ゼロから始める伊賀の米づくり6:今、自分を取り巻くすべての人と環境に感謝を。
2日前には代掻きまでを終え、水を入れて均した田を落ち着かせる。
前日には、田植え機のメンテナンスを終え、いよいよ田植えの日である。
天気予報では昼過ぎから雨の予定。思えば、物心ついた頃から雨や土砂降りの中で田植えを手伝った経験は無かった。不思議と、晴れの日の思い出が多い。
とはいえ、雨が降るまでに3反(約3,000㎡)×2枚+0.5反の田の植付けを終えてしまわなければ、後始末も大変だ。
今年は、母、祖母、奥さんと自分の四人体制で取り掛かる。
朝7時に目を覚まし、まずは田植え機を置いてある物置に向かう。ガソリンの流れとエンジンがかかるかを確認するためだ。まず、エンジンがかかってくれないことには、田植えが始まらないのだ。
…嫌な予想は的中するものである。セルモーターは回るのだが、なぜかエンジンがかからない!昨日にはバッテリーの充電も十分に行っていたはず…なぜだ!!!泣
父の友人・Hさんの手際を見ていたので、早速同じようにフロント部分の分解をはじめ、バッテリーの様子と内部の確認を行う。
そうこうしているうちに、
『おう、やってんのか〜』
と、Hさんがやってきて、二人がかりで無事にエンジンを始動させる事ができた。
「(助かった…)」
ギアを入れてエンジンを回転させ、もう2度と途中で止まってしまわないように気をつけつつ、田の近くまで移動させることに。そこからは、Hさんによる怒涛の田植え機教習コースだった。
「まず、軽トラなんかと同じで中立のレバーを植付に入れれば、前進し始める。バックするには後退」
「で、右手のそれは田植え機の後ろの部分を上下させるレバー。田んぼに入ったら、前にレバー押し上げて速度を上げることもできる。とりあえず、はじめは一速でやったらええ。油圧を下ろして道路を走るなよ?植付け部分に傷がつくぞ」
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時間にして3分ほどだっただろうか。怒涛の教習コースはあっという間に終わり(Hさんは早々に引き上げ、苗の世話に向かった)、後は実践で覚えることになった。
なお、朝からエンジンをかけ教習を受けている間に母と奥さんは苗を取りに軽トラで向かってくれており、後は自分が田植え機を動かせさえすれば、どうにかなる形だ。
「(もう、とにかくやってみるしかない……!!!)」
『畔際は、ゆっくり一速で行けよ。白いガードが畔を擦るくらいで行け。田んぼの真ん中をまっすぐ走る分には、三速で行け。トロトロ走ってまっすぐか気にしてたら、余計にハンドルを切りすぎてグネグネになる。Uターンするときは、車輪が土を削ってしまわないように一速に落とせ。』
Hさんは田んぼの真ん中を走る自分を追いかけつつ、マスクでもごもご話しながら教習を続けてくれる。こちらとしては、初めて動かす田植え機に悪戦苦闘しつつ、頭の理解を体や機械の操作に落とし込まなくてはならない。必死である。
田植え機の植付けが始まってからも、
「(あれ?なぜ、植え付けた苗の列が途切れてる箇所があるんだ?)」
苗を田植え機のレーンにうまく載せなければ、そうなる。
「(うちの田んぼ、まっすぐな直線の綺麗な長方形かと思ってたけれど、機械で走ってみると直線じゃなく斜めに歪んでる…。植えづらい。)」
やってみないと、わからないものである。
「(ガソリン切れだ…。)ガソリン、持ってきて〜!!!!」
その後、しばらく休憩した。
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などなど、紆余曲折ありつつも、昼過ぎには3反(約3,000㎡)×2枚+0.5反の田の植付けも無事に終える事ができた。
ちなみに、機械ではどうしても植えきれない端の部分がある。この端の部分は余った苗を手で植える事で、機械がやり残していった部分を最後は人間の手で仕上げを行っていく。
毎年、この役割は祖母がしてくれていたのだが、今年は奥さんがやってくれるという。出来栄えは、こんな具合だ。
……おわかりいただけるだろうか?
パッとみて確認できるくらい、青々とした極太の束が端に植っている。機械がやったか、人がやったか一目瞭然である。
※この後、すべての田の植わり具合を見て回って確認してみると、一列丸々苗の列がかけている部分があったり、他にも歯抜けの部分があったので、これら極太の束から拝借しつつ、歯抜けの部分は手で植え直すことに。
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長靴を履いた足で田に入り、手で苗を植えていくと、いくつも気づかされる事がある。
「(機械が通っていない端の土は、冷たく固い。だから歩きやすい)」
「(ただ、端の方は機械が通る事で必要以上に土が動かされ、盛り上がりがちになってしまっている)」
「(だからこそ、トラクター等で土を耕すときは、爪の逆転によって真ん中に土を返していくわけか)」
「(他の田のベテランのやり方と比べると、やっぱり列が歪んで見えるなぁ)」
「(機械で植えても、植える苗の本数が少なすぎていたり、土にうまく植らず水面を流れてしまっている苗もある!植え直そう…。)」
さて、ようやく仕上げを終えたら、最後は機械の水洗いである。
機械は大事に使えば、何年も働いてくれるかもしれない。逆に、「よくわからない、まぁいいか」と誤魔化しながら使っていると、予期せぬタイミングで壊れて2度と使い物にならなくなるかもしれない。
いずれの農機具も、祖父や父が使って遺してきたものだ。だとしたら、植え付けておしまいではなくて、次のシーズンのことも考えて、念入りに綺麗に手入れをしておきたい。
そんな気持ちがふと浮かび上がってきて、最後は無心で田植え機に向き合っていたように思う。
今年の初めから活躍してくれ、泥だらけになっていたトラクターも徹底的に洗ってみると、綺麗な朱色のボディが蘇りました。
ただ、耕す部分に不可欠の爪は、ぼちぼち取り替えが必要かもしれない。
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以上、一連のプロセスを経て、田植えの終わった田んぼがこちら。
やや列が歪んで見えるのは、御愛嬌。
これから三ヶ月ほどかけて、この苗は稲となり穂を付けていく。それまでに、水の管理や草刈りは必須だが、とにかくここまでで一段落。また、成長具合を見守っていこう。
連休が始まるまでは、父の四十九日を終えたところで燃え尽きてしまい、弱音や泣き言も奥さんに聞いてもらいつつ、家族全員、そして技術面ではご近所の、父の友人の皆さんに支えてもらいながら、無事に終える事ができました。
日々の営みがひとつひとつ意味を持ち、濃厚かつ丁寧に時間が過ごされているような、そんな感覚の中で生きられたように思います。
さぁ、家族揃って、父に報告に行くとしよう。
「今年も、無事に田植えが終わったよ」
サポート、コメント、リアクションその他様々な形の応援は、次の世代に豊かな生態系とコミュニティを遺す種々の活動に役立てていきたいと思います🌱