「82年生まれ、キム・ジヨン」普通に生きてきたら、気づけば地獄にいた。
切れ味鋭い社会派映画が大ヒットする韓国で、100万部を超えるベストセラーになったと聞いて。82年生まれの自分が、思いがけず物語から指をさされた気分になって。
主人公の名前「キム・ジヨン」は、1982年に生まれた韓国人女性で一番多い名前だそう。そんなごく平均的な1人の女性キム・ジヨンが、ソウルにある裕福でも貧乏でもない家に生まれ、両親と祖母と姉と弟の6人家族で暮らし、学校に行って、受験して、大学に入ってそこそこの企業に就職して結婚して子どもを産んで、ごく普通に生きてきた結果、33歳で心を病んでしまった。
普通、普通、普通を生きてきたら、気づけば地獄にいた。こんな恐ろしいことがあるだろうか。
キム・ジヨンの目線で語られる彼女の人生はごく平均的で、むしろ時には平均より良くて、人並みの喜びや悲しみがあって、華やかではないけど特別に不幸でもない。でも、読んでいると、気づく。ここにある普通は本当に普通なんだろうか。男の子が生まれると親族みんなが大喜びする普通、形の良い魚はいつも父と弟のお皿に置かれる普通、出席番号は男子の後に女子が続く普通、就職活動では男性が有利な普通。「ずっとこうだった」「当たり前だから」「みんなそうだから」で成り立っている「普通」は、ごく平均的な1人の女性を通して見た途端「異常」になった。そもそも女性は子どもを産んで育てなきゃいけないから、いろいろ諦めることがあるのも仕方ない。あまりにも違和感なくそういう理論で話が進むので、この世に性別がある限りどうしようもないやん…と思いそうになる。でも、決して、そんなことはない。
男だから、女だから。若いから、年をとっているから。病気だから、健康だから。雨が降り、溜まった水が川になって流れるようにごく自然にある生きづらさ。人がみんな、隣にいる人の生きやすさを考えられればと思う。しょうがないことなんてない。答えはひとつじゃない。
なにも解決しないどころか、やんわりと絶望が上乗せされる結末にこの闇の深さを感じるし、読み終わった後にわかる秘められた作者の意図にはゾッとして、同時に盛大な拍手を送りたくなった。