宇治の恋華 Ver.匂宮 『自己愛』【シロクマ文芸部】
シロクマ文芸部「霧の朝」から始まる創作。
薫バージョン、浮舟バージョンに続き、匂宮の心境を綴った創作です。
よろしくおねがいいたします。
『自己愛』
霧の朝なんてうんざりだ。
薫を出し抜いてすこぶる気分がいいのに、まるで天が私を非難しているようではないか。
「宮さま、どうかされましたか?」
さらさらとこぼれる黒髪が美しく、私を気遣う浮舟のなんと可愛らしいことよ。
「せっかくあなたを連れ出したというのに霧が深くて心が晴れぬよ」
「宇治はそういう土地ですもの」
「薫はこの霧の中にあなたを閉じ込めて、あなたは自分のものだけだとご満悦なのだろうが、私とあなたが再び出会ったのは宿縁としかいいようがない。そうは思わないか?」
「私にはわかりませんわ」
そうして目を伏せた彼女は背徳心に苛まれて苦しそうに見える。
薫に勝ったと酔いしれる気分も台無しだ。
「後悔しているのかい?」
「・・・。」
浮舟は顔を背けて胸の裡を読まれまいとしているのか。
無理やり奪ったのは私だからこの女を責めることはできないが癪にさわる。
「私を憎んでいるか?」
「そんなことは、ありません」
そうして即座に答えるところが小憎らしい。
「あなたは今この瞬間も目の前にいる私よりも遠い都にいるあの薄情な男を想っているわけだ。つれないことよ」
「・・・私は宮さまに責められて辛いですわ」
薫の妻であるのに、という言葉は禁句であるため飲み込んでいるようだが、そうして身を捩る姿はさらに私を昂らせる。
この女をもっと泣かせたくなる。
「あなたは私が想うほどに私を愛してはくれていないのだね」
「そんなことは、ありません」
「ならば、薫よりも私を愛していると言っておくれ」
細い体を抱きしめると、浮舟の目には涙が溢れていた。
これは薫の為に流す涙か。
そうしていても彼女の体は私を拒まない。
いっそこの女が狂うまで抱き潰してしまえば、私への愛が湧いてくるだろうか。
「この霧が私たちの罪を覆い隠してくれる。今だけはただ愛し合おうではないか」
「宮さま・・・」
浮舟の体は熱を帯びたように、瞳は妖しく揺らめく。
何度抱いても足りない。
浮舟を私だけで満たしたい。
これを愛と呼ばずになんというのか。
<了>
この場面は匂宮が浮舟を宇治の山荘から連れ出した時の会話を創作したものです。
匂宮との情事に溺れ、愛欲に身を投じる浮舟を匂宮がどこか冷めた目で見ているのではないかと思うのですが、宮にとって女人は一時の憂さ晴らしに過ぎないと私は考えます。
それを愛と錯覚する男、それがザ・匂宮ではないかと思うのです。
ミーイズム絶頂☆ですね。
(なんか下品でスイマセン。。。)
あまりどぎつい表現は本編では避けていたので、しんどい創作でした。
『令和源氏物語 宇治の恋華』で匂宮が浮舟を連れ出す場面がこちら・・・。
匂宮は奔放で傲岸な皇子ですが、いずれその行いが己の輝かしい未来に影を落とすことになるのです。
三部作、これにて終了です😸