『お結び』|"わたし"にとって大事な記憶
「……忘れねばこそ、思い出さず候」
『お結び』クリアしました。
個人ゲーム開発者の「日下部一」さんが5年間(7000時間)かけて制作した和風ホラーゲームです。
2020年04月25日にβ版(フリー版)がゲームマガジンでリリース。※現在非公開
2024年8月1日に完全版がSteamでリリースされました。
また、ゲームマガジン主催の新人賞で初の「大賞」を受賞しています。
ビジュアル、BGM、ともに和風の要素を取り入れており、ストーリーも日本の古い俗習や伝承を取り入れた内容になっています。
プレイ時間は真エンドクリアまで含めて7~8時間でした。
■日常から"辺獄"へ
おおまかなあらすじとしては、高校生である主人公の"日向子"が、ふとした事件をきっかけにあの世とこの世の狭間である"辺獄"に迷い込んでしまう所から始まります。
辺獄を進むと古い日本家屋の中へ、そこでは肉塊のような物の怪が闊歩しており、日向子を襲ってくるのでした。
そして肉塊に追い詰められた日向子、そんな彼女の窮地を救ったのは白い和装に赤い耳飾りをした"一茶"という男性でした。
一茶の話によると天国と地獄の狭間である"辺獄"からは帰る方法があるとのこと。
辺獄には何があるのか、元の世へ戻れるのか、一茶は何者なのか。
そうして、日向子が一茶とともに元の世界へと帰る旅が始まります。
■和風の特色が強いBGM
作中のBGMはテーマソング以外はおそらくフリーBGMですが、いずれも琴や三味線、太鼓などの楽器を用いた和風のものとなっており、作品の雰囲気にマッチしています。また、テーマソングである「Enishi」は作品の顔とも言える曲です。下記の動画で聴くことが出来ます。
■作中で出てくる古来の日本(仏教)的な要素
三途の川、賽の河原、枕飯、小の五衰、狐の嫁入りや忌み名、遊郭…などなど。作中では古来の日本的な要素(どちらかというと仏教)が各所で出てきます。他にも"おにぎり"や"おむすび"という単語の由来なども。
特に賽の河原の「親より先に亡くなった子どもが石積みをする場所。三途の川の手前にある」という話は初めて知りました。
ゲーム外で更に調べてみたところ、賽の河原ではせっかく石を積んでも鬼が来て鉄の杖やムチで壊してしまうそうです。
そうして石を積んでは崩されを繰り返し、いつ果てるともなく石積みを繰り返すのです。
※ちなみに、作中の舞台である"辺獄"はどうやら仏教ではなくキリスト教の概念らしい。
■マルチエンディングと「時の記憶」
「お結び」はマルチエンディングになっており、作中の行動でENDが複数に分かれます。このゲームではSteamにおける実績の要素が無いのですが、その代わりにENDの一つを達成した時や、ゲームプレイ中に特定の条件を満たした時に手に入る"記憶"というスチル(一枚絵のイラスト)があります。それがやり込み要素になっています。
また、このゲームではセーブデータのことを「時の記憶」と呼んでいるのですが、その意味が真エンドで分かるようになっています。プレイする際はぜひ真エンド達成までプレイしてみてほしいです。
スチルはこのゲームを進めた証でその存在意義も真エンドで分かります。
■感想
『お結び』を途中までプレイしていた間は和風の要素が強いホラーゲームで見た目やBGM、ストーリーもキャラクターも良いな~、くらいに思っていたのですが、真エンドに仕掛けられた要素が斬新で、心に来るものがありました。
また、OPアニメーションやテーマソングが用意されていたりなど、個人制作とは思えないくらいの作り込みです。
キャラクターのドット絵の表現も多様で数パターンあり、よくここまで作ったものだと思います。
実績の代わりに用意されているスチルはどれも良いものなので、プレイする際はぜひ集めきって欲しいです。
■補足1:作者さんの実録漫画
日下部一さんが『お結び』のリリース前日に投稿した、ゲーム制作に関する実録漫画です。ゲーム制作を始めた理由などが描かれています。
■補足2:日下部一さんと橙々さん
「会社員をやりながら5年間で約7000時間かけて作成した」となると、同じように「ブラック企業で働きながら8年間で約4000時間かけて作成した」という『アクアリウムは踊らない』の作者の橙々さんを彷彿とさせますが、二人はお互いを認知しており、日下部一さんのYouTubeチャンネルでコラボ対談もしています。
この対談によると、日下部一さんにとってはゲーム制作は「マインクラフトをやるようなもの」だそうです。それほどゲーム制作が楽しいという事でしょうね。自身のYouTubeチャンネルの作り込みを見ても、何かを作る事が好きなのだという事が伝わってきます。
以上、ここまで読んでくださりありがとうございました。