探究学習を生かすために【後編】探究こそ学びの本質!
2022年度 入学生から始まった現行学習指導要領が、今年度で完成します。
この指導要領では、2003年度から始まった「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」(以下、総探)に変わりました。名称のとおり「探究」が強調されています。
各校では、教育目標やスクール・ミッションを踏まえた総探の計画を作成、実施されています。総探や探究については既に多くの良書があり、そこでは素晴らしい実践が紹介されています。
他方、私のところには、あちこちから悩みや困りごとが聞こえてきます。
後編では、私が「探究」についてどう考えているのか、何を学んでほしいのかを、これまで実施してきた取り組みを紹介しつつ、お伝えしたいと思います。
〈前編はこちら〉
探究について、私の考えをお話します。
私は「総探」には大きな価値があると思います。
「探究」に惚れ込んでいます。
探究のすばらしさを知る
私が初めて「探究」という言葉を意識したのは、京都の堀川高校のことを聞いたときです。学校視察をし、探究の授業を見せてもらいました。
それは「授業」ではなく、主体的・協働的な「学び」でした。京都大学の大学院生と生徒が一緒に「研究」をしていて、驚きました。とても生き生きと「探究」を楽しんでいました。
堀川高校の「全ては君の”知りたい”から始まる」というフレーズに、しびれ、考えさせられました。
他の授業も見ましたが、私の「”知りたい”から始める」学びのワクワク感があちこちに広がっているように思いました。そして、そうした探究の取組が、国公立大学合格者の激増につながっていることを資料で知りました。
理想の授業をしたいけれど…
他方、私の授業を省みると、生徒の「知りたい」から始まっていない。
生徒が知りたかろうが、知りたくなかろうが、「さあ、今日はこれをやるぞ」から始める。
もちろん、興味関心を引き起こそうと努めていました。学びはモチベーションが全てだとわかっていましたが、「知りたい」から始めているわけではない。
できれば、私の授業も「知りたい」から始めたい。
学びを「知りたい」から始めることが大切だと伝えたい。そう思いました。
堀川高校は学びの理想を追求しつつ、目標も達成している。
いや、追求した結果、目標を達成している。
1、2番手の進学校を下から見ている学校にいた私は「堀川が理想だ」と思いながら、学校変革を推進することはできませんでした。
ただ、担当していた地理や倫理の授業では、「問い」やテーマ設定に、より一層こだわりました。
生徒自身から「問い」が立ち上がるために、どんな材料をどんなタイミングで提示すればよいか、考えました。
「総合的な学習の時間」(以下、総学)では、生徒に自由に新書を選ばせ、そこから探究を展開しようとしましたが、取り組む姿勢や成果については、個人差が大きかったように思います。
そして、総学が総探に代わり、「古典探究」「地理探究」「理数探究」などの科目も設定され、学習全体において探究が重視されるようになりました。
校長として二校で総学・総探の改善を図り、最後に札幌北高校(以下、札北)に赴任しました。
札北は国立教育政策研究所の教育課程研究指定校として、総探の研究を推進していました。
研究テーマは次のとおりです。
「総合的な探究の時間」の取組を基盤とし、教科等の学びとの関連を意識した「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善、学習評価の在り方に関する研究。
札幌北高校での取り組み
札北は、2022年に120周年を迎えた伝統ある進学校です。
2024年度の入試結果は、難関国立大学に131名が現役で合格し、現役進学率41.1%は全国第5位です。
昔から面倒見のよい進学校として評価され、65分授業や教員自作の校内模試に特色がありました。講習も充実していました。
また、行灯行列で有名な北高祭などの行事、部活動も盛んで、文武両立を誇っていました。
したがって、教育改革が進んでも「何か変える必要があるのか」という雰囲気もあったそうです。
しかし、社会や教育、入試等の様々な変化を見て「変わらないために、変える」必要があるのではないかという声が上がり始め、2016年度から4年間、文部科学省のアクティブ・ラーニング実践研究拠点校・サポート校になり、主体的・対話的で深い学びの実現に努めました。
「アクティブ・ラーニングとは、ブレインズ・オンだ」と独自の視点で捉え、学習者がより主体的になることを目指しました。
そのことが「問いを立てて(あるいは問いを共有して)、自ら、また友と一緒に答えを出そうともがく」探究の考えにつながりました。
2018年度の入学生から三年間かけ、札北としての系統的な総探を創ろうと挑戦し、2020年度から二年間、国立教育政策研究所の教育課程研究指定を受け、ブラッシュアップしていきました。
1年では宿泊研修、「AGE16」(学問調べ)、課題研究を通し、探究の基礎を実践的に学びます。探究の目的や本質、過程、手法です。
2年ではグループで課題を発見・設定し、探究します。
3年では個人で2年の探究を発展させ、「探究ゼミ」などで学問的な学びを深めます。
学年ごとバラバラではなく、札北の「型」をつくった上で、生徒の特性などを大事にし、学年や教員の色を出すのです。
経験を通しての気づき
私は、総探の活動や校内研修会などを通して、あらためて「探究」を考え、確信したことがあります。
それは、学びの本質は探究だということです。
教科書に書かれていることは、これまで人類が行なってきた探究の結果です。
探究はまさに「知りたい」から始まります。それは問いが立ち上がるということです。
「万物の根源は何だろう」
「人間は何を知ることができるのだろう」
「宇宙に始まりはあるのだろうか」
西洋哲学史をたどると、そのことがよくわかります。
<参考>
観察や実験をし、これまで得た知識と情報から仮説を立て、確かめます。
そして「正しい」と認められたことが知識として積み重ねられていきます。理論になります。
始まりは問いなのです。
したがって、知識を知的探究のプロセスに置き直し、思考や発見の喜びを追体験することが、本来の学びではないでしょうか。
答えを理解し、暗記するだけでは、学びは浅いものに留まります。
問いの発生に立ち返り、探究のダイナミズムを実感することが、本物の学びなのです。
総探のみならず、全ての教科科目の学習に探究の面白さがなければならないと思います。
さらに、人生そのものが探究だと腹落ちしました。
生活の中には、大小無数の問いがあります。それらに答えを出し、私たちは生きています。
「上司から一方的に命じられたが、どう対応しようか」
「衆議院選挙でどこに投票しようか」
「憂鬱な気分をどうやって乗り切ろうか」
「ときめきを感じるが、会いたいと伝えるべきだろうか」
「スマホで集中力が乱されるのは、どうしたらいいか」
問いに対し、複数の選択肢の中から答えを選び取り、決めています。
何を選ぶべきかは、最初から決まっていません。唯一絶対の普遍的な答えが与えられているわけではありません。
自分自身が問いに向かい合い、その都度答えを出します。
考え決定することは、エネルギーを要します。迷いや悩みがあり、答えを出すのに骨が折れることもあります。朝の答えが、夕方には変わるかもしれません。
だからといって、問いを立て探究することをやめてしまったら、それは「私の人生」と言えるでしょうか。
私は、人生は探究そのものだと思います。
こうした探究の本質を理解し、挑戦することができるのは、学校ならではのことです。
いやあ、それにしても、学校教育にしかできないことがあります。
先生って、本当にやりがいのある仕事です。
〈参考〉
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