臨機応答・変問自在/森博嗣#6

小説家であり工学博士、元名古屋大学助教授にしてミステリィ作家「森博嗣」。

「小説が売れに売れて大学で教員をするのが馬鹿らしくなって辞めた人だよ」

わたしの夫は、森博嗣をこう説明してくれた。ちなみに夫は森博嗣のファンである。

森氏も「金になることをしようと考えて小説を書いた」と、ある書籍にも書いている。

一風変わった彼が名古屋大学助教授の頃、学生に質問させることで出席をとり、その質問に自身が答えたプリントを配布するという授業を何年間も続けていた。
「成績は質問の内容でつける」と学生に毎回質問させ、本書はその質問事項と森氏の回答をまとめたのがこの本である。

「質問をさせる」ということは理解度を評価するとともに、自主性や創造性などを高めるためである。授業内容に関連するもの以外に、たわいないものから、科学、雑学、人生相談など学生の質問はバラエティ豊かだ。

それに対する著者の回答はやや突っ慳貪であるがユーモア溢れている。彼の質問に対する答え方の基本的なテクニックをこう述べている。

①情報を問う質問には、情報が存在する範囲で答え、その情報を得る方法を教えれば良い。

②意見を問う質問に関しては、意見を誇張してずばり答えるか、あるいは、その意見を問う理由、意見を一つに絞らなければならない理由、を問い返す。

③人生相談、あるいは哲学的な質問に関しては、まず定義を問い返す。

④個人的な質問に関しては、ある面は誇張して答え、ある面はかわす。

⑤自分で解決しなければ意味がないことを気づかせる。

勉強とは基本的に自分の外側にあるものを吸収し、外の情報を自分の頭脳の中に格納するインプットである。
しかし、人はどう答えるかではなく、何を問うかで評価される。会話の中で、議論の中で、何が不足しているのかを常に意識し、それを的確に把握して質問をする能力が重要であり、つまり問題を考える行為に集約される、と著者は冒頭に述べている。

「森助教授VS理系大学生 臨機応答・変問自在」が正しいタイトルだと個人的には思うのだが、第二弾も発売されている。

 第二弾ではネット上で募集をかけて集まったジャンルを問わない質問に、著者が鮮やかに答えていく。
しかし、質問する側は、大概は森氏のファンで自分のことをアピールしたり質問に答えてもらおうと長くまわりくどい説明がついた質問が多い。
その点では第一弾の大学生の率直な質問の方が読み応えがあるように思う。

 僅かな例外を捉えて報じられることが全体ではなく、ものごとを客観的に見る目を子供には持ってほしいという著者の想いが、痛快な回答に込められている。

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