【開催記録】「すべては1人から始まる」読書会:一人ひとりが人生のソースとして生き、幸せを感じていくためには?
今回は、トム・ニクソン著『すべては1人から始まる(原題:Work with Source )』を扱った読書会の開催記録です。
本書のテーマである『ソース原理(Source Principle)』は、私自身も著者のトムとも対話を重ねてきた本であるということ、また、
最近では『すべては1人から始まる』が日本の人事部「HRアワード2023」に入賞するなど、思い入れのある特別な一冊です。
これまで延べ3回、読書会の場で扱ってきた『すべては1人から始まる』ですが、今回もまたこれまでとまったく違う顔ぶれの参加者を迎え、対話を進めていくこととなりました。(第1回、第2回、第3回の対話の様子についてはそれぞれのリンク先もご覧ください)
読書会開催のきっかけ
現在、私は生業として対話の場づくりやファシリテーションといった方法を用いて、人と人の集まる場を目的の実現に向けて協力しあっていけるようにするお手伝いをしています。
『世代を超えて豊かに育っていく関係性、組織・社会の仕組みづくり』というものをめざして日々、対話、ファシリテーション、場づくりの知見を個人、組織、コミュニティで紹介したり、実践を続けているのですが、その学びと探求の過程でさまざまな流派の知識体系、技術、哲学、事例に触れることとなりました。
そしてその中で、何年も語り継いでいきたい大切な知恵が詰まった本を、興味関心の合う仲間たちと時間をかけて丁寧に読み込み、対話することの重要性を感じるようになりました。
毎月、興味のある本を2〜3冊程度扱うペースで読書会を続けていますが、その中で大切にしていきたいことは以下の3つです。
主催する私個人としては、読書会用に選書している(そしておそらくこれから選書するであろう別の)書籍は、一度サッと目を通して理解できたり、その叡智を実践することが難しいと感じられるものばかりです。
読書会の場は、次の世代に伝えたい大切な叡智を扱う場として、一冊一冊の知見が自分の子どもや孫世代まで伝わっていくような、そんな気の長い関わり方をできればと考えています。
『語り継いでいきたい大切な知恵を、共感しあえる多くの人と分かち合う』そのための場としてこの読書会を設定し、参加者それぞれのタイミングで入れ替わりながらも豊かな関係性を紡ぎ、継続していきたい。
このような思いから、月に一度のこの指とまれ方式の読書会は始まりました。
さらに詳しくは以下の記事もご覧ください。
ソース原理(Source Principle)とは?
『ソース原理(Source Principle)』とは、イギリス人経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威と影響力、創造的なコラボレーションに関する洞察を体系化した知見です。
不動産業界で成功したビジネスマンとしてキャリアを進んでいたピーター・カーニック氏は、クライアントたちとの交渉の中で相手側が不合理な判断・意思決定を行う場面を目にしてきたといいます。
このことをさらに突き詰めていくと、『お金と人の関係』がビジネスにおける成功、人生の充実に大きく影響していることに気づき、ピーターによる『お金と人の関係』の調査が始まりました。
その後、お金に対する価値観・投影ついて診断・介入できるシステムであるマネーワーク('moneywork')が体系化され、その過程でソースワーク(Source Work)が副産物的に生まれてきたとのことです。
マネーワーク('moneywork')は自身の内面を扱うインナーワークに比重が置かれており、ソースワーク(Source Work)はアイデアを実現するためのアウターワークに比重が置かれていると言います。
ピーターの「人とお金の関係」の研究及びマネーワークについては、以下のインタビュー記事もご覧ください。
ソース原理(Source Principle)の広がり
日本においてのソース(source)の概念の広がりは、『ティール組織(Reinventing Otganizations)』著者のフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって初めて組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となっています。
2019年の来日時、『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏によって組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となって初めて知られることとなったソース原理(Source Principle)。
フレデリック・ラルー氏もまた、ピーター・カーニック氏との出会い、学びを通じて、2016年出版のイラスト解説版『Reinventing Organizations』の注釈部分で記載している他、『新しい組織におけるリーダーの役割』と題した動画内で、このソース原理(Source Principle)について言及したということもあり、国内で注目が集まりつつありました。
その注目度の高さは、邦訳書出版前の昨年8月にトム・ニクソン氏の来日が実現する、といったことからも見てとれます。(オンラインでのウェビナーの他、北海道・美瑛町、東京、京都、三重、屋久島など全国各地でトムを招いての催しが開催されました)
昨年10月、ピーター・カーニック氏に学んだトム・ニクソン氏による『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』が出版されて以降も、ソース原理(Source Principle)に関連したさまざまな取り組みが国内で展開されています。
今年4月にはソース原理提唱者であるピーター・カーニック氏の来日企画が実現し、システム思考・学習する組織の第一人者である小田理一郎さんや、インテグラル理論・成人発達理論の研究者である鈴木規夫さんとの対談、企画の参加者との交流が活発に行われました。
さらに、『すべては1人から始まる』は日本の人事部「HRアワード2023」に入賞するなど、少しずつソース原理(Source Principle)の知見は世の中に広まりつつあります。
日本での流れに先立ち、ソース原理(Source Principle)が世界で初めて書籍化されたのは、2019年にステファン・メルケルバッハ(Stefan Merckelbach)『A little red book about source』のフランス語版が出版された時でした。
その後、この『A little red book about source』は2020年に英訳出版され、2021年3月に『すべては1人から始まる』の原著であるトム・ニクソン著『Work with Source』が出版されました。
ソース原理にまつわる潮流は、このような背景を持ちます。
ソース(Source)とは?
トム・ニクソン『Work with Source(邦題:すべては1人から始まる)』を参照すると、ソース(Source)とは、あるアイデアを実現するために、最初の個人がリスクを取り、最初の無防備な一歩を踏み出したときに自然に生まれる役割を意味しています。
また、本書中の用語解説では、『脆弱なリスクを取って、ビジョンの実現に向けて自らを投資することで、率先して行動する個人のこと』と説明されています。
ステファン・メルケルバッハ氏の書籍においては、この役割を担うことになった人について、特に「ソース・パーソン(source person)」と呼んでいます。
トム、ステファンの両者に共通しているのは、ソース(Source)は特別な人だけがなれる役割ではなく、誰もがソース(Source)である、というものです。
アイデアを実現するために一歩踏み出すことは、社会を変えるような大きなプロジェクトの立ち上げに限りません。
友人関係や恋人関係、夫婦関係などにも、誘ったり、告白したり、プロポーズしたりと主体的に関係を結ぼうと一歩踏み出したソース(Source)が存在し、時に主導的な役割が入れ替わりながらも関係を続けていく様子は、動的なイニシアチブと見ることができます。
さらに、自身の研究課題を決めること、就職を思い立つこと、ランチを作ること、休暇の予定を立てること、パートナーシップを築いていくこと等、日常生活の様々な場で誰しもが何かのソース(Source)として生きていることをトム、ステファンの両者は強調しており、日常生活全般にソース原理(Source Principle)の知見を活かしていくことができます。
読書会を通じての気づき・学び
読書会の運営方法
読書会の運営方法は極力、プログラム的な要素は削ぎ落とし、シンプルに対話を重視した構成を行おう、という方針を意識しつつ運営方法を考えることとなりました。
まず、以下のようなオンライン上のシートをJamboardで準備しました。
読書会を始める前の準備として、オレンジ付箋のテーマも含め、初めの一言を1人ずつ話した後(チェックイン)、水色の付箋の書き出しの時間を設けます。
その後は、その水色の付箋について参加者の皆さんのエネルギーの高いところから対話・探求を進めていくことにしました。
読書会の最後は、1人ずつ今回の感想を話すチェックアウトの時間を取り、終了となりました。
この間の開催時間は90分。年代、所属、その他バックグラウンドがさまざまな5名が集う対話の場となりました。
以下、当日扱われた探求テーマの中で印象的だったテーマついてまとめていきます。
ソース(Source)で連想されるもの
まず、当日の対話の場ではソース(Source)と聞いて連想されるさまざまなものがあることが1つのトピックとなりました。
まず1つ挙がったのは、1999年に出版されたマイク・マクマナス氏による『ソース~あなたの人生の源は、ワクワクすることにある。』との関係はどのようなものか?という問いです。
マイク・マクマナス氏の書籍を紐解くと、同氏は教育学における修士論文において人生をワクワクさせるもの・その源としてソース(Source)を着想し、その後開発することとなる「ソースプログラム」に繋がっている、とのことです。
また、同じくソース(Source)というタイトルを冠した書籍としては、ジョセフ・ジャウォースキー氏による『源泉―知を創造するリーダーシップ』が存在します。
こちらではソース(Source)という語は、『企業家的な衝動の源泉』というニュアンスから活用され始めました。
では、ソース原理におけるソース(Source)という語及びその活用法のルーツはどのようなものでしょうか?
ソース原理で活用されるソース(Source)という用語及び語法は、ソース原理の提唱者ピーター・カーニック氏の言を借りると、『マスターフル・コーチング(Masterful Coaching)』の著者であるロバート・ハーグローブ氏(Robert Hargrove)に行き着くと言います。
ロバート・ハーグローブ氏は、ピーター・カーニック氏が初めて「ソース(source)」という言葉を、組織の創設者に対して用いることを聞いた人物だったそうです。
このため、マイク・マクマナス氏やジョセフ・ジャウォースキー氏それぞれの『ソース(Source)』という語を活用するルーツは異なります。
また、ソース(Source/源)と聞いたときに、人によって活用法は異なりますが、ステファン・メルケルバッハ氏の書籍ではその活用法について整理されています。
まず、ソース・パーソン(source person)においては明確で、先述したように、あるアイデアに基づいてイニシアチブを取る人のことであり、この用法はトム・ニクソンによる定義と同義の活用法です。
続いてソース(source)について。
ソース(source)をソーシング(sourcing)する人(主体:the subject)として捉えるのであれば、ソース・パーソン(source person)と同義になります。
この捉え方は、イニシアチブ(initiative)における役割としてのソース(source)という意味合いであり、ピーターも一般的に使う用法です。
また、ソース(source)を客体 (the object)として位置付けられるもの…源流・源(source)と捉えた場合、ソース個人の本質や、イニシアチブ(initiative)の深い核となるビジョンや価値観を意味することがあります。
上記を大胆に意訳するとすれば、ソース(Source)とは人や役割を指して呼ぶ場合と、人の内面にある神秘的なエネルギーの源泉を指して呼ぶ場合の2パターンがあり、活用法に迷った際は何を指すのか?を明確にすることでその後の対話がより進めやすくなるかもしれません。
『自分がソースであることは、他人がソースであることを抑圧する』?
次の探求テーマが、ある参加者の方がお話しされていた内容に対するさまざまな反応でした。
この考え方に関しては、人それぞれの影響力の大きさ、一人ひとりの選択や意志のあり方、マネジメントやコントロールに対する参加者それぞれの見解・認識によってさまざまな意見が出たように感じます。
また、上記のテーマから『そもそも、なぜ一人ひとり自分の創造性を発揮していくソースであることが抑圧されてしまうのか?それを分ける環境要因や社会的背景は?』といった問いかけも出てきたように思います。
『みんなはどんな時に幸せだと感じる?』
対話の後半に扱われ、特に印象に残っているテーマとしては『幸せ』についてのテーマでした。
友人と過ごすこと、パートナーと一緒に過ごせること、自分自身がやりがいや楽しさ・充実感を感じて何かに取り組んでいること等、それぞれの幸せのあり方の他に、
といった問いやテーマなども、参加者の皆さんの発言の中に現れていたように思います。
また、
という、今回扱った書籍のタイトルを彷彿とさせる問いも浮かんできたのが印象的でした。
多様なバックグラウンドを持つ参加者のみなさんが集ったことで、私自身も頭の中のさまざまな引き出しが刺激された時間となり、また次回、同じメンバーで集まる機会があった時にどのような対話が繰り広げられることになるのか……?そのような期待やワクワクが感じられるような時間となりました。