日本的なる教育ICT推進ビジョン 〜セカンドリーダーへの権限移譲とトレーニングコミュニティの形成〜
本noteをお読みくださりありがとうございます。
このnoteでは、教育ICT活用推進事業の一環で、多くの教員の方々にヒアリング、授業見学、研修を担当させていただいている筆者が、2021年7月現在の日本の教育ICTの現状を整理し、声を大にして警笛を鳴らすものだ。
内容は、極力エビデンスベースで、わかりやすく本編に書いているので、読み進めて見ればお分かりになるだろう。
読者の皆様においては、どうか本noteの問いに対する意見を、あわよくばご自身の周りの教育現場の現状を踏まえ、お寄せください。
まず、この問いについて、意見をください。
「暴論だ!!」
と感情的になるのはまだ早い。冷静になり、状況を見つめた上で、じっくりと考えていただきたい。
教育は未来への投資、国造りの根幹。つまり、皆様のお子様、親戚の御子息御息女、ご近所のちびっ子の未来の明暗を左右しかねない一大テーマだからである。
さて、この問いは、私がNewSchoolというビジネスマン向けのオンライン講座を受講し、その末に立ち上げた泥んこビジネスを携え、同サービスのビジネスコンテストの決勝で受けた実際のフィードバックだ。
ちなみに私の答えはNoだが、これよりその論拠を示す。
初めに断りを入れておくが、NewSchoolの事業関係者の皆様には、筆者のビジネス構築に多大なご協力をいただいた。講座もますます充実し、日本のビジネスシーンを飛躍させる事業だ。受講生の皆様も合わせ、感謝の念しかない。
このnoteはNewSchool事業を否定するものではなく、あくまでこのピッチ中にいただいたフィードバックを深掘りし、ポジティブな行動を促すものである。
教育ICTの課題とGIGAスクール構想
豊福晋平氏の運営するgakko.siteの投稿から上の資料を引用する。
OECDの調査によると、日本の教育現場の内外のICT活用状況は、OECD加盟国と比較して最低クオリティの様相を呈している。
また、ICTを活用しなければならない理由については、こちらのnoteですでに述べているため、参照されていただきたい。
さらに、活用状況とは裏腹に、現在のPISAの結果によると次の結果が出ている。
日本は上位につけていると言える。
現場の先生方の魂のご指導、及び学習支援事業者の皆様の貢献の賜物である。
だが、現状のままテクノロジーを用いるスキルとその学び方で遅れを取り続ければ、子どもたちの個別最適な学びが他国比で遅れ、国際間で活躍したいと考えている子どもたちのWell-beingや自己実現を促進することはない。
この側面から日本ではGIGAスクール構想が立ち上がり、2019年度末期から4500億円を超える予算が投じられ、教育現場に一人一台の端末が導入され、合わせて高速通信ネットワークが整備された。
本当に実現したかの真偽チェックはさておき、上図のようなツールが利用可能となっている。ここまでを前提で話を進めたい。
"自治体には金が、学校には端末が放り込まれただけ"
これは、私が訪問しているとある公立中学校のICT担当の先生がおっしゃった言葉だ。
文科省の資料によると、2021年度以降、上図の通りの戦略を実践しているようだ。
筆者がその「企業等の多様な外部人材」に相当する当事者で、多くの業者から注文や問い合わせが来ているので間違いない。
現場の先生方は、まだ端末が放り込まれただけで、「何ができるかな?」とみんなで確認し合っているフェーズと言えよう。
さて、そろそろ本題に入る。
筆者が警笛を鳴らす上で、着目しているデータから紹介しよう。
教員の年齢構成と加齢に合わせた能力衰退
この記事をお読みの皆様は、ICTに精通されている方々が多かろう。
故にGIGAスクール構想で端末が入ったことで、急速に現場がキャッチアップできると楽観視されている方も少なくないだろう。
ところがどっこい、筆者は学校訪問、及び研修で、この「キャッチアップ」が各駅停車でしか進まない実態を体感している。
「ブラウザって何ですか」
「ログイン?Suicaかなんかでやるんですか?」
「パスワード・・・あー、数字四桁の暗証番号ですか?(超危険)」
「(画面を見ずにキーボードに釘付けで人差し指でアルファベット入力後、全部入力したと思って画面を見たら)・・・あ、しまった!かな入力にしなきゃ。」
・・・これはフィクションではありません。全て筆者が現場で受けている、現在進行形、ベテラン教員からの質問だ。
次の二枚のグラフを見ていただきたい。
まずは公立小中教員の年齢構成(2016年)だ。5年後の今、母集団の山が50~54歳となっているだろうか。
そして健康長寿ネットから参照の「知能と加齢の関係」だ。
なるほど、確かに50歳を超えると、驚くべき勾配で処理速度、推論、記憶の知能が下がっていくではないか。あくまで平均だが。
年齢構成と知能劣化の2点が、日本のICT活用推進を長年阻んでいる大きな要因のと筆者は予想する。もちろん業務過多や時間なども挙げられるが、それらは本noteでは割愛する。
同じ講習をしても、若手の先生方と、ベテランの50代以上の先生方で、吸収するスピードに雲泥の差があると感じていたのは、このエビデンスが証明しているのだろう。
故に、ベテラン向けの研修は若手向けとスピード感や難易度も変え、回数も拡充しなければならない。
これでは、GIGAスクール構想の津波に押し流されてしまう方が早い。暴論が通ってしまう・・・
ICT活用格差には「緩やかな体制づくり」が決め手
恐れず、あえて言おう。
ここまで来ても、ICT活用に一向に着手しない先生方は大勢いる。校長からの業務命令が出ているにもかかわらずだ。(もはや就業規則違反なのではなかろうかと感じることさえある。)
子どもたちはすでに、ICT活用に明るい先生に教わるクラスと、そうでないクラスとで、学び方に大きな違いが生まれてきている。
「教科担任性」という個別アプローチが、このGIGAスクール構想に遅れをとっているのだ。
故に今できる精一杯の策は、管理職ではないが、ICTに明るい「セカンドリーダー」なる若手教員が、ベテランをフォローし、教材や教授法をシェアする集団アプローチに切り替えることだ。
実際、現場の「古き良きOJT」は崩壊してきている。筆者がそうであったように、若手の教員がICTに関してはベテランのメンターとなっている。
さもなくば、生徒側、保護者に不満が生じるのは避けられないし、現にクレームに発展しているケースもあると聞いている。
集団アプローチを可能にする2本の生命線
集団アプローチを可能にするためには、なんと言ってもセカンドリーダーの数を増やすことが最優先だ。
筆者の経営するスクールエージェント株式会社では、オンラインで学ぶICT活用講座を充実させているのは、このセカンドリーダーに届けるため。
もちろん、学校現場に赴いて、若手とベテランに同時に学んでいただくチャンスの創出も欠かしてはいない。
だが、トレーニング1本で果たして、セカンドリーダーがベテランとコラボレーションすることができるだろうか。
2本目の矢は「権限委譲」だ。
世の中の教育現場の仕組みを更改できる方々、及び現場の校長先生はよく聞いてほしい。
「リスク」とは適切なノウハウと強い改革意思を持っている人に、権限を委譲しないことだ。
学年主任や教科主任、分掌の長でなくても、どんどんこのセカンドリーダーの意見に耳を傾け、実験をさせるのだ。
無理に全権を与える必要はない、実験したり、仕組みを直接提案して良いようにするのだ。
管理職が理解できないことをいいことに、いつまでも判断権を奮っていてはいけない。
もし、セカンドリーダーにチャンスを十分与えていない管理職がいれば、彼らが理解できるようになるまでに、世の中の需要や、子どもたちの能力はその何倍も速く高まり、玉手箱をあけたかの如く、感じるだろう。
ICTを活用しない教員を排除すべきか?
話を戻そう。
私の答えは、もうお分かりだろう。
もちろんNOだ。
考えても見てください。世の中のマクロばかり見ている人は、平気でそんなことを口にする。
が、排除なんて、万が一した結果、急に教員が増えないのも事実。
増やせばいいというなら具体策は?(失笑)
子どもたちに必要な心理的安全な場を巧みに形成できるベテランが現場から身を引いた場合、カスタマーサクセスで課題が増えるだろうし、日本が結果を残している教科指導で厚みを失うのだ。
再度にはなるが、ICTを使わないベテランには進化してもらわないといけない。ICTを使わないなど言語道断だ。
労務の観点で、そもそも排除なんてしないだろうし、そんなことをするよりも早く時はすぎる。村社会ヒューマンヒエラルキーが民主主義の根底にある日本で、ICT活用を推進するのは、本当に骨が折れることかもしれない。
さらに、時代は移り変わる。
筆者も教員でありGoogleから特別な認定を受けるほどに、テクノロジーの恩恵を受けているが、数年後には時代遅れのグループに属していくかもしれない恐れがある。
"では、49歳までしか教員はできないというルールを作ればいい。"
それは面白いアイディアだ。またの機会に考えてみよう。笑
ICTトレーニングコミュニティを教育の予防医療と捉える
加齢と共に、様々な病を患いやすくなる。そう言った観点から予防医学が注目をより集めている。
本noteで述べてきた内容を踏まえれば、今ベテランの先生方に研修をし続けることはもちろん、これからベテランになっていく先生方に、トレーニングを受け、指導研究を続けてもらう体系を整えることが、万年ドベのICT後進国日本から脱却する唯一の手段ではなかろうか。
知能低下する前に、ICT活用を日常化し、学び続ける習慣をつけておく。研究熱心な文化・土壌は、日本の教員の研究授業をより高次に発展させるだろう。
こうすることで切り捨てなくて良い可能性が残る。
筆者が描く、長期の教育ICT推進プランの背景を長文に渡り綴ってきた。
その具体的な内容、提言、研修体系については、こちらのイベントでお話しする予定だ。
地域や保護者の意見が学校を突き動かしやすいシーンに入ってきた。それは、テクノロジーは一般企業の方が遥に活用しているからである。
冒頭にも述べたが、読者のみなさま、一人ひとりのお考えが、明日の教育現場の発展につながっている。
是非とも忌憚なくご意見をお聞かせいただき、あわよくばこのnoteを興味ありそうな方々に共有していただきたい。
また、私のこんな泥臭い考えに賛同してくださる方がもしもいらっしゃれば、是非一緒に動いていこうではありませんか。
毎度、長文につぐ長文コンテンツをここまで、お読みくださり、読者の皆様には本当に感謝をしかない。
筆者は不器用ながらも、子どもたちに鞭をとる先生方とお一人お一人向き合う覚悟で、ミクロな視点から教育ICT推進に従事していく。
ありがとうございました。