あたりまえの日常の裏にある”闇”を描いた映画「ラストマイル」。「アンナチュラル」「MIU404」と融合する世界観に胸アツだった件
観た後に、自分の見ている世界が少し違って見えるような映画が好きだ。
「ラストマイル」はまさにそれで、普段自分が生活の中で何気なくしているひとつのアクションが、いったいどんな構造の中で処理されているのかを可視化してくれ、いつもは「あたりまえ」だった世の中をほんの少しだけ違う目線で見えるようにしてくれる。
それもそのはず、わたしがドハマりして何度も繰り返し見ている、不自然死を解明するUDIラボを舞台に繰り広げられる法医学サスペンス「アンナチュラル」と
警察の初動捜査に関わる機動捜査隊、通称MIUを舞台に展開される「MIU404」のチームが再集結して作られた作品なんだもの。
お堅い社会派の映画は好きではないのだが、塚原あゆ子監督、野木亜紀子脚本、新井順子プロデューサーの作品は、わたしたちの身の回りにある闇に光を当てたストーリーテリングが特徴。
この2つのドラマでは、どちらも犯罪が起こり、それを究明していくことになるのだが、これらの作品では単なるアクションや犯人探しではなく、人が過ちを犯すとき「どこでボタンを掛け違えたか」を探っていくような展開が多い。犯罪を犯す人の裏側に迫り、どうしてそこに至ったのか、そしてその奥にある根本的な問題は何なのか、というところまでしっかり切り込んでいく。
こう書くとえらく小難しそうな印象を持たれるかもしれないが、もともとTBSのゴールデンタイム放送の作品だ。アクションはもちろん、コメディ要素やヒューマンドラマも織り交ぜながら楽しんで見られるし、気分が重くなるわけでもない。歯ごたえある社会派作品ながら、エンタメ魂を失わない。切なくて泣ける回もあれば、心温まる回もあり、次へ次へとつい一気見てしまう魅力はこの「重さと軽さのさじ加減」なのだろう。息抜きとして楽しめるのに、観た後にふと立ち止まって考えてしまうようなお題を残してくれる。
そして今回の「ラストマイル」は、わたしが愛してやまないこの2作品と世界線を同じくして展開されるサスペンス。
今やほとんどの人が利用経験があるであろう外資系巨大ショッピングサイトの倉庫が舞台だ。満島ひかり扮する新任センター長と、岡田将生扮するその部下。センター長新任初日に起きる宅配便の連続爆発事件。そしてその裏にある闇とは?
劇中では「デイリーファスト」という名で登場するが、言わずもがなで某巨大ショッピングサイトAma〇onさんのことかなと察しが付く。別にAmazonの悪口をいおうとしているわけではなく、「注文したものが即日届く」という顧客優先のサービスの第一人者であり、物流業界の代表として登場しているのだろう。この素晴らしすぎる仕組みは忙しすぎる現代人に重宝され、多くの人が活用している。わたしだってそのひとり。プライム配送サービスを使いたいから有料会員だ。
だけどその「ポチったらその日に届く」を叶えているのはさまざまな「人」だということを思い知らされる。
そしてその巨大なショッピングサイトで年に一度の大セール「ブラックフライデー」は、世界中で巨大な売り上げが見込める日として企業側も気合を入れている。そのノルマたるやかなりのものであろう。
何を言ってもネタバレになりそうなので話の詳細は本編を見ていただくとして、日常当たり前に使っているショッピングサイト、そして荷物が確実にわたしの手元に届くまでにはこれだけの人の手が関わっているのかということに改めて驚く。ちょっと考えればわかることだけれど、それが「あたりまえ」になってしまっている自分。
水道だって鉄道だってインフラと呼ばれるものは正常に届いてあたりまえ。今や物流もその「あたりまえ」のインフラ化してしまっていて、それがどのようにして支えられているのかを考えることを放棄していたなぁと思った。
だからって今日からamazonプライムやめるかといえばそうでもないのが人の弱いところで、「急ぎの商品でも早く届く」味をしめてしまうとなかなか思いとどまらない。
だけどサービスが安く早くなればなるほど、どこかに負荷がかかっているわけで、それはなんでもそうだ。
賃金がなかなか上がらず、物価ばかり上がるこの世知辛い世の中で、何をどう変えればその構造が良くなるのかもはや分からない。だけどこのまま弱い者がつぶされていく社会はいかがなものか、とも考える。
答えはないし、わたしひとりがどうにかできる問題ではないけれど、観た後もふとしたときに考えてしまう。それが作者の意図といえば意図なのかもしれない。誰かが関心を向けることで少しずつ社会は変わる。
と、あれこれ書いてしまったが、この作品、「アンナチュラル」「MIU404」との「シェアード・ユニバース作品」として作られており、本作で起きた事件は懐かしのMIUのメンバーが初動捜査に当たる。
つい最近もまたMIU404を見直していた私は「きゃーーー志摩ちゃん!伊吹のきゅるっが聞ける!」とときめく瞬間。(知ってる人しか分からない)
「アンナチュラル」のUDIラボも登場して「うぎゃーーー懐かしい!もう一回見なくては!」と興奮。しかもこの二つのドラマに登場していた人たちの時系列もしっかりしていて、経過した年数分みんなが育ってるのよ。なので当時未成年として出てきた子が大人になってたり、ドラマ当時から現在までの時空を埋めてくれたりして、なんかしみじみ。
「アンナチュラル」時代から登場するおなじみ刑事さんたちも出ていて良き!
「アンナチュラル」「MIU404」ファンはもちろん、そうでない人がいきなり見ても十分楽しめると思うし、巨大なロジスティクスセンターはやはり配信よりも大画面で見るほうがいろいろと伝わってくるものが多いと思うのでぜひ劇場で見ていただければと思う。
いつもの商品を「ポチる」前に、1秒だけこの映画をふっと思い出す。何ができるわけじゃないけれど、わたしたちの日常のひとつひとつが、どんなに何気ないことでもいろんな人が関わって成り立ってるんだよな、と思いを馳せることができるようになるって、けっこう大事なことなんじゃないかなと思う今日この頃だ。
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