拝啓、「モチベーション」で悩める先生たちへ【高校教員応援マガジン】
こんにちは!代ゼミ教育総研note、編集チームです。
夏休みが始まりましたね。
皆様、ここまでいかがお過ごしでしたか。
日々を送ることで精いっぱいで、あっという間に過ぎてしまった……
思うように授業を進められなかった……
今回は、そんな理想と現実の狭間で悩み、心残りができてしまった先生方に、ぜひとも読んでいただきたい内容です。
モチベーションが下がったときに、これさえやっておけば!のアイディアも紹介しています。
モチベーションの正体
学校では、モチベーションのことが話題に上がります。
いわく、
「学校組織のモチベーションが今ひとつだ。」
「あの先生からやる気を感じられない。」
「生徒のモチベーションをどうやって上げようか。」
「まずい、私自身のモチベーションが低くなっている。」
などなど。
そもそも、モチベーションとは何でしょうか。
モチベーションとは、目的ある行動をするためのやる気(動機、原動力)です。モチベーション自体は不可視の力ですが、目に見える行動と結びつき、意味を持ちます。
モチベーションの上下が何を意味しているのか、考えてみましょう。
例えば、「モチベーションが下がっている」ということは、具体的にどういう状態なのか。
・目的はあるが、行動に至るだけの力がない。
・力を向ける目的が見つからない。
・目的はあり、力もあると感じているが、行動に結びつかない。
などが考えられます。
モチベーションという課題
モチベーションのどこに課題があるのかを考えます。
もしかしたらモチベーションではなく、気分や体調の問題なのかもしれません。それなら美味しいものを食べたり、遊んだり、おしゃべりしたり、好きなことに没頭して心をリフレッシュ、ぐっすり寝れば体力もみなぎって解決するかもしれません。
単純ですが、それも大事なことです。
しかし、そういった一時的な低迷ではなさそうなとき。
年度の前後半の区切りが見えてきたこの時期に、もやもやしている先生も多いと思います。なかなか、スタートダッシュやラストスパートと同じ勢いを保つことは難しい時期です。
だからこそ、モチベーションについて、一緒に考えてみましょう!
① 目的と目標
第一に、目的と目標の見直しについて考えます。
どんなときも、モチベーションには向かう目的と目標があります。
私が経営学を援用しながら、よく使ってきた言葉で言い換えますと、パーパス(目的)とゴール(目標)です。
パーパス(目的)とは、理念的・抽象的なものです。
例えば、ソニーでは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを起点に「感動」を生み出すことに挑戦しています。この「感動」は「生きている実感」「人と人を結びつけるもの」などと説明されますが、目に見えない概念です。
▼ Sony’s Purpose(存在意義)▼
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/purpose_and_values/
それに対して、ゴール(目標)は具体的・客観的で、簡単に確認できるものです。
例えば、アーティストのコンサートで「感動」をもたらそうと考えたとき、数値目標を「一万人動員」と設定することは、誰にとっても確かな事実になります。
上手に表現されたパーパスは、美しい。しかし、ゴールが結びつかなければ「画餅」です。また、明確なゴールを達成することは、人々を高揚させます。しかし、パーパスが共にないなら、そこで終わりになってしまいます。
パーパスとゴール。両方が必要です。
私は、超進学校の校長講話で言いました。
「東大に入るのはゴールだ。ゴールはわかりやすく、誰でもいつでも認めることができる。具体的な目標は必要であり、本気でゴールを目指せ。
だが、より大事なのはパーパスだ。東大に入ることが究極的な目標ではなく、合格に君たちの存在意義はない。東大に入ることで、より一層輝くパーパスを持て。パーパスが君たちの学びと人生に意味を与える。それを心に抱えてゴールを目指せ。そうでなければ、合格して、燃え尽きて終わる。それはいやだろ?」
モチベーションを維持するために、まずは、パーパスとゴールを決めましょう。それでよいか、常に問い直しましょう。パーパスについてよくわからなければ、本を読んだり、人と話すと良いです。理想を掲げ、充実した人生を送ってきた人は無限にいます。
ゴールについては、調べても考えても相談してもよくわからなければ、とりあえず、立ててしまいましょう。とりあえず!
私は高校時代、担任の先生に言われたことがあります。
「嘘でもいいから、目標を立てろ!」
「先生、嘘ってダメじゃないですか?」と私が聞き返すと
「嘘でもいいと言ってしまうぐらい、人にとって、目標というのは大事なんだ。目標があることが大切。立てて、進んでしまえ。間違ったと思ったら変更すればよい。変える自由は、ある。」
つまり、ゴール(目標)というのは、パーパス(目的)のための手段。上手に活用しましょう。
② 戦略と戦術
第二に、戦略と戦術の見直しです。
パーパスとゴールを決めた……だけでは実現しない。そんなことは誰でもわかっているはずですね。
しかし、誰でもうまくいかなければ落ち込みます。失敗が続けば挫けそうになります。計画どおりに行かなければ、自信を失います。
「自分にできるのだろうか。」
「不可能なことを望んでいたのではないか。」
「1mmもゴールに近づいていないのに、やる気に満ちた笑顔でいたらバカだと思われるのではないか。」
そんなふうに、他人の目まで気になってしまい、パーパスのかっこよい言葉が虚しく響きます。こうしてモチベーションが下がっていく……
私も何度もそういう経験をしました。
そんな時は落ち着いて、やり方、言い換えると”戦略と戦術”は適切だったのかを、見直すべきではないでしょうか。(戦略と戦術については、様々な定義、説明がありますので、生成AIに尋ねてみてください。)
私は、ざっくり、戦略=方向性、戦術=具体的な方法と押さえています。
例えば、「授業におけるパーパスの実現・ゴールの達成」のために、
・「書く・話す」のアウトプットを重視するという戦略
・ペアトーク、リフレクションという戦術
を考えたとします。
しかし、その戦略にも戦術にも多様性があります。
ペアトークをどこに導入するのか。前後で何をするのか。どういうペアトークにするのか。問いは何か。時間は何分か。リフレクションをどういう問いで行うのか。フィードバックをどうするか。無限のやり方があります。
うまくいかなかったとき、モチベーションを下げている暇はありません。
そもそも戦略と戦術は生徒の実態に合っていたのか。自分の現状認識は正しかったのか。具体的にできることは――
データをとり、SWOT分析をするところから始めましょうか。
戦略を練り直しましょうか。
戦略はそのままで戦術を変えましょうか。
打つ手は無限です。
③ エネルギー補給!
第三に、エネルギー補給です。
食べなければ、エネルギーはなくなりますね。そして食事は、単に生物として必要なだけではなく、よく生きるために大事なものです。
食生活を見直しましょう
そう言いながら、私は管理職になる前、なかなかのハードワーカーで、食生活への配慮はありませんでした。
仕事第一のワーカホリック。美味しいものを食べたい気持ちはありましたが、食事の時間も惜しかったです。昼は簡単に済ませ、夜は遅い時間に食べ、さらに時たまの飲み会では暴飲暴食でした。
人一倍の体力があると盲信し、突っ走っていました。しかし、40歳代の前半、「あれ、おかしいな」と思い始めました。なんとなく、調子がわるい。そんな日が続くのです。体に力がみなぎらない。疲れている。疲れやすい。ぐっすり寝た感じがない。「よし!」と声を出さないと起きられない。風邪を引くとなかなか治らない。たまに倒れそうになる。それでも、年一回の健康診断の結果がそれほど悪くなかったので、そのままにしていました。
しかし、あるとき、PTA役員の方に、厳しく指導されました。
「自分の身体を労らないと、しっぺ返しが来ますよ」「いつまでも若いと思ったら間違いですよ。まず食生活を改めた方がよいのでは」と言われました。
正直言って「他人のことなのに」と思ってしまいましたが、思い当たる節があったため、改善することにしました。昼の安くて味が濃い弁当を少し栄養価の高いものに変えました。夜は早めに食事するようにし、養命酒を飲み始めました。ちょうど同じ頃、高校時代の友人から「これ、やってみたら」とヨガのDVDをもらい、やり始めました。数ヶ月経ち、気がつくと体の力が復活したように感じました。
その後、教頭になり最初の学校が園芸科の農業高校。りんごがシンボルの町。温暖な気候で、米も野菜も豆も元気に育ちます。また、様々な本を読み、食べ物の大切さを深く認識しました。
You are what you eat.
食べたものが自分をつくります。
かつての自分を思いっきり棚に上げて言います。
たまの「ウナギを食べるぞ!」「今日は焼肉だ!」ではなく、さらに「アルコールの力で乗り切るぞ!」ではなく、日常の食生活を見直しましょう。
* * * *
また、エネルギー補給は頭や心にも必要です。
心のエネルギー:その1 芸術の力を借りる。
私はずっと寝起きのアラームは、バッハのゴルトベルク変奏曲にしています。私にとって一日の始まりに相応しい曲です。
ぜひYouTubeなどで聴いてみてください。
頭や心がごちゃごちゃしていると感じるときは、画集を開きます。最近は、李禹煥(リ・ウファン)が一番多いでしょうか。余白を取り戻せます。
「いや、クラシックや絵画の趣味はないんだ」というあなた。
先入観、固定観念はいけません。STEAMの「A」でもあります。生徒にもSTE「A」Mを語る以上、新しい世界に飛び込んでみませんか。
インターネットのお陰で、様々な音楽や美術に触れることができます。映画のオススメサイトもありますし、近くの詳しい人に勧めてもらうのもよいでしょう。
▼ 参考書籍 ▼
心のエネルギー:その2 本の力を借りる。
疲れたら、本を読みましょう。疲れたときこそ、ページをめくってみましょう。時間がない?短い時間でも構いません。
近藤康太郎さんは寝る前に15分、古典を読むことを習慣づけています。長いに越したことはありませんが、大事なのは継続。
イチローさんも言っています。
彼は、高校の三年間、一日も欠かさず、寝る前に10分間の素振りをしていました。たった10分です。でもそれが彼の力になったのです。
心のエネルギー:その3 人に出会う。
不思議なことに、会って話すとどんどん力が湧いてくる、アイディアややる気が出てくる、そんな人はいませんか。「忙しいだろうな」と遠慮は不要。お互い様です。時間がないときこそ、連絡をとってみましょう。
そういう人が思いつかない場合は、様々な教育イベントに行ってみてください。そこで名刺交換・挨拶をしましょう。自分の悩みがバカらしくなるような面白い人、笑いながら困難に立ち向かっている人が見つかります。
例えば、With The World 代表の五十嵐駿太さんは、2019年の『未来の先生展』(現・未来の先生フォーラム)で一度しか会ったことがない方ですが、彼のことを思うと、エネルギーに満ちます。
そして、特定NPO法人ほっかいどう学推進フォーラム理事長の新保元康さん。
リアルで会ったことがなくとも、力を与えてくれる人もいます。
医師として、ペシャワールへ行き、土木を学び、重機も操り、水路をつくった故・中村哲さん。
「俺は行動しか信じない」
「”一隅を照らす”なぜかこの言葉にすがりたかった」
彼の言葉、実践を思うたび、気持ちが鎮まり、力が出てきます。
心のエネルギー:その4 座右の銘を唱える。
皆さんには、座右の銘がありますか。聞かれたときに答えるだけでなく、本当に「座右」(身近)にすることが大切です。
私の座右の銘は、先ほどもつぶやきましたが「打つ手は無限」です。
座右の銘とまではいかずとも、口癖になっているフレーズもありますよ。「できることをやる。ただそれだけ」「気がついた人がやる」「辛いときは、学べ」「私を殺さないものは、私を強くする」「どうせ私たちは大したもんじゃない」「意味をつくるのは自分」「まだ始まってさえいない」。
エネルギーがないときは、唱えることもできません?いえいえ、生徒に「やる気が出ないです。どうしましょう。」と言われたら、「やる気なんか黙っていたって出てこない。待っていたって、ダメ。動け。できることをやろう。言葉か音楽かで、自分に勢いをつけて!」と私は切り返します。
唱えるしかない。唱えてエネルギーを生み出すしかないと思います。
元気のないときには言葉を考える余力もないでしょうから、元気なときに自分にしっくりくる言葉を見つけておきましょう。
以上、モチベーションを維持するための三つの作戦でした。
第一に、目的と目標を見直す。
第二に、戦略と戦術を見直す。
第三に、エネルギーを補給する。
この時期の【学校運営マネジメント】
最後に、学校運営のマネジメントについて、付言します。
この時期に、教育活動の中間評価をしっかりやるとよいと思います。
学校評価は、法的な位置付けがあります。
一般的なのは、年度末評価。12月に評価の資料としてアンケートをとり、1月に小組織で協議し、2月に全体共有、3月に改善策を決定し、学校関係者に最終確認してもらいます。
しかし、課題や解決の方向性を共有し、自分事化するためには時間が足りないと思います。評価や改善が明確でないのは、精神衛生上よくありません。
まずいとわかっているのに変わらない。
経験による気づきが次につながらない。
やりっぱなし、ただこなすだけ。
これはストレスです。モチベーションを下げる要因になります。
したがって、前期末に「中間段階のもの」として評価をやってしまいましょう。前期までで、後期の見通しもある程度立ちます。年度末、一年後を待つ必要はありません。
モチベーション。人生や社会のウェルビーイングとの関係も深いです。モチベーションのアップにつながるポイントは人それぞれ。それを発見し、手を打ちましょう。「打つ手は無限」なのです。
敬具
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