見出し画像

【日本一周 東北編16】 はじめての銀山温泉

・桃源郷第一候補地「銀山温泉」  筆者:明石

 車で走り続けること1時間半。徐々に街明かりはなくなり、車通りは減り、街灯もなくなって怪談じみてきた頃、銀山温泉へ到着した。旅館指定の駐車場を通り過ぎてしまい、Uターンしようと路肩に寄って危うく脱輪しかけたが、外傷はなかったのでセーフとする。

 無事に駐車場に止めると、程なくして宿から迎えの軽トラがやってきた。旅館のある温泉街までは少し距離があるため、車で送迎してくれるというのだ。運転手のおじさんは今まで数え切れないほどこのルートを通っているからか、発進も停車も後進も驚くほど早く、先ほど脱輪しかけて気が小さくなっていた僕は終始冷や冷やしていた。

画像1


 銀山温泉は、想像をたやすく裏切ってしまう美しさだった。まず、中央を流れる川は豪快な水音を発していて、清々しい心持ちにさせてくれる。ほの温かい街灯はすべて暖色で統一されていて、和太鼓の音が心にこだまするような情動をもたらす。シチュエーションで言ったら草津温泉にも似ているが、照明の色遣いが派手な草津に比べて、銀山温泉には沁みる温もりがある。それに、銀山温泉は立ちならぶ旅館もすべて木造建築であり、無粋な表現だが世界観のつくりこみに余念がない。川にかけられた幾本もの橋も一役買っていて、至極マーベラスなのである。


 ひとまず旅館「永澤平八」にチェックイン。「千と千尋の神隠し」の油屋みたいな佇まいをしており、1万円で泊まっていい宿じゃない感が凄まじい。Go To Travel 様々です。それこそ油屋の番頭台のような受付にて手続きを済ませると、木製の急な階段をてくてく登って3階の部屋へと案内された。女中さんは3つ指をつきながらの旅館らしい接客ではなく、宿泊客に必要な情報が提供できればOKといったスタンスでゆっくり、独特のテンポで喋る人だった。本人の意図していないだろうその前衛的な態度に、心中にて拍手を送った。

画像2
熱すぎてなす術がない


 部屋に荷物を置いた後は、ひとまずあたりの散策に出掛けた。郷愁を揺さぶる家並みの合間には足湯があり、試しに浸かってみるとこれが恐ろしく熱い。冷え性だから足先が冷えているのかと思いきや、長く浸かっていても浸かっていた分だけきちんと熱く、生命の恒常性を脅かす温度であることがわかった。この足湯をなんとか楽しむべく、草津の湯もみのテンポで足を交互に入浴させてみたり、宮島のGo Proでの長時間露光撮影(暗所で鮮明に撮るための撮影方法)を成功させるべくポーカーフェイスで浸かってみたりと試行錯誤を重ねた。

 夕食の時間になったので旅館に戻り、席についた。卓上には懐石料理が並べられており、我々の期待に「まあ、試してみなよ」と得意な表情を浮かべていた。しかし、いざ食べ始めてみると、「ああ!!うまい!!」というほどの感動はないことに気づいた。これにはしかるべき理由があり、これからこの奇々怪々な現象についての考察を述べる。

画像3


 まず1つ目に、この旅館の本来の料金が15000円であったことが考えられる。1泊1万円を超える宿をあまり経験したことがなく、今回の旅行においても1泊3、4千円の宿に泊まってきた我々は、こと永澤平八に期待しすぎていたのかもしれない。また、夕食の品書きには「米沢牛ステーキ」と書かれており、「案山子」にてその最高峰を食していたにもかかわらず、それと同等、もしくはさらに上をいくものが出てくるかもしれないとの思いもあった。この双方の思いの食い違いが、破談の原因のひとつに数えられるだろう。

 2つ目に、ごはんがいつまでたっても出てこなかったことが挙げられる。家に帰って親に話したところ「少し高めの旅館ではありがち」なことらしいが、おかずは白飯とともにというのが染みついてしまっている我々には異質なルールに感じられてならなかった。刺身もステーキもすき焼きも、すべて単体で堪能し、その上で白飯単品が来ても……..我々は天を仰ぐほかなかった。他にも、アルコールや精製飲料の注文を期待しているのか、毎度頼まないとお水が来なかったり、名物の豆腐とところてんのハーフ「とうふてん」は捉え所がなさすぎたりと、我々は少しずつHPを削られていった。

 しかし、全部が全部悪かったのかというとそうではない。鮎の塩焼きはほろ苦い内臓まで美味しく、刺身や米沢牛ステーキも味は美味しかった。よって、夕食の総評が微妙なものになった要因には、宮島が終始渋い顔をしていたのも12分にあるだろう。少なくとも、僕は満足していた。また行きますぞ、永澤平八さん(と媚を売っておく)。

画像4
貸し切り半露天風呂


 お風呂は旅館内にいくつかあって、宿泊客がそれぞれ好きなときに「使用中」の札を掲げて入浴できるカップル御用達の貸し切り方式。食後に男男男男で堪能させていただきました。

 入ったお風呂はできたばかりの新築檜風呂で、天井近くをぐるりと1周する窓から外気の入ってくる、風通しのよい半露天風呂であった。足元はすのこになっていて滑りにくく、風通しがよい。風通シガヨイ。むしろ風通しがよすぎて身体を洗うには、ある程度の心構えが必要なくらいであった。1足先に到着した僕と宮島は手早く身体を洗うと、後続の尾道と釧路に熱湯風呂を味わわせるべく、蛇口から渾々と熱湯を注ぎ込み、自分たちは蛇口の対角線に陣取った。すると、遅れてきた2人が身体を洗って湯船に入ってきて、「アチィィィーーーーー」…….とはリアクションすることなく、ぬるっと風呂トークが始まった。身体の皮の厚い男と男。


 お風呂から出た後は部屋へ戻った。疲労から眠ろうとする尾道と釧路を起こしつつ、ねぼけた尾道の口から高校への通学電車にて痴漢をはたらいていたとの言質をとったり(冤罪)、宮島が尾道に折檻したり、深夜に尾道と散歩に出かけたりした。climax night.

画像5


 朝、8時に朝食を食む。温泉卵やシャケ、納豆、冷奴といった定番メニューに舌鼓を打ちつつ、さりげなく出された牛乳がめちゃくちゃ美味しかった。朝食は最初からご飯があったのもポイント高いですねぇ。

画像6


 食後、宮島と尾道は10分ほど散歩に出かけ、僕と釧路は腹ごなしにだらだらしていた。宮島と尾道が帰ってくると、思い残しがないように僕と釧路も散歩に出かけた。

画像7
温泉街になにげなくいるサイズではない大物のマス


 旅館に挟まれた狭い路地を抜けて裏方を見学したり、川を泳ぐ立派すぎる鱒に感動したり、ちょっと上流に足を伸ばすと実に美味しそうなカレーパン屋を発見して財布を忘れてきたことを悔やんだり、図らずも白銀の滝と遭遇して激写したり、河原の石の種類が地元とは違っていることに気がついたり、隠れ家のようにひっそりと口を開く坑道跡に足を踏み入れたり、ついつい冒険してしまった。気がつくと30分ほど経っており慌てて旅館に帰ると、案の定怒髪天をつく勢いで宮島と尾道に怒られ、それらの言葉を甘んじて受け止めた。

画像8


 名残惜しくも別れは必然、愛しき銀山温泉を背にレンタカーで郷を出た。


・メンバー

明石、尾道、宮島、釧路


次の記事はこちら!!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?