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舞台 「Q」:A Night At The Kabuki 観劇レビュー 2022/09/03

東京芸術劇場にて撮影


公演タイトル:「Q」:A Night At The Kabuki
劇場:東京芸術劇場プレイハウス
劇団・企画:NODA・MAP
作・演出:野田秀樹
音楽:QUEEN
出演:松たか子、上川隆也、広瀬すず、志尊淳、橋本さとし、小松和重、伊勢佳世、羽野晶紀、野田秀樹、竹中直人他
公演期間:7/29〜9/11(東京)、9/22〜9/24(ロンドン)、10/7〜10/16(大阪)、10/22〜10/30(台北)
上演時間:約165分(途中休憩15分)
作品キーワード:時代劇、ラブストーリー、戦争、源平合戦、シェイクスピア、舞台美術、笑える、泣ける
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


日本の演劇界の重鎮である野田秀樹さんが主宰する劇団「NODA・MAP」の舞台作品を観劇。
NODA・MAPの観劇自体は、昨年(2021年)に上演された「フェイクスピア」以来2度目の観劇で、2019年に初演の今作の観劇は初めて。

物語は、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」のその後を、源平合戦と結びつけて時代劇×ラブストーリーの和洋折衷なエンターテイメントとして展開される。
平家側にいる青年である平の瑯壬生:ろうみお(志尊淳)と源氏側にいる少女の源の愁里愛:じゅりえ(広瀬すず)は恋に落ちて結婚するも、源平合戦中に起きる事件で2人は離れ離れに。
そして、眠り薬を飲んだ愁里愛と気絶した瑯壬生は目が覚めるが、その2人に次に襲いかかってきたのは...という話。

幕間を挟んで、前半はコメディ要素が強めの源平合戦の歴史と「ロミオとジュリエット」の物語を重ね合わたストーリー展開に、野田秀樹さんの鬼才ぶりを痛感する脚本構成だった。
一方で後半はかなりシリアスな展開になっていってラストはウルッとさせられるほど心動かされる重厚な仕上がりでとても素晴らしかった。
後半の詳細な内容は「ストーリー・内容」欄に記載して、ここではネタバレになるので控えるが、まさに今のご時世だからこそ響く、そしてロンドンや台北といった海外でも痛感させられる内容になっていると感じた。

また野田秀樹さんの戯曲らしく、掛詞(かけことば)の多さとそのセンスに笑わせられ、感心させられた。
例えば、「名を捨テロリスト」という銃を持ったテロリストたちが登場するが、SNSで匿名アカウントで権力者への誹謗中傷を投稿するものだったり、乳母と「Uber」をかけ合わせたりなど、歴史的なものと現代的なものの掛け合わせが秀逸で個人的に興奮させられた。

QUEENの楽曲も多用に使われていて、QUEENファンには堪らない内容に仕上がっていた。
QUEENの曲調に合わせて作られたシーンも見受けられて、音に合わせて舞台が切り替わっていくスピード感、疾走感が観ていて爽快だった。きっとイギリスでもウケるだろう。

舞台装置も様々に仕掛けがあって、回転扉を上手く使った演出が面白くて場を盛り上げ、生ものだからこそ上手く行ったりいかなかったりしそうな、ハプニングが起こりそうな仕掛けも沢山あって、観客としてはヒヤヒヤしつつも楽しむことが出来た。

観劇者の感想には、NODA・MAPにしては分かりやすいという意見が多かったが、たしかに主軸となるテーマは誰にとっても伝わる分かりやすさがあるのだが、源平合戦などの歴史的背景や、「ロミオとジュリエット」への理解、そして世界史が詳しければ詳しいほど作品への理解度が増して解釈の幅も広がる、奥行きのある舞台作品に感じた。
ぜひ多くの人に堪能して欲しい傑作だった。

【写真引用元】 SPICE
https://spice.eplus.jp/articles/306262/images/1099215


↓戯曲『Q』


【鑑賞動機】

昨年(2021年)にNODA・MAPを「フェイクスピア」で初観劇して、シェイクスピアの題材を元に、ノンフィクションを織り交ぜる脚本のクオリティに圧倒され癖になったので、今年もまた観劇しようと思っていた。
今年は2019年に初演された「Q」の再演で、「Q」はその年の読売演劇大賞最優秀賞を受賞するくらいの評判の高い舞台作品だったので、迷わず観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリー展開はうろ覚えの箇所も多いので、途中省きながら流れだけ記載していく。

船に乗ってやってきた平の凡太郎(竹中直人)は、それからの愁里愛(松たか子)に手紙を渡す。それは、それからの瑯壬生(上川隆也)からの手紙であったが、白紙であった。

時間は巻き戻り、愁里愛がまだ若く源の愁里愛(広瀬すず)だった頃。源氏の屋敷?で。愁里愛が水着姿でいた所を源の乳母(野田秀樹)がやってきて、愁里愛は悲鳴を上げる。源の乳母は「Uber」とかけて配達員のように愁里愛の元にお邪魔した。
一方で、平家には平清盛(竹中直人)とその息子の平の瑯壬生(志尊淳)がいた。
それからの愁里愛は、自撮り棒を用意してそれをプレゼント交換の場に紛れ込ませた。プレゼント交換の場では、その自撮り棒を通じて平の瑯壬生と源の愁里愛は出会い、恋をする。平の瑯壬生は夜這いを通じて会いに行くと約束する。

平清盛は、「名を捨テロリスト」という匿名のテロリストたちにSNS上で誹謗中傷を受けていた。彼らは匿名なので名前を特定することは出来ず、それによって源氏と平氏の対立は強まっていく。
源氏と平氏は騎馬戦で戦い始める。
そんな中、源の愁里愛と平の瑯壬生は結婚する。結婚式の神父は、和婚のような雰囲気を出したり、「アーメン、ソーメン、担々麺、激辛」とキリスト教の神父のようなことを言い出したりと和洋折衷である。源の愁里愛は、平の瑯壬生と結婚したことを源の乳母に知らせるが驚かれる。敵である平氏と結婚したことを。

源平合戦の最中、平氏側の平の水銀(小松和重)は源義仲(橋本さとし)によって殺されてしまう。そして、それを見た平の瑯壬生は源義仲を刀で殺してしまう。平の瑯壬生は源氏に捕らえられ、島流しに遭うことになる。
その事実を聞いた源の愁里愛は悲鳴を上げる。最初は平の瑯壬生が殺されたと誤報を聞いて悲しんだが、島流しと聞いても会えなくなってしまうなら死んだも当然と言い、平の瑯壬生が流された吉野の山へ向かう。
源の愁里愛は吉野の山へたどり着くと、島流しにあった平の瑯壬生は死んだも当然なので、自分も命を絶とうと気絶する薬を飲みそのまま眠ってしまう。
一方、眠った源の愁里愛の元にたどり着いた平の瑯壬生は、源の愁里愛が眠っているのではなく死んでいると勘違いして、自分も命を絶とうと自害しようとする。しかし、それでは源の愁里愛と平の瑯壬生は終わってしまうので、それからの愁里愛が平の瑯壬生の頭を自撮り棒で思い切り殴って気絶させる。
その頃、源平合戦もいよいよ大詰めを迎えて戦争の兆しがあった。

ここで幕間に入る。

平清盛は、その頃はまだ勢いが残っており、キーコインによって利益を得ていた。
一方で源氏は、源頼朝(橋本さとし)が登場し、大量の風船を引き連れたりして派手に登場した。

源の愁里愛は出家して名前を捨て、それからの愁里愛となった。出家した女性は周囲に沢山いて、その中には尼トモエゴゼ(伊勢佳世)や尼マザーッテルサ(羽野晶紀)がいた。尼マザーッテルサは、源平合戦と世界大戦が混ざっているからマサーッテルサと言う。
出家した彼女たちは、病床で怪我をした兵士(平氏)たちを救護した。そこには、それからの瑯壬生の姿があった。

平家はついに源氏によって滅ぼされる。安徳天皇が入水する壇ノ浦の戦いにおいて。源頼朝は政権を握る。
源頼朝はそれからの愁里愛を妻として招き入れて、洋食のコース料理を注文し、食べ始める。一方で、兵士(平氏)たちは極寒の地で黒い雪の降る中、必死で黒パンを求めていた。まるで凍え死んでしまいそうな状態で、奴隷として働きながら右往左往していた。その中には、それからの瑯壬生や平の凡太郎の姿もあった。それからの瑯壬生と平の凡太郎は、同じシベリア抑留の奴隷として仲良くなっていた。

いよいよ、シベリア抑留の奴隷たちが解放され、自国に帰れるときがやってきた。しかし、自国に帰れる者の名前として、平の凡太郎は名前があったが、それからの瑯壬生の名前はなかった。
それからの瑯壬生は、平の凡太郎に一枚の手紙を渡して、これをそれからの愁里愛に渡してくれと依頼する。平の凡太郎はそれからの瑯壬生の手紙を持って船で帰国する。

平の凡太郎は、それからの愁里愛にそれからの瑯壬生からの手紙を渡す。手紙の内容は、自分はずっと奴隷として名前なんてつけられずにずっと働いてきたけれど、瑯壬生という名前の男があなたのことをずっと思い続けていたという事実は忘れないで欲しいというものだった。
それからの愁里愛は、その手紙を読み上げ涙して物語は終了する。

前半は、源平の戦いと「ロミオとジュリエット」のストーリーを上手く重ね合わせたことによって、演出に関しても和洋折衷した工夫が凝らされていて、終始面白かったし感心させられた。それに加えて、1000年という時を逆手にとって、鎌倉時代と現代を上手く結びつけてSNSやUberといったものを登場させるセンスも素晴らしいなと感じた。野田秀樹さんらしい掛詞による発想で、独創的な世界観が次から次へと飛び込んできて、次に何が起きるか分からない予測不可能な展開に度肝を抜かれたし、だからこそ笑えた。
そして後半になると、前半のコメディ要素は嘘だったかのように、シリアスな展開になる。手紙を紙飛行機にして爆撃機に見立てたり、平氏と兵士をかけ合わせたり、出家した尼は看護婦となって兵士たちを救護したりと、そこにまさかシベリア抑留という歴史的事実を織り交ぜるとは、予想もつかなかった。
考察でも詳しく書くが、たしかに源頼朝は第二次世界大戦時のソビエト連邦の独裁者スターリンとも通じる部分がある冷酷さがある。そして昨今のウクライナ情勢を鑑みると、まさに今観ておくべき舞台作品にも感じてくるし、改めてロシアがやってきた非道さというものがクローズアップされている気がする。
本当にNODA・MAPの舞台作品は、改めて奇想天外の連続で、予想が全くできない、だからこそ魅力的で癖になる素晴らしい舞台なのだと痛感して、観られてよかったと思った。

【写真引用元】 SPICE
https://spice.eplus.jp/articles/306262/images/1099181


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

今作の脚本も言葉遊びが多用で素晴らしかったが、世界観や演出に関しても突拍子もなくぶっ飛んでいて、どうしたらこんな発想が思いつくのだろうかと感心するものばかりだった。中でもQUEENの楽曲を使っての音響演出は、本当にぶっ飛んでいて個人的には好きだった。それに負けないくらい舞台装置や衣装も趣向が凝らされていた。
舞台装置、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
ステージ上には後方に大きな台のようなものが一つ横いっぱいに置かれていて、平たく言えば2段舞台になっている。その台には、回転扉が4つほど横に設置されていて、デハケとなっている。また、台の両端の一部は前方へ移動できるようになっていた。基本的には、この巨大な回転扉を有した台は舞台上にずっと居座り続け、源頼朝たちの権力者と奴隷といった社会的地位の格差を表現したりと象徴的な意味合いを持っていた。
また、回転扉を上手く使う演出が多く、第1幕も第2幕も開始は回転扉から役者が一斉に現れてカットイン的に始まる際に上手く活かされていたり、役者が回転扉を勢いよく開けてずっと回転し続ける演出や、源頼朝が風船を後ろに抱えて回転扉で風船を割る演出も上手いと感じた。
巨大な舞台装置というのはそのくらいで、後は細々とした道具でいうと何台もの病床が登場する。この病床を転がしながら運ぶと波の音のように聞こえるのが非常に面白い。病床を押したり引いたりすることによって、波が押し寄せるように見せかけるのは非常に上手いと思った。そして、なんで病床が登場するのだろうと、第1幕では訝しんでいたが、後半でシベリア抑留に繋がっていくことで納得。兵士たちを治療する病床への伏線だったことを理解した。こういう伏線の張り方も、NODA・MAPらしくて上手くて好きだった。
あとは、瑯壬生と愁里愛を覆う白い巨大な布の演出も好きだった。彼らを包み込んで、一瞬それからの2人に役者が入れ替わる演出も好きで笑った。また、「星の王子さま」のパロディとしてウワバミに見立てたシナリオが差し込まれていたのも興味深かった。たしかに巨大な布はウワバミにも見えてくる。そして野田さんは「星の王子さま」が好きだなとも感じる。
紙飛行機を実際に飛ばすのではなく、黒子が棒で先っぽに紙飛行機を付けて飛んでいるように見せるのが良かった。凄く雰囲気が出ていて、紙飛行機が綺麗だった。しかし戦争を思い起こす演出にもなっていて残酷なものにも見えてしまうのが感慨深いところだった。
大量のカラフルな風船が登場したり、巨大なビーチボールが登場したりとポップで可愛らしい道具が登場するのもなかなか面白かった。源平合戦とかQUEENとか「ロミオとジュリエット」からでは想像がつかないかもしれないが、実際舞台を見ているとしっかりとマッチするから不思議。
そしてなんといっても、物語終盤に登場する黒い雪の紙吹雪が迫力あった。今回席が2階席だったのもあり、紙吹雪が降ってくる様子を俯瞰して見ていたが、なかなか美術的に映えて印象に残った。相当の紙吹雪の量なので準備して片付けるのが大変そうだが素晴らしかった。
また、プレゼント交換の演出も良かった。ステージ手前に横に長いテーブルが設置され、そこを左方向へ流れるようにプレゼントが移動していくのを見ているだけでも楽しかった。

次に衣装について。
「フェイクスピア」では読売演劇大賞衣装部門で受賞したひびのこずえさんが今作でも衣装を担当されていて、これまた素晴らしく豪華な衣装だった。
特に豪華だったのが、平清盛のあの強キャラな衣装とメイクと、源頼朝の立派な武将らしい兜と甲冑。衣装に関しては和に寄せた感じが凄く個人的には良いと感じた。そして源平合戦の色が濃いはずなのに、風船だったり、水着だったり、ビーチボールのようなものが似合ってしまうのは凄いなと感じる。全く浮いていると感じないあのセンスは素晴らしい。

次に舞台照明について。
個人的に良いなと感じたのは、舞台装置が全体的に白いのでそこに薄色のピンクっぽい甘い感じの照明が入って、ロミオとジュリエット感を出すのが素晴らしかった。この照明で一気にこれはラブストーリーなんだと教えてくれる。この甘い照明によって、広瀬すずさん演じる愁里愛も非常に色気を感じられてエロさが垣間見られるのが、舞台照明が最も作品全体に大きく影響を与えている部分だと思う。
また物語終盤の、黒い雪の紙吹雪が散るシーンで、ちょっと薄暗い感じの照明になるあたりも好きだった。シベリア抑留を表しているということで、極寒の地であることもよく伝わるような冷たい感じの照明がハマっていた。
あとはアンサンブルの役者も含めて、第1幕と第2幕の序盤でそれぞれ、QUEENの楽曲に合わせてにぎやかに踊るシーンがあったが、あそこの楽しげな明るい照明もメリハリが付いて良かった。

次に舞台音響について。
楽曲に関してはすべてQUEENの楽曲で、QUEENをよく聞いていた私にとってはなかなか興奮ポイントだった。源平合戦でロミジュリの話でなんでQUEENの楽曲なんだろうと思ったが、これはこれでアリだなと思った。
QUEENの楽曲は、印象に残ったのは「Love of My Life」と「Bohemian Rhapsody」の2曲。「Love of MY Life」は第1幕と第2幕の序盤で何度も登場して、ロミジュリらしさを引き出した選曲に感じた。一方で、「Bohemian Rhapsody」は戦闘シーンで使用されていた印象。そのため、第1幕の終わりと第2幕の終わり、源義仲が殺されるシーンと、シベリア抑留の戦争のシーンで使われていた。
なんといってもQUEENの楽曲きっかけでシーンが作られている点が好きだった。「Bohemian Rhapsody」の「ママミヤ」が連呼される箇所があると思うが、そこら辺を曲に合わせてキャストたちが動く演出が面白かった。
QUEEN以外にも、SEが何箇所かに使われていて、例えば波の音だったり、航空機の音だったり、カラスの泣き声だったり、それがしっかりと舞台の雰囲気を醸し出していて効果的だったから凄く良かった。それと、役者が叫んだ声がカラスの声に段々聞こえていく演出も遊び心があって面白かった。

↓QUEEN「Love of My Life」


↓QUEEN「Bohemian Rhapsody」



最後にその他演出について。
源平合戦を扱っている作品ということで、それになぞらえた演出も沢山あった。例えば劇中には騎馬戦が登場する。騎馬戦は元々源平合戦が由来とされているからであろう。また、アンサンブルのはちまきの色も赤が平家、白が源氏になっていて、どことなく運動会を思わせるのも好きだった。
源平合戦と「ロミオとジュリエット」を混ぜ合わせているので、作風も和洋折衷といった所だが、そこで笑いを取る箇所もいくつかあった。例えば、瑯壬生と愁里愛の結婚のシーンで、最初は和婚かと思うくらい神社で挙げるような挙式を思わせる雰囲気を出していたが、途中から結婚を切り盛りする人が神父になって、「アーメン、ソーメン、担々麺、激辛」と叫ぶのが面白かった。「アーメン」は西洋で、「そうめん」は日本で「担々麺」は中華という訳わからなさも良かった。武器も刀に見えたり銃に見えたりとシーンによって変わるあたりも和洋折衷を感じた。
また、1000年前と現代を掛詞でつなげる演出も面白かった。例えば、「名を捨テロリスト」というテロリストが匿名で平清盛にSNSで誹謗中傷を投稿するのはまさにその時間を越えたコラボで新鮮だった。乳母と「Uber」をかけるのもそうだし、自撮り棒を登場させて予告動画を持ってくるのも現代的だった。キーコインがビットコインに感じられる点も、友達を誘うで笑った。
ロンドンや台北といった海外公演も見据えているからだろうか、海外の人に受けやすい演出にもなっていた気がする。キスする瞬間に手紙を間に挟んだり、QUEENの楽曲が入っているのもそうだろう。刀を振り回したりも喜ぶかも知れない。
後は細かい演出で、まさかの乳母が自撮り棒で色々な人の頭を殴って退場させる演出が面白かったりもした。

【写真引用元】 SPICE
https://spice.eplus.jp/articles/306262/images/1099179


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

テレビや映画等で大活躍中の俳優も、舞台を中心に活躍している俳優も全員豪華で皆素晴らしかった。ベテランの俳優が多かった印象で、初見の俳優さんが私にとっては多かったが、舞台後方からでもほとんどの役者が声が良く響いてきたので、舞台演出だけでなく役者たちのパワーによっても圧倒された舞台作品だった。
いつも通り特筆したい役者に絞って紹介していく。

まずは、それからの愁里愛を演じた松たか子さん。松たか子さんを舞台で拝見するのは初めてだが、私が小さい頃からテレビドラマや映画等でよく見かけたお馴染みの女優さん。
舞台演技を拝見して感じた第一印象は、本当に透き通るような美声をお持ちで、それが本当に客席後方まで響き渡るので、美しさと逞しさの2つを兼ね備えたある種最強な女優に映った。あるシーンで10秒以上声をずっと伸ばし続ける台詞があるのだが、声をまったく切らすこと無く客席後方まで届いてくる喉の強さにびっくりした。年齢としては40代半ばに差し掛かるが、本当にそうは見えないくらい透き通っていて美しさを感じさせる女優さんであった。
また、女性としての逞しさも非常に感じられて、出家した姿であったりなど母性的な強さも感じられて、そこが広瀬すずさんが演じる愁里愛と違って好きだった。
自撮り棒で頭を殴って、蹴飛ばしながら退場させるコメディ的な演技も好きだった。本当にマルチな女優さんだなとつくづく感じた。

次に、それからの瑯壬生を演じた上川隆也さん。上川さんの演技も初めて舞台で拝見するが、NHK大河ドラマ「功名が辻」などでテレビでずっと拝見してきたので、非常に馴染みのある俳優である。
大河ドラマで演技を見ていた記憶が強いからか、上川さんは本当に時代劇がお似合いの役者だなと感じる。客席後方からでも、上川さんの武士としての貫禄を感じる。そして、物語終盤でのシベリア抑留のシーンでは、あの奴隷としてクタクタにこき使われた感じを上手く出していて、まるで映画でも見ているかのように、戦争による苦難がリアルで心動かされた。
元々は劇団キャラメルボックスに所属の俳優なので、成井豊さん演出での上川さん演技もぜひとも観てみたいと思った。

若き源の愁里愛役を演じた広瀬すずさんも非常に良かった。広瀬すずさんも舞台で演技拝見は初めてなのだが、テレビドラマや映画等でお馴染みのブレイク中の女優である。
ロミオとジュリエットといったら、やはり甘い恋愛ラブストーリーを思い浮かべる人も多いと思うが、その甘い感じを彼女の演技が一番醸し出していて、舞台全体でも非常に良い意味で大きな影響を与えていたように思える。広瀬さんが持つキュートさ、特に物語序盤の水着で源の乳母とばったり遭ってしまうシーンは、照明演出も相まって非常にキュートな雰囲気を醸し出していて好きだった。
舞台出演は、2019年版の今作のみで、客席後方まで果たして声量が届くのかと思っていたが、非常に透き通るような迫力ある声が響き渡っていて、本当に舞台出演2回目なのか?と疑ってしまうくらいの演技力の高さを感じた。
また松たか子さんとは一味違って、少女のような若さを感じさせる演技に惚れ惚れする観客も多いはず。非常に素敵な女優さんなので、もっと舞台にも出演して欲しいと感じた。

若き平の瑯壬生役を演じた志尊淳さん。志尊さんは名前はよく聞くが、実はテレビドラマや映画であまり演技を見たことがなかったので、結構新鮮な気持ちで拝見した。もちろん舞台でも初見。
まだ舞台慣れしていないせいなのか、客席後方からだとあまり声量も響かなくて、若干物足りなさが残った印象。以前ホリプロ企画による小池修一郎さん演出の「ロミオ&ジュリエット」でロミオ役を演じた甲斐翔真さんを拝見したことがあるが、甲斐さんの方が圧倒的に声量がよく届いて舞台俳優としての貫禄があった印象で、彼と比較してしまうと、若き美青年というのはあるが、それだけに留まってしまった印象。
今後の志尊さんのご活躍も期待していきたいと思う。

源義仲、法皇、源頼朝役を演じた橋本さとしさんも素晴らしかった。橋本さんは劇団☆新感線所属の俳優さんで、私は演技拝見が初めて。
非常に貫禄があって存在感の強い役者だと感じた。来年(2023年)のNHK大河ドラマである「どうする家康」に出演されると聞いて非常に納得。きっと大河ドラマのような時代劇が似合う役者だと感じる。

最後に、平清盛と平の凡太郎役を演じた竹中直人さんも素晴らしかった。竹中さんは2021年6月上演の舞台「夜は短し歩けよ乙女」以来2度目の演技拝見となる。
平清盛役では、非常に声の太さが際立つ、まさに平清盛らしく腹黒く貫禄ある役が素晴らしかったが、平の凡太郎になると一兵卒という弱々しさを上手く披露していて、本当に同じ役者が演じているのかと疑ってしまうくらい演じ分けられていて素晴らしかった。竹中さんが演じる弱者役はとても新鮮で、貫禄ある竹中さんに敢えてそういった役をやらせる野田さんの演出にも脱帽する。

【写真引用元】 SPICE
https://spice.eplus.jp/articles/306262/images/1099180


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

今作は、QUEEN、ロミジュリ、源平合戦、SNSが普及する現代を上手く織り交ぜていて、それだけでも大変情報量が多くて目が回りそうになるのだが、それに加えて後半からはシベリア抑留までも盛り込んでくる野田さん戯曲には、本当に突拍子もないものをしっかりとストーリーに落とし込む技量に脱帽するばかりである。
たしかに多くの観劇者が感じているように、主軸は瑯壬生と愁里愛という男女の恋を戦争が引き裂いてしまうという分かりやすく心にグサッと刺さる内容になっているのだが、源平合戦といった歴史的背景や、「ロミオとジュリエット」という作品そのものだったり、特にシベリア抑留に関しては、かなりマニアックな知識を求められるので、それらを踏まえて今作を理解出来る人ってさほど多くないんじゃないかと思う。
そこに野田さん戯曲の奥行きの深さを感じられる。決して分かりやすいだけにとどまらず、知識人にはより楽しめるコンテンツとして機能させる点にNODA・MAP作品の良さを感じられる。
ここでは、ロミジュリ、源平合戦、シベリア抑留による考察を通じて、現在今作を上演する価値と、名前を持つということ、アイデンティティについて考察していこうと思う。

舞台前半は、ロミジュリと源平合戦を重ね合わせることによって物語が進行していく。
まず、瑯壬生が属する平家は、ロミジュリで言うロミオが生まれ育ったモンタギュー家が対応し、愁里愛が属する源氏は、ロミジュリで言うジュリエットが生まれ育ったキャビュレット家が対応する。モンタギュー家とキャビュレット家が敵対関係にあったように、平家と源氏もお互い敵対関係にある一族であることと共通する。
ロミジュリでは、モンタギュー家側のマーキューシオが、キャビュレット家側のティボルトによって殺されてしまい、そのティボルトをモンタギュー家側のロミオが殺してしまう。それによってロミオは亡命せざるを得なくなり、ジュリエットと会えなくなってしまう。この一連の出来事は、源平合戦では平家側の武士である平の水銀が、源氏側の源義仲によって殺され、それを見た平家側の瑯壬生が源義仲を殺してしまうということと対応する。つまり、「マーキューシオ←→平の水銀」「ティボルト←→源義仲」「ロミオ←→瑯壬生」ということである。そして、今作でも同じく瑯壬生は源義仲を殺してしまったことにより、吉野の山に島流しにあって愁里愛と会えなくなってしまう。
史実では源義仲は平氏に討たれた訳ではなく、源範頼に討たれているのでその点は若干異なってくるが、ロミジュリと源平合戦の歴史を対応付けるのは非常に面白いストーリー展開である。また、瑯壬生は吉野の山に島流しにされる、つまり現在の世界遺産である「熊野古道」に島流しに遭うが、それを瑯壬生が世界遺産、つまり到底人が住めそうもない場所と意訳するのが面白かった。この吉野の山への島流しは、源義経が実際に吉野の山へ源頼朝による追討によって逃げているので、「ロミオ←→源義経」とも対応させられる点も興味深い。そう解釈すれば、源義仲を討ったのが源義経なので、そちらと上手く対応してきて辻褄があってくる。

ロミジュリでは、ジュリエットは自分が死んだふりをすることによって、ロミオは心配して自分の元にやってきてくれるのではと思い、気絶薬を飲んで眠りにつくが、それを見たロミオがジュリエットが死んでしまったと勘違いして、ジュリエットの目の前で自殺してしまう。目を覚ましたジュリエットは、自分の横でロミオが死んでいることを知り、そのまま彼女も自殺してしまう。
しかし今作では、ロミジュリのその後を描くので、そんな展開にさせてはなるまいと、瑯壬生が吉野の山で愁里愛が気絶して眠っているのを見つけて、そのまま自死しようとする所を、松たか子さんが演じるそれからの愁里愛が彼を自撮り棒で殴り気絶させる。それによって、そこからのストーリー展開はロミジュリとはそれて、創作されたその後が描かれていく。
しかし、それがまさかシベリア抑留に繋がって、戦争によって引き裂かれた男女の恋愛物語になるとは思わなかった。

ここからは、シベリア抑留について考察していく。
シベリア抑留とは、第二次世界大戦の終戦後、武装解除され投降した日本軍捕虜や民間人らが、ソビエト連邦(ソ連)によってシベリアなどソ連各地やソ連の衛星国モンゴル人民共和国などへ労働力として連行され、長期にわたる抑留生活と奴隷的強制労働により多数の人的被害を生じたことに対する、日本側の呼称である(wikipediaより引用)。
つまり、第二次世界大戦後のソ連は、終戦後も日本人をシベリアという極寒の地に抑留させて奴隷のように労働させていたということである。敗戦国である日本に対してあまりにも酷い仕打ちである。既に日本は終戦宣言しているにも関わらず、ソ連は日本人を奴隷扱いしたのだから。
劇中では、シベリアで捕虜になっている兵士たちが仕切りに黒パンを求める光景が描かれる。当時シベリアで抑留されていた日本人は、なかなか食べ物が手に入らず毎日のように黒パンばかりを食べていたと言われている。黒パンは、ライ麦から作られたロシア発祥のパンである。雪がコンコンと降りしきる極寒の中で、黒パンを求めて放浪する兵士たちの様子を描いた本作は、その歴史的背景を理解するとさらに心苦しいものに感じてくる。

旧ソビエト連邦、現在のロシアとはそういう国家なのだと、今作を観劇し、シベリア抑留について調べていると改めて、ロシアの非道な仕打ちに憤りを感じる。
シベリア抑留当時のソ連の指導者は、ヨシフ・スターリンである。スターリンは「大粛清」といって、1930年代に大規模な政治弾圧を行っていて、その一環として「シベリア抑留」も数えられる。アドルフ・ヒトラーと並んで最も極悪な独裁者の一人として数えられるスターリンは、鎌倉幕府を開き、独裁的に幕府を指揮していた源頼朝とも通じる所がある。
劇中で象徴的だったのは、舞台上に雪がコンコンと降りしきるシーンで、シベリアに抑留された日本人たちは極寒の環境に絶えながら黒パンを求めていたが、一段高くなった台上では、源頼朝が優雅に高級洋食料理を食べる光景があった。もちろん源頼朝の時代に洋食なんて存在しないが、ここが歴史的背景を考えるとスターリンにも見えてこなくもないし、非道で極悪な独裁者のすることのようにも捉えられる。

苦しくも、2022年現在は、ロシア軍がウクライナに侵攻して紛争が勃発し、ウクライナに住む人々の生活は困難を余儀なくされ、多くの民間人が亡くなっている。今作を観劇して改めてこのウクライナ情勢を考えると、戦争がいかに恐ろしく残酷なものなのかを痛感させられる上、ロシアという国家が歴史的に考えてもなかなかに酷い国家だということが窺える。
改めて戦争というものは絶対にあってはならないと思うし、戦争がいかに罪のない人々の命や暮らしを奪ってきたのかを考えさせられる。

今作のラストは、シベリア抑留でシベリアに残留した瑯壬生が、平の凡太郎に愁里愛への手紙を託す。そこには、瑯壬生がただの一兵卒の兵士ではなく「瑯壬生」という名前を持った一人の男として、愁里愛を愛していたというような内容がしたためられていた。
戦争に徴兵された兵士たちは、自国のために自分の名前を捨てて、まるで捨て駒のような存在となって敵国を攻撃し死んでいった。そこには、その人のアイデンティティなんて関係なく、ただ男性であれば良かった。
自分の名前を持って、アイデンティティを持って行きたいにも関わらず、戦争という状況で徴兵されたことによって、有無を言わさず自分の名前やアイデンティティを捨て、敵国を攻撃する。
劇中では、SNSの匿名アカウントが、権力者を誹謗中傷することで攻撃する描写が描かれる。それは戦時中の兵士とは真逆で、自分の意志で自分の名前を捨て、敵を攻撃する形となっている。
今はインターネットの発達で、誰もが自分の意志で名前すらも捨てて、攻撃したい相手を攻撃出来てしまえる時代、強制的に名前を捨てさせられて戦争に駆り出される頃とは異なる。
しかし、昨今のウクライナ情勢を鑑みると戦争は未だ現実世界で起こり得てしまうものなので恐ろしい。自分の名前で、自分の意志で行動出来る時代を作るためにも、戦争は決してあってはならないものだと今作を観劇して痛感した。


↓NODA・MAP過去作品


↓野田秀樹さん作・演出作品


↓野田秀樹さん脚本作品


↓竹中直人さん出演作品


↓「ロミオとジュリエット」舞台作品


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