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“成長を後押しする“人事制度の「運用方法」

本記事は、私が考える人事制度(等級・評価・報酬)の設計方法&運用方法の三部作、最後の記事になります。
なお、三部作は以下のようになっています。

  1. 【設計】フレームを使った「人事制度(等級・評価・報酬)」設計方法

  2. 【設計】人事制度(等級・評価・報酬)設計- 運用に向けての検討事項 -

  3. 【運用】“成長を後押しする“人事制度の運用方法 →本記事

三部作、最後の記事である本記事では“成長を後押しする“人事制度の運用方法について説明していきます。
まず、「人事制度は運用が重要」と言われますが、それはなぜなのかを説明していきます。


人事制度は運用が重要とは?

私も「人事制度は運用が重要」と考えていますが、何が重要かというと2つあると考えます。

まず1つ目が“運用できること”が重要ということです。
人事制度の設計段階で陥りがちな罠が「これにも対応できるようにしよう」とドンドン制度を複雑にしてしまうことです。
フレームを使った「人事制度(等級・評価・報酬)」設計方法で述べたように、人事制度はきちんと機能させるための運用のしやすさと、制度改定のしやすさを考えて、“シンプルにすること”が鉄則です。しかし、複雑かつ評価項目が多すぎるなどして、運用が回らないといったお悩みをお聞きすることも多いです。
事業戦略の実現のため、「求める人材」を明確にし、「求める人材」を採用し、育成し、評価する。「求める人材」に必要な能力や行動を発揮してもらうことが人事制度導入の目的だったはずが、いつの間にか評価手法ばかりに目が向いてしまっていたりすると陥りがちな罠です。

2つ目が“納得感につながる”運用方法が重要ということです。
せっかく良い制度をつくっても、納得感ある評価にならないと退職リスクが発生するなど人事制度の導入・改定が逆効果になることがあります。
人事制度の重要な要素として「透明性」「公平性」「納得性」がありますが、評価時期に評価するだけでなく、期中を通じて評価基準にもとづいた観察・確認→指導・育成を実施することが“納得感につながる”運用方法です。

人事制度の重要な要素「透明性」「公平性」「納得性」

運用方法からは少し逸れますが、人事制度の重要な要素である「透明性」「公平性」「納得性」について説明します。

人事制度が社員のモチベーションを高め、“成長を後押しする“ためには「透明性」「公平性」「納得性」が重要です。

「透明性」に関しては、フレームを使った「人事制度(等級・評価・報酬)」設計方法で「評価基準は必ず開示してください!」とお伝えしましたが、そのままです。

「公平性」に関しては、まずどの社員も同じ基準やルールに基づいて評価されていることが重要になります。具体的には部署/職種毎に評価基準や目標の難易度が大きく異なっていたりすることなく、適切性があることや、どの社員もルールに即した評価プロセスで評価実施されていることなどが挙げられます。
また、実際の評価の内容についても、どの評価者でも同じ評価基準で評価ができることや、評価すり合わせ会議(キャリブレーション)によって、上長によっての評価の甘辛を極力無くなるようにすることが重要です。

「納得性」に関しては、どういった基準で評価・育成されているのか、評価者である上長もメンバーも同じモノサシをみているから納得感が高まるということを、これもフレームを使った「人事制度(等級・評価・報酬)」設計方法でお伝えの通りです。
ただし、本記事でお伝えしたい納得性は、納得感を高めるためには「評価は評価のときだけ行うのではなく、通期を通して行うことが重要」ということです。

なお、上記スライド(画像)の右側には、組織的公正という理論を載せていますが、公正性の認知へ影響を与えるものとして分配的公正と手続き的公正の2つを挙げてあります。
分配的公正というのは、分配された報酬や決定された事柄に対して個々が感じる正しさ、つまり、評価結果の納得性であるといえます。一方、手続き的公正というのは、報酬が分配されたり、決定がくだされたりするまでの、手続きや過程について個々が感じる正しさ、つまり、評価方法・プロセスの公平性のことだといえます。
この組織的公正の観点からは、人事制度の「透明性」「公平性」「納得性」は、公正性の認知が、職務満足やパフォーマンス、愛着的コミットメントなどに影響を与える(高尾,2019,p.162)という点において非常に重要だと考えられます。

評価は通期を通して実施

前述のとおり、納得感を高めるためには「評価は評価のときだけ行うのではなく、通期を通して行うことが重要」なのですが、評価は通期を通して行うとはどういったことなのかを説明していきます。

評価は通期を通して行うというのは、期初にメンバーと一緒に目標(成果目標・行動目標)を設定して、期中は目標達成のための具体的行動を観察・確認して、指導・育成を行う。そして最後、期末(翌期初)に評価を行うという一連のプロセスが、“評価”というものの全容であって、評価の納得感を高めるためには、評価といっても期末(翌期初)にだけ実施すればよいというわけではないということです。

なぜ通期を通じて評価を実施することによって納得感が高まるかというと、例えば何か改善が必要なことを、評価時に初めて指摘するよりも、期中にその事象が発生した際、適宜、改善点を指導・育成していった方が「いつも言われているものだ、、」「確かにまだ安定的にできるようになったとはいえない」など、評価への納得感が高まるからです。
逆に、褒めるや承認も同じです。評価時に初めて思ってもいなかった点で褒められたら、嬉しいとは感じるかもしれませんが、「なぜ今さらそれを…?」と納得感はないかもしれません。
このあたりは本記事の後半で納得感のつながる方法を詳しく説明していきます。

良くない評価者

評価は通期を通して実施することが納得感を高めるために重要なのですが、残念ながらそれができない上長の方もいらっしゃいます。

その一例がこの上記スライド(画像)です。
期初の目標設定はしっかりやっていてよいのですが、期中の観察・確認→指導・育成をやらずに、期末の評価に入ってしまっています。
これはかなりのBadパターンで、どのような行動をしたか確認していないため「なぜこの評価なのか」という疑問に対して、納得する説明ができません
また、評価の時に初めて改善点を指摘して「なぜその時に言ってくれなかったんですか、、」というクレームとともに、上長への不信感が発生してしまい、上長・メンバーの関係性は非常に良くない状態に陥ります。
このケースは最悪、退職者が発生するなど、人事制度が逆効果になる代表例です。

ただ、特にベンチャー・中小企業のマネージャーはプレイングであることがほとんどで、やりたいとは思っていても自分の業務だけで忙しすぎて、期中の観察・確認→指導・育成ができないということが起こりがちです。
こういった場合、後ほど説明する、月次面談を最低限実施するだけでも、納得感はかなり高まるので、日々の観察・確認→指導・育成が難しかったとしても月次面談だけは実施することをオススメします。

期中の観察・確認 → 指導・育成が一番重要

良くない事例で起こりうるネガティブな事象をイメージされるとよくわかると思いますが、“納得感”につながる人事制度の「運用方法」で一番重要なのは期中の「期中の観察・確認 → 指導・育成の実施」です。
そして、“納得感”があるからこそ、人事制度が“社員の成長”を後押しします

上記スライド(画像)は、人事制度(等級・評価・報酬)設計- 運用に向けての検討事項 -で、モチベーション理論の観点から「行動評価」と「成果評価」の両方が必要な理由を説明した際のスライド(画像)ですが、社員の“成長実感”は、内発的動機づけにつながる点においても重要です。

有能感は実際の行動に対して評価基準に基づいた肯定的なフィードバックを行うことで得ることができると考えられ、自律性はネクストアクションを自分で決められるといったことで得ることができると考えられます(いずれも社員が統制されているという感覚にならないように注意)。
肯定的なフィードバックとネクストアクションを自分で決めることが期中を通じて実施されることで、社員は成果結果によるものだけでなく能力や行動(コンピテンシー)に対しても“成長実感“が得られ、内発的動機づけにつながると考えます。

人事制度(等級・評価・報酬)設計- 運用に向けての検討事項 - より

有能感につながる肯定的なフィードバック、自律性につながるネクストアクションを自分で決めることが期中を通じて実施される場こそ「期中の観察・確認、指導・育成」の場ですから、社員が“成長実感”を得て内発的動機づけにつながるようにするためにも「期中の観察・確認、指導・育成」はとても重要だといえます。

評価は通期を通して行うのですが、通期を通して評価を行うとは、評価は評価の時だけ実施するものではないということと同時に、評価全体のプロセスである「目標設定」⇒「観察・確認→指導・育成」⇒「評価」が通期の期間を通して実施されるからということでもあります。

次からは評価全体のプロセスである「目標設定」⇒「観察・確認→指導・育成」⇒「評価」について、それぞれのプロセスにおけるポイントを説明していきたいと思います。

【目標設定】行動目標→行動評価 / 成果目標→成果評価

まず評価を実施するにあたっては、その評価期間においてゴールとなる目標を設定する必要があります。
目標の達成に向かって日々業務に取り組んでいるメンバーに対して、「期中の観察・確認、指導・育成」を行うわけですから、目標設定は評価全体のプロセスのなかでも非常に重要です。

なお、人事制度(等級・評価・報酬)設計- 運用に向けての検討事項 -で、モチベーション理論の観点と、行動評価(コンピテンシー)評価の評価基準はそのまま育成の指標となるという観点から、「行動評価」と「成果評価」の両方が必要と説明していますが、「行動評価」と「成果評価」両方の評価を実施するのであれば、「行動評価」に対しては「行動目標」を、「成果評価」に対しては「成果目標」を設定することが必要になってきます。

【目標設定】目標設定のポイント 実務と理論

目標設定のステップとしては、まずメンバーと一緒に会社の目標・所属組織の目標を確認しましょう。メンバーの目標はこの組織目標や会社の目標につながっていないといけません。
そして、そのメンバーの強み・弱みも踏まえたうえで、期待役割を考えます。その後、具体的で、測定可能で、達成可能な、妥当で、期限がある目標をメンバーと一緒に設定します。上長からの一方的な目標の通知はダメです。
重要なのはメンバーに考えてもらうこと、それがメンバーの自律性にもつながります。ただし、メンバーが考えた目標通りでいいのか、修正するのか、目標設定面談を実施して、最終的には上長とメンバーとですり合わせで決めてください。

なお、成功する目標設定5つのポイントとしてSMARTの法則(Doran,1981)が知られています。
また、SMARTの法則ではないのですが、理論に目標設定理論というものがあります。簡単に言うと、目標設定は、「少し難しい」がポイントということです(高尾,2019,p.160)。

実際、評価運営を長く経験していると、SMARTの法則による目標設定の大切が身に沁みてわかります。それは、評価納得感の要素として、何がどうだったら良い評価になるのか、逆に悪い評価になるのか、上長・メンバーともに認識の相違なく評価できるかが重要であるからです。

SMARTの法則の5つのポイントなかでも、「具体的で」、「測定可能で」、「期限がある」の3つがしっかり抑えられた目標になっているだけでも、評価に対する認識の相違が発生することはほとんどなくなります。
ただ、認識の相違が発生することがほとんどなくなるだけで、評価に対する納得感という点では、残りの2つ「達成可能な」「妥当で」が重要となってきます。
SMARTの法則は評価に対する認識の相違をなくしてくれるだけでなく、評価納得感に繋げることもでき、必ず抑えてほしい目標設定のポイントであるといえます。
結論、目標設定はSMARTの法則に則ること、また、難易度は「少し難しい」目標にするようにしましょう。

目標設定のポイントは上記のとおりですが、成果目標と行動目標について、具体的な設定方法を説明していきます。

【目標設定】 成果・KPI目標(例) / 評点基準(例)

まず、成果目標ですが、これこそまさにSMARTの法則に則ること、また、難易度は「少し難しい」で設定するようにしましょう。成果や結果は定量的で測定可能であることが多く、SMARTの法則での目標設定がしやすいです。
また、成果目標は基本的に自らの頑張りが直接影響する指標にするということがポイントです。

例えばインサイドセールスチームの成果目標に新規顧客獲得数などが入っているケースなどがありますが、インサイドセールスチームが獲得したアポの質によって新規受注につながるかどうか結果が変わるので、入れたい気持ちは理解できます。
しかし、新規顧客獲得はやはり実際にお客様と商談するフィールドセールスチームのメンバーによる営業力の方が結果に対する影響は大きいと考えられます。アポの質が良くても、営業力の問題で新規顧客獲得に繋がらないということも考えられます。
その場合、インサイドセールスチームのメンバーの成果目標に新規顧客獲得数があって、結果、目標未達成だったら納得感もないでしょうし、不満につながり、組織間やメンバー間の関係性も良くない方向にいってしまう恐れがあります。
インサイドセールスチームの成果目標に新規顧客獲得数を入れるのは絶対にダメということではなく、納得感や「さらに頑張ろう!」という動機づけに繋げるため、まずは自らの頑張りが直接影響する指標にするようにしましょう。

なお、スライド(画像)には、成果目標は具体的どういった指標を設定すればよいか、いくつか例を挙げておきました。また、絶対評価で評価を行った場合の具体的な評点算出例も右側に記載してあります。ご参考にしてください。

【目標設定】行動目標 育成計画書(例)

次に行動目標ですが、行動目標を設定するにあたって、やらなければならない重要なことがあります。
それは、育成計画書を作成するということです。育成計画書とは、行動目標の根拠となるそのメンバー個人に対する育成の全体図のことです。そして、育成計画書には作成の順番がありますので、それを説明していきます。

まず、前述の目標設定のポイントのとおり、メンバーと一緒に会社の目標・所属組織の目標を確認し、組織目標につながるメンバー個人の目標を設定します。この個人目標は先程説明した成果目標で設定した内容そのままになることがほとんどだと思います。
そして、次も前述の目標設定のポイントのとおりで、そのメンバーの強み・弱みを整理します。
次に、そのメンバーの強み・弱みを踏まえたうえで期待役割を設定にします。この期待役割とは、上長が考えるそのメンバーに目指してほしい姿(上長が求める姿)になります。そして、メンバーに目指してほしい姿(上長が求める姿)に対して現状とのギャップを埋めるためには、どんな知識・スキルが必要で、発揮すべきコンピテンシー(行動特性)は何かを明確にします。

さらに、ここからが重要なポイントで、メンバーにも目指す姿(ありたい姿)を考えてもらうということです。上長と同様に、自分が目指す姿(ありたい姿)に対して現状とのギャップを埋めるためには、どんな知識・スキルが必要で、発揮すべきコンピテンシー(行動特性)は何かを考えてもらいます。

上長が考えた目指してほしい姿(上長が求める姿、期待役割)を一方的にメンバーに提示して目標に向かって頑張ってもらうのではなく、メンバーにも目指す姿(ありたい姿)を考えてもらい、メンバーと目指す姿をすり合わせて、結果、どういった行動目標を設定して日々の業務に取り組んでいくかを合意のうえで、その期をスタートすることが何よりも重要になります。
それはなぜかというと、前述にあるとおり、内発的動機づけには自律性が最も重要だからです。自分で決めたことに対してはモチベーション高く頑張れます。
会社・組織の目標につながる上長が求める姿と、メンバー自身がありたい姿が重なっていればいるほど、モチベーション高く組織目標にも自身の目標にも向かえるという点で、組織とメンバー本人にとって最良な育成計画(メンバー視点では自己成長プラン)になるといえます。

次に上長が求める姿と、メンバー自身がありたい姿になるために、必要な知識・スキル、発揮すべきコンピテンシーをこれも上長、メンバーそれぞれで考えます。
ただし、発揮すべきはどういったコンピテンシーにするかは、フレームを使った「人事制度(等級・評価・報酬)」設計方法でご説明した会社が人事制度上で定めた求める人材に発揮してほしいコンピテンシーから選ぶようにします。最終的には求める人材に発揮してほしいコンピテンシー全てにおいて行動目標を設定するようにした方がよいですが、ここでは上長が求める姿、メンバー自身がありたい姿それぞれに対して特に重要なコンピテンシーにフォーカスしても問題ありません。

そして、上長が求める姿と、メンバー自身がありたい姿になるために、必要な知識・スキル、発揮すべきコンピテンシーを考えたら、上長はメンバーと一緒に、成果目標と同様「いつまでに何をどうする」というように、SMARTの法則に基づいて具体的な行動目標を設定するようにします。

最後に。育成計画書で重要なポイントがあるのでお伝えすると、それは、上長が求める姿と、メンバー自身がありたい姿にギャップがある場合、そのギャップも上長とメンバーとで共通認識を持つということです。
意外とこのギャップを明確にしないままに育成(メンバー視点では自己成長)に取り組むと、上長が求める姿、メンバー自身がありたい姿、それぞれに向かって進んでいる気がしないとか、何かモヤモヤした状態が続くといったことになりがちです。

もちろん、育成計画書は上長が組織目標の達成を最優先とし、上長が求める姿を設定しつつも、メンバーがありたい姿にも向かっていけるように、メンバーと目指す姿すり合わせて、行動目標を設定するのですが、どうしても重ならない部分=ギャップもでてくると思います。
そのギャップは何なのか、上長とメンバーで共通認識を持ち、ギャップに対してただの考え方の違いや理解しあえない点ということで終わらせるのではなく、前向きに今後そのギャップはどのように対応していくのかも話し合っておくようにしましょう。
ギャップのようなことも含めて、上長とメンバーとで共通認識を持ち、理解しあえている状態にすることこそが、育成(自己成長)において、最も大切な関係性の土台になるものだと考えます。

【観察・確認→指導・育成】評価基準に基づいた月次面談

目標設定の次は、人事制度の「運用方法」で一番重要な「期中の観察・確認 → 指導・育成の実施」について説明していきます。

結論からお伝えすると、「期中の観察・確認 → 指導・育成の実施」は月次面談の実施によって自ずと実施されます。 もっとわかりやすくお伝えすると、極端ではありますが「期中の観察・確認 → 指導・育成の実施」は月次面談さえしっかりやっていれば大丈夫です。

では、月次面談では何をするかというと、上記スライド(画像)にあるようなシートを用いて、成果目標に対する定量的な数字の進捗状況、およびフレームを使った「人事制度(等級・評価・報酬)」設計方法でご説明した会社が人事制度で定めた求める人材に発揮してほしいコンピテンシー=評価基準それぞれに基づいて設定した行動目標に対して、月次でメンバーにgood(よかった点) & more(改善点)を振り返ってもらい、next actionを決めてもらいます。
そして、上長はそのgood(よかった点) & more(改善点)の振り返りを確認して、成果目標の進捗に対して褒める/承認・指導をするだけでなく、行動目標の進捗に対しても褒める/承認・指導をします。また、褒める/承認・指導の内容は上長コメント欄にきちんと記録を残しておいてください。
これを月次で繰り返していきます。

なお、育成計画書のパートで、“行動目標を設定しますが、ここでは上長が求める姿、メンバー自身がありたい姿それぞれに対して特に重要なコンピテンシーにフォーカスしても問題ありません。”とお伝えしましたが、月次面談を実施するにあたっては、フォーカスしていなかったコンピテンシーがある場合、そのコンピテンシーに対する行動目標も設定するようにしましょう。
育成計画書で上長が求める姿、メンバー自身がありたい姿に対して重要なコンピテンシーを明確にしましたが、最終的な評価においては、他のコンピテンシーは評価されないというわけではありません。そのため、育成計画書でフォーカスしなかったコンピテンシーに対する行動目標も設定する必要があります。

ただし、行動目標が設定しにくいコンピテンシーもあると思います。例えば「伝達力」の行動目標を“●●の提案書が各ページ結論→根拠になっており、提案書全体では起承転結のストーリーがある”などとした場合、その提案書の良し悪しだけで「伝達力」の評価をつけるのは難しいでしょう。
コンピテンシーは発揮安定性という観点がとても重要で、評価期間を通じて「伝達力」で定めた基準にある行動を安定的に発揮している必要があります。
こういったコンピテンシーは期初に行動目標を設定してもよいですが、設定が難しい場合は、more(改善)の事象が発生した際、月次面談でそのことを取り上げ、次月なのか3ヶ月以内なのか、いつまでにこの課題を改善しようと都度シンプルな行動目標を設定して、期末時点で「伝達力」で定めた基準にある行動を安定的に発揮できるようになっているかどうかで評価するようにします。
端的にお伝えすると、「行動目標が設定しにくいコンピテンシーは、期初に行動目標を無理に設定する必要はありません。ただし、そのコンピテンシーに対するgood&moreは月次で(できれば都度)観察・確認→指導・育成を行い、最終的には発揮安定性があるかで最終評価をするようにしてください。」ということです。

次に、実際の月次面談のコミュニケーションで重要な点を説明していきます。
まず、good(よかった点)の内容が上長としても満足できる/評価に値するものだったら素直に肯定的なフィードバックや承認をすることです。内発的動機づけにつながる有能感を感じもらいましょう。
そして、good(よかった点) & more(改善点)に基づいてのnext actionは自分で決めてもらうということです。
メンバーにnext actionを考えてもらったうえで上長は月次面談に臨みますが、その内容がいまいちだからといって「こうしろ」「ああしろ」と一方的な指示になってしまうことは避けましょう。
next actionが気になるようであれば、「私はこう思うんだけど、◯◯さんはそれに対してどう思う?」と、修正が必要であったとしても最後はメンバー自身で決めたnext actionとなるよう上長は導いていくようにしましょう。なぜ自分で決めてもらうことにこだわるかというと、自律性を高めたいからです。

繰り返しになりますが、有能感と自律性があると“成長実感“が得られ、内発的動機づけにつながります。有能感と自律性はメンバーの“成長を後押しする”人事制度の運用方法においてとても重要な要因といえます。

【フィードバック】納得感のあるフィードバック

最後に、先程説明した月次面談が、最終的に納得感のある評価フィードバックにつながることを説明します。

評価は、期末評価の際にはもう言わなくてもわかっているといった状態が一番理想です
要するに評価時期がきてから、評価結果をどう伝えようか頭を捻り、なんとか納得してもらうように頑張ってフィードバックを行うのではなく、評価時期がきたからといって、そのためだけにわざわざ評価フィードバックをする必要がない状態になっているということです。

これは先程の月次面談を実施していれば実現可能です。
成果評価と行動評価(コンピテンシー評価)、それぞれに対して設定した具体的な目標と評価基準に基づいて毎月、good(よかった点) & more(改善点)の振り返りとnext actionを決める、そしてその内容の記録を繰り返しているわけですから、毎月、評価とフィードバックを行っているようなものです。

評価フィードバックとは、日頃のコミュニケーションの総まとめです
日々の観察・確認 → 指導・育成ができていれば尚良しですが、特にベンチャー・中小企業は上長といえどプレイングであることがほとんどで、日々、メンバーの仕事ぶりをくまなく見ていることは難しいでしょう。
そういった多忙な上長の皆さんであっても、評価期間中にこの月次面談を続けていけば、期末評価時の認識の相違などが抑えられ、上長・メンバーともに納得感ある評価となるでしょう。

人事制度の運用において本記事で触れなかった重要な内容

人事制度の運用において本記事で触れなかった重要な内容に以下があります。

  • 評価方法(実際の評点の付け方、評価理由の書き方)

  • ヒアリング方法(メンバーの自己評価内容に対するヒアリング方法)

  • 評価決定(上長評価→評価すり合わせ会議→最終評価決定の具体的な進め方)

これらに関しては、評価者が実際に評価をつけるために必要な知識やノウハウであり、各企業での評価ルールによるものであったりします。
私はこれらに関して、通常は各企業毎に評価者研修を実施させていただくことで対応しており、本記事でお伝えしたかった人事制度にとって最も大切な“成長を後押しする”人事制度の運用方法とはまた別観点での内容になってきます。
そのため、もし評価方法・ヒアリング方法・評価決定についても詳しく知りたいというご要望があれば、下記お問い合わせフォームからご連絡いただければ幸いです。

参考文献

Doran,G.T.(1981)There's a S.M.A.R.T way to write management's goals and objectives.Journal of Management Review, 70(11),35-36.
高尾義明(2019)『はじめての経営組織論』 有斐閣,160.

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秋元 優喜
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