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有斐閣の編集者が「新社会人」におすすめする本:ビジネス書編

こんにちは、有斐閣書籍編集第二部です。

今年は学び方・働き方をはじめ、さまざまな面で例年とは違うかたちで進んできました。そんななかでも「新しく勉強してみたい」という方は多いと思います。

この一連のマガジンでは、各分野を担当する編集部員に「おすすめの本」を尋ねています。今回は「ビジネス書編」では「新社会人」になった方々を念頭において、おすすめの本を編集部のフジサワに聞いていきます。

①分野のかんたんな紹介

――:「ビジネス書」というと、働く人ビジネスパーソン)が参考に読むような分野だと想像しますけど、どんなことが扱われる分野なんでしょう?

フジサワビジネスマナーや、モチベーションアップ情報整理術など多くのビジネスパーソンを対象にしたものから、ファイナンスマーケティングなど特定の分野に従事している方に向けてわかりやすく解説しているものまで、さまざまなジャンルの本があります。

――:なるほど。幅広い層を対象にした本から、分野を絞った専門的な本まであるというのは、私たちが得意とするいわゆる「学術書」とも似ているかもしれませんね。

フジサワ:そうですね。ですから、やや広めの定義ですが、このようなビジネスに必要な知識や考え方、情報などが書かれている分野の本、とまとめられると思います。

②予備知識なしに1冊目に読みたい本

――:それでは、社会人1年目の方や、若い方々に1冊目におすすめしたい本を紹介してください。

フジサワ:私がおすすめするのは『思考の整理学』(ちくま文庫)です。

――:おおお、とても有名な本ですね。そうか、この本って、ビジネス書としても読まれているのか…。

フジサワ:30年以上前に刊行された書籍ですが、アイデアを発見し価値あるものに昇華させていく際に必要な考え方、情報に対しての向き合い方など、現代でも通ずる内容について多く言及されています。

――:なるほど、たしかに時代を超えて普遍的に通じる話ですよね。

フジサワ:たとえば、「すてる」(同書p.128~133)について私なりに要約して論点を抜き出すと、

「知識習得や情報収集することだけに気をとられてはいけない」
「自分のものさしを持って、手持ちの知識を再点検し精選することが大切」

となります。油断するとすぐに情報過多になりがち今だからこそ、気に留めておくべき事柄だと思うわけです。

――:たしかに、ウェブを眺めているだけでも疲れますしね…。少し前に流行った「断捨離」とか「こんまり」さんとも通じるのかな。

フジサワ:それはわかりませんけど(笑)、この本を手に取ろうか悩んでいる方は、冒頭エッセイの「グライダー」(同書p.10~15)だけでもざっと読んでみてください。この書籍のテーマの中核とも言うべき「自分の頭で考えることの必要性」を強く実感させてくれる内容です。個人的にも、何度でも読み返したい、手元においておきたい一冊です。

ちなみに、大学生協でもよく売れているこの書籍のコピーはずばり「東大・京大で1番読まれた本」。そういう観点からも、この本は支持を集めているようです。

③その次に読むといい本

フジサワ:その次に読むとすれば『データ分析の力ーー因果関係に迫る思考法』(光文社新書)をおすすめしたいと思います。

所属する部署を問わず、自らデータ分析を 行ったり、あるいは何か重要な決断をする際に「誰かのデータ分析」に基づいて判断を行う場面が増えてきていると思います。データ分析を専門的には学んでこなかったけれど、これから分析したり見極める力を養いたいと感じている方にまず読んでほしい1冊です。

――:たしかに、今はデータ分析とかデータサイエンスって、ものすごくよく耳にしますね。わかりやすい本が求められている印象です。

フジサワ:この本は直感的にデータ分析の考え方を理解することを狙った本になっています。データ分析で基本となる「因果関係(何かを行うこと〔X〕が結果〔Y〕にどのような影響を及ぼしたか?)の見極め方」について、身近なサービスや大統領選など多くの具体例や豊富なビジュアルをもとに解説しています。前半では、因果関係に迫るために開発された様々な手法について、後半では「実践編」としてデータ分析をビジネスや官庁での政策形成に生かす際に必要なキーとなる考え(上級編として「データ分析の限界」)について書かれています。

――:この本、編集部にも読者が何人もいますけど、取っつきやすいですよね。

フジサワ:新書ですし、これらの内容がとてもコンパクトにまとまっていて、2時間ほどで読み通すことが可能なのが、おすすめしたい理由でもあります。

この東洋経済オンラインの記事では、著者の伊藤公一朗先生は世の中にあふれる誤ったデータ分析に注意するよう警鐘を鳴らしています。データ分析になじむためにも、また誤った分析にミスリードされないためにも、まずはこの本で基本知識をインストールして、末尾で紹介されている他の計量経済学の著作にアタックすると良いのではないでしょうか。

④さらにおすすめしたい本

――:ほかにもすすめたい、いい本あります?

フジサワ『戦略硬直化のスパイラルーーどうして企業は変われなくなるのか』ですね。こちらは、編集部から2019年に刊行した経営戦略論という分野の本です。

――:これまでの2冊に比べると、けっこうハードでしょうか。

フジサワイノベーション企業変革について書かれたビジネス書はたくさんありますけど、この本はその逆です。これらを阻害するものの正体を探究していき、「どうすれば企業が変革ができるようになる土壌をつくれるようになるか」という、より本質的な部分に焦点を当てた一冊となっています。

イノベーションや企業変革が必要なのはわかりきっているのに、なぜこの会社は変われないのか?」という問いを一度でも抱いた方には是非読んでいただければと思います。

――:(それは、わたしたちも、読まなきゃ、いけないのでは…)

フジサワ:(ええ、わたしは読みましたよ…)

――:(そうですよね……あれ? どうして心の声が?)

フジサワ:(漏れていますよ…)

――:(えええ…!?)

フジサワ:(話を戻しますが)この問いに答えるために、この本では「戦略の硬直化」、つまり「企業の中で望ましくない戦略が取り続けられてしまう現象が発生するのはどうしてなのか」ということに着目します。

――:なるほど。身に覚えがありますね。

フジサワ:実在する(した)企業の失敗例も引き合いに出しながら、企業が変革できない体質になっていく恐るべき循環構造=「戦略硬直化のスパイラル」にハマってしまうプロセスを浮き彫りにして、そこから抜け出すためにどうすればいいのかという対処法についても解説しています。

現代を象徴するVUCAという言葉を耳にしたことのある方は多いと思います。将来が不確実で、変革を求められるこの時代だからこそ、新社会人の方にとってもどのような心構えがこれから必要なのか、考えるきっかけになると思います。

また、この本のタイトルともなっている「戦略硬直化のスパイラル」は、日本でもベストセラーとなったクレイトン・クリステンセン教授の『イノベーションのジレンマ』(翔泳社、2001年)やその内容を踏まえた『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』(日経BP、2018年)に書かれている内容と関連性が高いテーマです。これらの本をすでに読んでいる方でしたら、あわせて読むと知識がつながっていく楽しさも味わえるのではないでしょうか。

――:中川功一先生はストゥディアの『はじめての国際経営』の著者でもありますよね。

フジサワ:はい。わかりやすく伝える努力を惜しまない方ですし、先生ご自身が本の内容を解説した動画も観つつ、手に取ってもらえたらと思います。


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