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最終兵器乳

妊娠〜出産〜育児ほど、ふだんはもっともデリケートとされているものの取り扱いが激変するものもないと思う。

具体的には、子宮卵巣産道乳。これまで生きてきて一応そこそこのシークレットみをもってささやかに秘めてきたものが、明確に、ストレートに、その本来の機能性のみを論点に、表舞台に躍り出ることになる。

妊娠ルートに入ると、圧倒的な「哺乳類としての現実」の前では社会的な価値観などしょせん上澄みであり、元来の動物として臓器の取り扱いはこうなのだ!と思い知らされる。その気圧差にクラクラくる。

そんななかでも、妊娠出産編を乗り越え、育児編に入ると、がぜんフィーチャーされるのは乳だ。

ところで、自分の乳首をぺろんと露出させる。そこから液体がでる。それを吸って生きる生き物が存在する。そいつが常に猛烈に吸い付いてくる。なんて、想像できますか?

そりゃわかっちゃいたんだが、頭での理解とリアルな現象の間には断絶があって、実際目の前にするとこの世のものとは思えない光景でふたたびクラクラした。かわいいコバンザメか?

まぁそりゃ慣れる。恐ろしい真理として、慣れはすべてを飲み込む。

さらに、赤子があまりに吸ってる時に幸せそうなので、それにほだされる。実際、授乳は脳内物質オキシトシンがでるので、母子双方合法的にキマるのだ(ちなみにミルクであってもキマるらしい)。

その赤子の様子といったら。もはや、酔い潰れ、溺れる酔っ払いである。ここまで自分でキマってくれると自己肯定感もあがるというものだ。そりゃ、子と自己の境界をうしなってしまう親も出てくるだろう。

これだけでも乳の存在感は、すごい。

とはいえ、これは前提だ。

乳は、親にとってVS赤子戦における最終兵器である。

いや、兵器というのは語弊があるのかもしれないが、じっさい育児の渦中にいるとそう思わざるを得ない。

さて。赤子との試合で強敵にあがるのは多くの場合「寝ない」である。寝ないだけならまだしも、「寝ない」と「泣き止まない」はほぼセットであり、それは「親が眠れない」をつれてくる。

驚くべきことに、赤子の初期設定には大人なら当たり前の「眠いなら寝る」が搭載されてないのだ。さらに赤子は昼寝もあるので寝かしつけの試合が1日に何回も訪れる…。

寝床に置いても寝ない、抱いても寝ない、トントンしても寝ない、もちろんついでに泣き止まない∞ムゲン…こんな毎日があるあるだ。

そんな、もう試合終了では?と満身創痍となったときに満を持して最後の唯一兵器そしてエースとして現れるのが乳である。

まぁ単純に、授乳すると寝落ちしやすいので「たのんます!!」という願いと共に登板いただくというだけなのだが。このエースがなかったら心と身体がさらにバキバキに複雑骨折するだろう。

とにかく、乳まで出てきてダメならもう一回お手上げして親の回復のため一回無の時間おくし、さすがに試合終了と安西先生も言う。そんな存在である。

何が言いたいかというと、ここまで仕事するんだから、男性の乳首からなんも出てこないのは仕様漏れにもほどがあるということだ。

男性の乳首はただの装飾、アクセサリーである。デザイナーとしては、機能性に反映されない無意味なアクセサリーをインターフェースにつけるなやと創造神に言いたい。もし乳が家庭に二機あればどれほど戦力として機動力がますか!

ああ。赤子をみてると、人間の最も原始な幸せタイムとは授乳からの寝落ちなのでは?と思う。わたしだって授乳してもらってゲップさしてもらって寝落ちしたい。そんな現実逃避をする毎日だ。


余談だが、授乳期間を終えたあとの乳はそれはそれでエポックメイキングというか、要は形状が「使用後」にあからさまに変わるらしい、というのはいろんな場で聞いてきた。つまり…コンプレックスビジネスの兵器としても乳は強すぎるようだ。それはまたの機会に。

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松下ゆき
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