう不要な声)」が気になったとします。私はそれまで、フィラーの原因を単純に「瞬時にいい訳が思い浮かばないから」だと思っていました。でも、会議通訳修士コースでは、それをもう一段掘り下げてみる作業が求められます。すると、「メモが解読できない」「その前の箇所の失敗に引きずられている」「実はスピーカーの意図が理解できていなかった」「記憶があやふやだから」と、場合によって複数の原因が見えてきます。そこから、各々の原因に分けて、ひとつずつどうしたら改善できるか?対策を考えていきます。そして次回の訳出の時に、その改善策を実行してみます。この「訳出・分析・対策」をセットで進めていくことは、授業の中で繰り返し実践されます。
私は、その時間がかかる作業を通して、今までごちゃごちゃに何でも入れていた引き出しの中の物を、一つ一つ整理していくような感覚がありました。ここまで長いスピーチを止めずに聞きメモを取る集中力を養うこと、演習の量をこなしそれを丁寧に分析することは、一人では絶対にできなかったと思います。このような授業の密度は、オンラインでも十分すぎるほどの満足度でした。
量をこなすこと
ロンドンメットの授業は非常に実践と演習に重きを置いています。かなりの量をこなさなければならないのですが、そのメソッドを信じて進んでいくことで、ある日ふと、以前とは全く異なるアプローチでスピーチを聞き、メモを取っている自分に気がつきました。特に、聞きながら前後の関係性を「分析」するようになり、それをすることで、メモの取り方がガラッと変わりました。すると、自然とより多くの記号が使えるようになり、また脳内により鮮明な記憶が残るようになりました。ちなみに、私は逐次通訳はiPadでメモを取っています。スタイラスペンと、Notabilityというアプリを使用しています。実際の逐次通訳の仕事の時は、iPadだったり紙のノートだったり、場合によって使い分けていますが、授業と練習の時には、ずっとiPadを使用していました。その利点は、以下の4点です。
1. 練習したメモを整理して保存しやすい(後で書き込みして分析するとき便利)。量が多くなってもバラバラにならない。
2. 紙の無駄にならないため、遠慮なくどんどんメモ取り練習できる。
3. 自分のメモをPDF形式でアップロードして素早く共有できる(講師の先生に指導してもらいやすい)。
4. Notabilityで「Note Reply」という機能を使うと、「音源スピーチ録音」と自分の「メモ取りを録画」が同時にできるので、後から再生して分析できる(例えば、スピーチのどの部分でメモが遅れたか、何を落としたか、それはなぜか?など)。
オンライン遠隔通訳のために
オンライン授業の話に戻ります。授業では、学生が発言する時や、訳出の際の音のクオリティを厳しくチェックされます。マイクに雑音が入る、マイクが口に近すぎる、口の音がうるさい、声を張りすぎる、小さすぎる、など非常に高いスタンダードで一人一人に細かい指導が入ります。Wifi環境や、マイク付きヘッドセットの選び方、周囲の騒音のマネジメントなど、遠隔通訳の基本を授業の中でしっかり学ぶことができます。これらは、実際のオンライン遠隔通訳案件でお客様に提供する「サービスの質」に直接関わることだからです。
コロナ禍以前、会議通訳者の仕事は、会場にある言語ごとの個別「ブース」で行われており、テクノロジー面のサポートも提供されるのが一般的でした。しかし今は、個々の通訳者が在宅で遠隔通訳を提供する案件がほとんどです(少なくとも、私個人は昨年3月以来、ずっと遠隔通訳案件のみで、まだ対面案件が照会されたことはありません)。そして、仮にコロナ禍が収束し、対面通訳(または実際に会議場のブースで行われる通訳)が戻った後も、遠隔通訳は引き続き利用されるだろうと予測されています。そのため、通訳者が使用するPCやタブレット、マイクやヘッドフォンのクオリティは、通訳者自身で責任を持つことが求められます。今期のロンドンメットでは、その現状を踏まえた指導が行われています。
次回は、モジュールごとに毎週出される課題について書いてみようと思います。
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