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ドンドゴビライフ3日目 2/2

 調教師のお宅に到着。
 ここもトレーラーハウスのようだ。

 みんなで「こんにちは」と言って調教師を囲み、馬を見せてもらった。

広大な草原で群れの居場所を把握するため、首にGPSが巻かれている
多数の馬に給餌するため、餌袋を首にかけて食べさせる



 その後に家へ入り、奥さんにも「こんにちは」と挨拶してみんな調教師からいろいろ説明を受けたり、質問したりしていた。


 イギリス人女性2人の内1人は教授でモンゴル語を話す事ができ、何を話しているのかもう1人の学生に説明しながら会話を楽しんでいる。
 対面にいる私には聞こえずみんなが何を話しているかはわからなかったが、輪から外れるのも良くないと思い、雰囲気に合わせて笑顔を作ったりして並んでいた。


 子ども達と話していたチンギスが隣に座ってきて、スマホに文章を打って話しかけてきた。
 「モンゴル語で挨拶しろ」と書いてある。

 既に挨拶したのに何を言っているのかと思い「はじめ会った時に挨拶したよ」と書いて渡す。
 すると次は「奥さんに挨拶しろ」と書いてくる。

 奥さんにも声をかけたじゃないか!

 スマホを返すと今度は「調教師にモンゴル語でもっと挨拶しろ」と来る。
 みんな談笑しているよ…?

 「モンゴルでは、会話に割って入って自己紹介するのは失礼じゃないの?」と尋ねると「そうだ、だからモンゴル語で挨拶しろ」と言ってくる。
 とても信じられなかったけど、たとえ事実だとしてもモンゴル語で話しかける時は辞書代わりの会話帳を使っていて、それは離れたリュックに入っているからモンゴル語は使う事ができない。

 だから「今はモンゴル語は無理だ」と伝えたかったが、私が慌てている間にさらに「調教師や奥さんに何も言わないのは失礼だ」と圧をかけてくる。
 何度も「挨拶はした」と返事するのに「していない、失礼だ」と怒ってきて、どうする事もできない状態にまた取り乱してしまう。


 さすがに家の外に出た。

 チンギスはまた母親に電話をかけて渡してきた。
 自分でも謎すぎる状況ながらヤンジッドルマさんに説明していると、チンギスがまた隣から違う事を言ってくる。
 今日のチンギスは何がしたいんだろう…!?

 「とにかく帰ってから話をしよう」という事になり、ひとまずチンギスと話す事になった。
 子ども達も心配して取り囲む。

 私が困り果てている事に怒り始め、子ども達の目があるからか「これから何度もこんな事は起こるから、慣れなければならない、歳も文化も違うから理解し合う事は難しいけど必要だ」とか「彼らと会話を始めてほしかっただけだ、悲しむより喜んでほしい」とか見当違いな美しい話をしてくる…

 会話をしてほしいと言われても、みんなが何を話しているかわからないのに無理だよ…
 いくら話しても無駄なやり取りが続き、言ってる事は正しいんだけど状況の原因については話し合う事ができない。

 全く話が通じなくなってしまったチンギスに恐怖すら覚える。

 しかししっかりしているとはいえ、チンギスの年齢はまだ子どもだ。
 たしかに私が要求しなくても自発的にイギリス人女性のように通訳してくれる、という事は期待してはいけなかった。

 少なくとも今日のチンギスには話しても難しいと悟り、気持ちを切り替える事にした。
 「私が積極的になるべきだったし、自分からあなたに何をしてほしいか伝えるべきだったね」と話すと「自分は君のために何でもするから、してほしい事は言ってくれ」と話の着地点がようやく見えてきた。

 「自分を落ち着かせるから、しばらく1人にしてくれ」と言うと頷いたが、結局はついて来る。
 しかし子ども達から離れて余裕ができたのか、また少しまともな会話ができるようになって日本の音楽を流したり踊ったり、私を笑わせようとし始めた。

 本当は1人で気持ちを整理したかったけど、ここまでされたら笑うしかない。
 今日のチンギスは酷く不機嫌かと思えばこうして無理に明るく振る舞ったりして、情緒不安定に見える。


 2人で家の方向へ向かうとちょうどみんなも出てきて、マザーと教授を見送る所だった。

 マザーは「困っているのに理解できずごめんね」とモンゴルのお菓子とアルフォートをくれた。
 きっと手土産を買った時、私を励まそうと日本のお菓子を買ったのだろうと思ったらますますマザーが女神に見えた。

 教授には「気楽にいるのが一番いいからね」と言われ、たしかに私は"支払いをせねばならない"とかチンギスの"モンゴル語で挨拶しなければならない"という言葉とか、そういった事に追い詰められていた事に気づいた。

 普段からヤンジッドルマさんがいろいろ手配してくれ、自分はチンギスに案内してもらうばかりな状況を申し訳なく思っていて、私は「自分で自分の面倒を見られなくて情けない」と思っていた。

 完全に人任せにできるバカになれていたら、ただ楽しむ事だけができていただろうけど…そうはなれなかった。
 でも、それで良いのかなぁ?


 チンギスと私、そしてイギリスから来た学生ケシーの3人が残った。


 みんなでゲルを組み立てた。

 夫妻に子どもが8人という家族だから、客が3人も来たら入れるスペースが必要なのだろう。

 しかしあらかじめ用意しておくのではなく、当日の事は当日やる。
 そのモンゴルスタイルのおかげで、自分もゲルの組み立てを体験する事ができた。


 終わったら夕食…と思ったが、たくさんの家族が食べ物を平らげてしまったらしく、いつ食べられるかわからないと言う。

 どうしようかと思ったが、茅原さんが非常食をくれていたのを思い出した。
 チンギスとケシーの分も出そうかと尋ねたが、不要との事で自分だけ食べる事にした。

 チンギスにお湯をもらえるか尋ねたら「自分に何でも言え」と言ったくせに「家の子どもに頼め」と言う。

 今日のチンギスは言動がちぐはぐだ…
 それで家の子に言ったらチンギスが「もう沸かしている」と言う。


 今日のチンギスは本当に変だ。
 ヤンジッドルマさんの姉妹だという奥さんが話しかけたり私が翻訳して伝えて欲しいと話しても、すぐ隣で下を向いて聞こえないふりをしている。


 寝る時間になったら、チンギスはケシーと私とは違う場所で寝ると言う。
 明日起きたら、元に戻っていれば良いけど…

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