ラブレターが茶封筒だったおかげで、私の人生が華やいだ。
小学3年生の頃、クラスの男の子からラブレターをもらった。
ラブレターといえばポストカードサイズの白い封筒に、赤いハートのシールというイメージだった。
でも、そのラブレターは茶封筒にセロテープだった。
茶封筒って本当にラブレターなのかよ。と、思われるかもしれない。
封をする為のセロテープに、マジックでラブレターと書いてあった。
だからラブレターで間違いない。
内容は忘れてしまった。好きですと書いてあった気はする。
同じ彼から3回手紙をもらって、1回目も2回目も茶封筒だった。
きっと家で見つけたものを使ったんだろうと思う。
1回目と2回目は、彼の友達を経由して渡された。
私はどうすれば良いか分からず、とりあえず何もリアクションしなかった。
彼も何か話しかけてくるわけでもなく、クラスメイトとして同じ教室に居て、たまに目が合うと気まずくなるだけだった。
そんな3年生の秋、私は転校することになった。
転校前の最後の日、帰りの会でみんなにさよならをして、よし帰ろうとランドセルを持った時、彼が近付いてきた。
3回目の手紙を持っていた。
そして彼は私に手紙を差し出して
「・・・何座?」
と聞いてきた。
「え、あ、かに座」
と答えるしかなかった。
「ありがとう」
と言って、彼は去っていった。
渡された3回目の手紙は茶封筒ではなかった。
白い封筒の中に紫の内紙が貼られた二重封筒(もちろん縦型の和封筒)だった。
少し豪華な封筒だったのはお別れだったからだろうか。
その内容もほとんど忘れてしまった。
ただ、彼の誕生日が書いてあった後に
「〇〇さんは、何月何日何曜日の何時生まれですか?」
と、書いてあったのは覚えている。
「曜日と時間まで!?」
と、思ったことも。
次の日、引っ越しのトラックが家の荷物を全て積み込んで出発した事を確認し、我が家も車で当時住んでいた社宅を後にした。
社宅の敷地を出る時、当時中学生だった兄の友達がたくさん自転車で見送りに来てくれていた。
その中に、ひとりだけ小さい男の子が小さい自転車にまたがって立っていた。
もちろん彼だった。
彼は何か言おうとするわけでも、前に出てくるわけでもなく、照れ臭そうに車を見たり見なかったりしながら、ただ中学生の中に紛れていた。
私は恥ずかしすぎて、気付かないふりをした。
振り返った時にはもう見えなくなっていた。
私の人生は面白くない。
だから、その彼との後日談なんかは無い。
これで終了。
ただ
茶封筒や二重封筒、最後の会話が星座の話だったことや何曜日の何時に生まれたかの問い。
小学3年生の彼が起こした難解な行動は、まるで純文学のようにも思える。
もしかすると、私の人生は小説のようだと言っても良いのかもしれない。
彼のラブレターが私の人生を華やかなものにしてくれたのかもしれない。
BGM:あこたとらのしはい/LOST IN TIME
今日もすきだぞー!