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【開催記録】ABD読書会『愛、パワー&パーパス〜人と組織の進化力を紡ぐ新たな物語』presented by NexTreams

今回は、ヨーロッパにおけるホラクラシー(Holacracy)実践の第一人者であり、私の恩人・友人であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)の書籍を扱ったABD読書会(アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎)に関するまとめです。

日本におけるクリスティアーネのパートナーであり、長年の協働関係を築いてきているNexTream合同会社主催で開催された今回の企画に、私はクリスティアーネのこれまでの取り組みやプロセスを知るリソースパーソンとして、また、後半部のABDのファシリテーターとして参加しました。

今回の読書会の開催までには、『愛、パワー&パーパス〜人と組織の進化力を紡ぐ新たな物語』の邦訳出版記念企画に私も参加しており、今回の読書会開催後の10月末にはクリスティアーネの来日も控えています。

このようなプロセスの中で、本書『愛、パワー&パーパス』に関心のある方や、本書に含まれるティール組織(Reinventing Organizations)、ホラクラシー(Holacracy)自己組織化組織(self-organized organization)に興味がある方々と共に読み解き、対話する会をご一緒することとなりました。

以下、『愛、パワー&パーパス』に含まれるティール組織(Reinventing Organizations)、ホラクラシー(Holacracy)について簡単に紹介しつつ、今回の読書会での工夫・気づきなどをファシリテーター目線からまとめていきたいと思います。


ティール組織(Reinventing Organizations)

『ティール組織』とは、フレデリック・ラルー氏が2014年に発表した『Reinventing Organizations』にて紹介された組織・経営のコンセプトです。

書籍内では、人類がこれまで辿ってきた進化の道筋とその過程で生まれてきた組織形態の説明と、現在、世界で現れつつある新しい組織形態『ティール組織』のエッセンスが3つのブレイクスルーとして紹介されています。

フレデリック・ラルー氏が世界中でユニークな取り組みが行われている企業へのヒアリング・調査を行うことによって浮かび上がってきた先進的なあり方をまとめていくと3つの共通する要素が発見されており、

全体性(Wholeness)
自主経営(Self-management
存在目的(Evolutionary Purpose)

以上の3つが、『ティール組織』と見ることができる組織の特徴として紹介されました。

国内におけるティール組織に関する調査・探求は、2016年に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』に遡ります。

ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスに日本人としていち早く参加していた嘉村賢州さん吉原史郎さんの両名は、東京、京都で報告会を開催し、組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。

その後、2018年に出版されたフレデリック・ラルー『ティール組織』は10万部を超えるベストセラーとなり、日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞しました。

2019年には著者来日イベントも開催された他、『ティール組織』の国内への浸透はその後、ビジネス・経営における『パーパス』『パーパス経営』などのムーブメントの隆盛にも繋がりました。

フレデリック・ラルー氏は、書籍以外ではYouTubeの動画シリーズを公開しており、書籍で伝わりづらかった記述や現場での実践について紹介しています。

ホラクラシー(Holacracy)

ホラクラシー(Holacracy) とは、既存の権力・役職型の組織ヒエラルキー(Hierarchy:階層構造)から権力を分散し、組織の目的(Purpose)のために組織の一人ひとりが自律的に仕事を行うことを可能にする組織運営法です。

2007年、Holacracy One(ホラクラシー・ワン)ブライアン・J・ロバートソン(Brian J Robertson)トム・トミソン(Tom Thomison)によって開発されたホラクラシーは、フレデリック・ラルー『ティール組織』にて事例に取り上げられたことで国内においても実践事例が増えつつあります。

さらに詳しくは、日本人初のホラクラシー認定コーチであり新訳版書籍の監訳者である吉原史郎さんの記事及び、以下の新訳版出版に際してホラクラシーのエッセンスについて語られた動画にもご覧ください。

クリスティアーネとの出会い

私とクリスティアーネの出会いは、2017年に遡ります。

2017年11月、ホラクラシーワン創設者トム・トミソン氏(Tom Thomison)、ヨーロッパでのホラクラシーの実践者であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)らを招聘したワークショップのスタッフとして参加し、この企画以降、クリスティアーネと私とのご縁が続いていくこととなりました。

2018年8月、クリスティアーネが来日し、彼女がホラクラシー(Holarcacy)実践から得た学びをもとに独自に発展させて開発していた『Language of Spaces(ランゲージ・オブ・スペーシズ)』を紹介してくれることとなったのです。

Language of Spaces(ランゲージ・オブ・スペーシズ)とは、ホラクラシー(Holacracy)をヨーロッパに導入した先駆者の一人であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラーの、豊富な運営実践およびコンサルティング経験に基づいて開発されたコーチング手法であり、フレームワークです。

私は、この『Language of Spaces(ランゲージ・オブ・スペーシズ)体験プログラム』に、事務局と一部コンテンツ担当、また、クリスティアーネと同じホテルに滞在していたことから、彼女の会場までのアテンドを担うことになりました。

毎朝4時に目を覚ましては英語の勉強とプログラムの知見の予習・復習を行い、ホテルから会場までタクシーでクリスティアーネを送り迎えをしていた数日間。

不慣れながらも英語でコミュニケーションをおこなっていたのですが、限られた時間の中でどうしても十分に自身のアイデアや想いを伝えたり、受け取ったりができなかったように思え、その時は本気で悔しく感じられました。

そのことをまた彼女にも伝えたのですが、

あなたとは、universalなcommunicationが出来ていると感じているわ

と、温かい涙ながらに伝えてもらい、自分は本気で英語とホラクラシー(Holacracy)に関して向き合うことを決心しました。

この時の体験は、私がその後、私は2019年9月にホラクラシー(Holacracy)の開発者ブライアン・ロバートソン(Brian Robertson)が講師を務める5日間のプログラムにジョインする際の原動力となりました。

ホラクラシー(Holacracy)という組織運営法に出会ったことがきっかけで、私はさまざまなラーニング・コミュニティやプロジェクトチームの一員として組織の仕組みづくりの実践経験を積み重ねてくることができただけではなく、人間的な成長もさせていただけたように感じています。

現在の私は、これまでの知見と自然の知恵を活かす組織づくり、コミュニティづくりを生業としており、本書の出版を機に、本当に久しぶりにクリスティアーネと再会することが叶いました。

さらに詳しくは以下にもまとめておりますので、よろしければこちらもご覧ください。

アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎(ABD)とは?

アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎の概要

現在、Active Book Dialogueの頭文字を取ってABDの愛称で親しまれているアクティブ・ブック・ダイアローグ®︎は、ファシリテーションの技法・哲学を読書会に活かす形で生まれた新しい読書手法です。

一冊の本を複数人の参加者同士で分担して読み、要約し、プレゼン発表を行なった後、パワフルな問いをもとに対話を進めるという、参加型ワークショップ的な進め方が特徴です。

要約が壁面に張り出され、ファシリテーターがABDを進行している様子

現在のABDの原型は2013年、現・一般社団法人アクティブ・ブック・ダイアローグ協会代表の竹ノ内壮太郎さんがエドワード・デシ『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』の読書会を継続的に実施している際に、参加者の間でより生成的な学びを生み出していくためにさまざまな試行錯誤を続ける中で生まれたと言います。

一般社団法人アクティブ・ブック・ダイアローグ協会は、このABDという読書法を通じて『草の根の集合的な学びの広がり』と『書籍の叡智を誰もが分かち合い、対話し、繋がりあえる未来』を実現していくために設立されました。
現在は、今回実施する認定講座の実施の他、出版社や大学など様々なセクターとの協働、ABDに関する情報提供、書籍への寄稿などを行っています。

どのような場面で活用されているか?

アクティブ・ブック・ダイアローグ協会は2017年、ABDの実施方法についてのマニュアルの無料公開を開始しました。以降、現在に至るまでさまざまな場所で実施事例が報告・紹介されています。

大学のゼミ活動・研修会、中学・高校の国語や総合学習の授業、まちづくり現場での勉強会、有志の読書会など、全国各地で新しい学びや読書の体験として受け入れられられている他、最近では企業内での研修・勉強会の場に応用し、共通体験を通したチームビルディングや共通言語作りといった目的でも実施されています。

さらに、近年のコロナ禍においてオンラインでのコミュニケーションおよび学びの場づくり、ワークショップ実施の需要が高まったことから、対面だけではなく、オンライン上でABDを実施する事例も増えてきました。

具体的な進め方のイメージ

以下、リアルの会場でABDを実施する際のイメージです。

オープニング時の会場配置の一例。分担する本のゲラを分けてあります

ここから、具体的なABDのワークへと入っていきます。まずは、参加者一人ひとりが自身の分担を決め、要約を作成していきます。

参加者は分担しながら本の要約を用紙にまとめていく

要約を壁面に張り出し、リレー方式で本の要約をプレゼンしていきます。

一人ひとりが要約を発表していき、バトンを繋ぐようにプレゼンを繋いでいく

リレー方式のプレゼンを終えた後は、一人ひとりがプレゼンや要約で気になった箇所を確認したり、要約を眺めて回る時間を取ります。

要約を眺めながら、自身の気になったポイントを探る

最後、グループに分かれる、または全員で問いをもとに対話を行います。

この会では要約も眺められる半円形になり、全員で対話する形式を取りました

このように、一回の読書会でさまざまな体験(読む、まとめる、発表する、対話する等)を得られることも、ABDの特徴です。

ABDの生んだインパクトの一例

ABDの実施後は、参加者の中に、改めて自分で本を買って読み直したり、自分が要約を担当しなかった箇所を読み返してみたい、という気持ちが湧き上がってくることがわかってきました。

この気づきから、ABDを起点に「書店員一押しの書籍との出会いの場を作る」「これまでと違った形で本に触れ、親しむ」ことを目的とする場づくりの可能性が開かれました。

そして、ABDマニュアル公開の同年2017年には蔦屋書店とのコラボレーションが実現しています。

また、現在では10万部を突破し、日本の人事部「HRアワード2018」経営者賞を受賞したフレデリック・ラルー著『ティール組織』もABDと関係の深い書籍です。

アクティブ・ブック・ダイアローグ協会創設メンバーであり、ティール組織解説者でもある嘉村賢州さんは、500ページを超える本書をABD実施によって仲間と共に読み解き、対話することで読書会コミュニティを育てていけることに着目します。

そして、本書の編集者・プロデューサーである下田理さん、英治出版との協力の上で、本書のゲラをABD用に提供してくださる協力体制が生まれました。

出版社協力のもと、ゲラを用いた『ティール組織』ABDは全国各地で実施され、発売前のアマゾンランキングに急浮上し、その後のベストセラーにも繋がったとのことです。

この様子は、以下の日経MJの記事でも取り上げられています。

同じく、当時、編集者としてABDに出会った柏原里美さん(元・日本能率協会マネジメントセンター出版部)もまた、出版業界に身を置く立場からABDの可能性について以下のように記事をまとめてくださっています。

このように、ABDは読者と本の関係だけではなく、書店、編集者さらには著者との関係性すら新たな形へ編み直し、これまでと異なる読書文化を生み出す読書手法として注目されつつあります。

さらに詳しくは、以下の記事もご覧ください。

当日のプログラム構成

今回の『愛、パワー&パーパス』読書会について特に意識していたところは、「当日までの事前のコミュニケーションの段階から、読書会は始まっている」という考え方でした。

『ティール組織』など、上述の簡単な紹介の時点で既にハイコンテクストで、含まれている情報量の多い本書を読み解く上では、参加者の皆さんの積極的な参加と協力なしには良い学びの場をつくることは叶いません。

そのため、当日の読書会開催までに参加予定の皆さんとのグループを作り、そちらに情報やリマインドを投げかけながら、可能な限り丁寧な関係づくりをおこなっていくことを、ファシリテーターとしては意識していたように思います。

迎えた読書会当日は、以下のようなプログラム構成で進行しました。

1、3人1組の小グループによるチェックイン

2、NexTreams・安田健一さんによる、本書の著者であるクリスティアーネについての紹介や、執筆背景、本書に書かれていない前提情報の共有

3、事前作成いただいていた本書のまとめを、プレゼンしながらリレー

4、ワールド・カフェ(World Café)の形式を取り入れた対話の時間

5、全員で行うチェックアウト

ABDのダイアログ、対話の方法は会のファシリテーターによってさまざまな方法がありますが、今回はワールド・カフェ(World Café)の形式を一部取り入れてみることにしました。

以下、簡単にワールド・カフェ(World Café)について紹介します

ワールド・カフェ(World Café)

ワールド・カフェは1995年、アニータ・ブラウン氏(Juanita Brown)デイビッド・アイザックス(David Isaacs)氏によって開発・提唱された対話の手法です。

堅苦しい会議よりも、コーヒー片手に雑談まじりに話した方が対話は盛り上がる!盛り上がったついでに、テーブルクロスに対話で話されたアイデアをメモしてしまおう!

そんな2人の経験から生み出され、体系化された対話プロセスです。

オーソドックスな方法は、グループごとの対話を時間を区切って3ラウンド行う方法です。

参加者は、ファシリテーターによって問いかけられる「問い」をテーマに、各グループで自由に話し合いを進めていきます。

時間ごとにグループを移動しながら、場全体で話されているものに耳を傾ける

1ラウンド目が終わった時、同じグループのメンバーはある1名を残し、別のグループへと旅立ち、また違った人と次のラウンドをご一緒します。

リアルの会場であれば、開発者2人が使ったテーブルクロスに見立てた模造紙をテーブルの中心に置き、対話の中で生まれる気づきを書き留める等します。

各グループは6人以内程度。テーブルクロスに見立てた模造紙が真ん中に

また、テーブルの中心にトーキングオブジェという話し手の目印を置いておき、持っている人が話をし、残りの人が聴くという工夫をすることで、一人ひとりの話を遮ることなく尊重して聴き合う関係性を作ることもできます。

テーブルの真ん中に置かれているトーキングオブジェ(ぬいぐるみ)

そして、最後の3ラウンド目に1ラウンド目と同じグループに戻ってくると、別のグループで話されていた内容が、1つのグループに持ち寄られることになります。

テーブルには対話の中で書き込まれた模造紙も残っており、より豊かな対話の時間を作ることができる、というものです。

詳しくは、以下のまとめもご覧ください。

なお、今回は模造紙に見立てたオンライン上の落書きスペースやトーキングオブジェは準備せず、グループの皆さんに進行を任せる形で対話を運営いただくことになりました。

振り返っての気づき・学び

本書の著者であるクリスティアーネは、今の私を形作る上でとても重要な位置を占めている存在であり、今回、クリスティアーネの書籍を活用して読書会を実施できるのは、私にとってとてもありがたい機会でした。

しかし、先にまとめてきたように今回扱った『愛、パワー&パーパス』にはさまざまな要素が前提として含まれており、どれだけの方が興味を示してくれるものか、企画段階では暗中模索の状態でした。

蓋を開けてみると、当日は20名近くの方にご参加いただき、最後の感想をお話しいただくチェックアウトでもさまざまな学びや気づきのあった様子が伺えました。

チェックアウトの言葉を皆さんから聴かせていただきながら、進行していた私としても救われるような、報われるような、そんな感覚を感じていました。

あるとき、あるタイミングで、同じ領域やテーマに何らかの形で興味関心を持ち、共に探求していこうという方が、これほど多くいらっしゃったことへの感謝。

「こうあってほしい」「こうなってほしい」と願いつつも、最後は場の参加者の皆さんに委ねるほかないファシリテーターとしての心境。

この数年間の私自身の人生の旅路や紆余曲折が一つ、区切りをつけるような形で今回の読書会に集約されたこと。

などなど、さまざまな思いが去来していたように思いますが、今回の記録をまとめている現在、改めて感じるものは感謝です。

初めにお声がけいただいたNexTreamsの安田さんをはじめ、事前のまとめ作成から参加いただいた皆さん、直前からでも申し込みいただいて参加いただいた皆さんなど、一人ひとりのはたらきかけがなければ、今回の場は成立しなかったと確信しています。

今回の場が、何か持って帰ろうと思える気づきや学びのある場であれば…そして、このまとめが読んでいただいた皆さんに小さくとも、何かのきっかけをもたらすものとできたなら幸いです。

さらなる探求のための関連リンク

10/24 (火)働く人と社会と地球に「善い地域企業」〜「公共善エコノミー」と自己組織化組織がひらく未来

10/28(土)-29(日)自己組織化における「愛」「パワー」&「パーパス」:入門編

アダム・カヘン『未来を変えるためにほんとうに必要なこと(原題:Power and Love)』

アダム・カヘン氏講演録:社会システムに変容をもたらすためのラディカル・コラボレーション: 愛・⼒・公義に取り組み、「共に」「前へ」「進む」


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大森 雄貴 / Yuki Omori
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