私学の魂である“建学の精神”を軽んじた統合・合併は、志望する受験生・学生への裏切りであり、不信感の元に。強引な実施は、高等教育全体の信用失墜につながるのは必至。
▶私学の存在理由が、そこにある
なぜ、合併・統合ではなく、連携・協力なのか――
この問いの鍵を握るのが、“建学の精神”なのです。
私学を私学たらしめる最大のファクターが建学の精神であり、設立の理念であることは、誰もが認めるところでしょう。
私学のレーゾンデートル(存在理由)は建学の精神に宿っていると言っても差し支えありませんし、逆に、建学の理念無くして私学は存在しないのです。
建学の理念は、創立者がどういう理想像を描き、学校を作ろうと思ったのかが込められた決意表明とも言えます。
さらには、なぜその学校が誕生することになったのか、についての由来も伺い知ることができるでしょう。
もちろん、国立や公立の学校や大学にも建学の理念や設立の趣意は存在し、実際にほとんどの国公立の学校や大学はHPなどで公表しています。
ただし、国公立の場合は、設置主体は国や自治体ですので、それぞれの教育政策に基づき、“政策的に”学校が設けられていくのが、通例です。
国公立の学校にも、創立時にかかわった先人たちの思いや教育方針が尊ばれ、それが、その校是のようになっているケースもありますが、基本的には、国や自治体の政策・方針が設立の基本となりますので、私学のそれとは本質的に異なり、意味や重みが全く異なります。
私学の場合、若者を育てたいという情念を燃やす篤志家があらわれ、私財を供出し、何もないところに学校を作っているのです。
ですから、何を置いても、まず“建学の精神ありき”なのであり、それこそが設立の最大のモチベーションなのです。
まさに、建学の精神には、私学の“魂”が宿っているのです。
▶アドミッション・ポリシーにも密接に関わる
建学の精神が、いかに大切で、動かしがたいものなのか—―
このことを実感していただくため、その学校を志望する受験生や入学する学生の立場にたって、少し考えてみましょう。
というのも、建学の理念は、入学者選抜における方針や入学してからの教育と密接に関わっているからです。
文部科学省は、すべての大学に対して、3つの方針(ポリシー)を明示することを求めています。
<文部科学省>三つの方針の策定・公表に関する省令改正(PDF)
この3つの方針(ポリシー)は、当然のことながら、建学の精神に基づき、形作られます。建学の精神そのものは、各学校にとって唯一無二のものとなりますので、自ずと3つの方針(ポリシー)も、他にはないユニークな方針となるのです。
▶受験生の指導においても必須事項
受験生を指導する側の話をすれば・・・
志望校が決まったのであれば、③のアドミッション・ポリシーをしっかり頭に入れてから対策や本番に臨みなさいと、我々予備校のスタッフとしては、いつも口を酸っぱくしてお伝えしているところです。
なぜなら、改めて申し上げるまでもないかもしれませんが、そこには、その学校や大学がどのような能力や人材を欲しているのか、どういう心構えや学力を求めているのかがきちんと明記されているからです。
そして、付け加えるならば、その方針の裏付けとなる建学の精神にも精通してほしい、と。
一般選抜、総合型選抜、学校推薦型選抜、入試のいずれの選抜区分も、アドミッション・ポリシーに基づいて入試問題や課題が作成されているのです。
さらには、面接や小論文の評価における基準の根拠となるものなのです。
たとえば、現在、募集人員の比率がどんどん拡大している総合型選抜はかつて、AO入試と呼ばれていました。
このAOのAは、アドミッションを指していることからもわかるように、まさに、アドミッション・ポリシーが命の入試なのです。
端的に申し上げれば、大学側からすると、受験生がその大学のアドミッション・ポリシーに適っているかどうかが、評価の最大のポイントとなるわけです。ですから、受験生にとっては、進学したい大学のアドミッション・ポリシーを知らずして、入試に臨むのはあり得ない話なのです。
▶建学の精神の理解がすすめば、その学校への憧れにも
逆にその大学のアドミッション・ポリシーをよく知れば・・・
ひいては、もととなる建学の精神にまで興味が沸いてきて、自ずとその大学への憧れの度合が大きくアップするでしょう。
そうなることで、受験生と大学のマッチングが一段と上手くいく可能性が上がり、双方にとって、理想的な進路実現になる、と強調したいと思います。
やがて、入学することになった学生は、今度は、②のカリキュラム・ポリシーに則ったその学校ならではの教育を受け、成長していくことに・・・
こうやって、入試に臨む受験生や大学教育を受ける学生の立場から考えると、その学校のアドミッション・ポリシーやカリキュラム・ポリシーが、一人ひとりに対して、いかに大きな影響を与えるのか、ひいては建学の精神の存在が大きく作用することは容易に推測されるところでしょう。
▶もし、統合・合併となると…建学の精神やポリシーはどうなる?
このような視点で考えていると、現在、特別部会でも話題となっている、大学同士の統合・合併では、建学の理念、そして3つのポリシーはどうなってしまうのか。
その学校にあこがれて入学し、教育を受けているわけですから、途中で、その根本が変更になったり、違う学校の方針に変わってしまうというのは、受験生や学生への“騙し”になるのではないでしょうか!
あれほど、アドミッション・ポリシーや建学の精神が大切だと叩き込まれ、それらを心に刻み、信じて学んでいる学生に対して、どのように説明するのか、理解してもらうのか、、、
その建学の精神に憧れたからその大学を選び、そこに学んでいる学生にとっては、譲歩できずに、自ら退学することもあるのではないでしょうか。
ひょっとして、文科省の方々や大学の在り方を議論されている方々の中に、
どうせ若い学生たちのことだから
そのあたりは柔軟に適応してくれるはず、
とか、
建学の精神やポリシーは変えられるもの。
そこまで深刻に考える必要がない、
というふうに軽く考えていらっしゃる方がおられれば、
それは言語道断です!
私は、声を大にして、このようなことは絶対にあってはならないと、申し上げたいと思うのです。
もし、その程度の認識のなかで、安易な統合・合併論が論じられるのであれば、若者たちの大学への信頼は失墜するでしょう。
知の総和、どころの話ではありません。
▶持続性や永続性とも不可分
前回まで、私学の持続性、永続性の大切さに触れましたが、建学の精神とそれらは一体となっていると申し上げてもよいでしょう。
建学の精神に基づく教育で育成された卒業生たちを世に送り出し、その後の社会で貢献をしてもらう—―
教育者たちには、教え子たちのこうした姿を見届け続けることが求められているのです。
ですから、当然、時間的な視点で申し上げれば、教育という営みは期限を区切ったような活動ではないのです。
人間社会が続く限り、自ずと永久的に続くことを大前提としていることになります。
▶当事者だからわかる、“合併・統合”の難しさ
さて、かなり遠回りをしましたが、特別部会の方に話を戻しましょう。
定員割れの苦境を脱すべく、大学間の統合・合併や連携・協力が必要ではないか、との議論が起きつつありますが、前回ご紹介した通り、日本私立大学連盟は、
と、重要な指摘をしました。
“合併・統合”と“連携・協力”――
困ったもの同士が手を結ぶという点では、どちらも似ているようにも思えますが、ご説明申し上げました通り、建学の精神やポリシーを考えれば、合併・統合は至難の業、となるわけです。
私学はまさに「建学の精神」に基づき存在しているわけですから、基本的には、違う建学の精神を持つ学校同士は一緒になることは、あり得ない、と敢えて申し上げなければいけません。
建学の精神がほぼ同じ(たとえば、設立母体が仮にキリスト教の同じ宗派)であるケースは、もしかすると、統合・合併の可能性も無くはないかもしれませんが、こうした例は稀です。
あるいは、至近の距離に、看護学科を持つ大学が2つ存在すると仮定して、それらが合併する場合、双方とも看護師を目指すという点は共通するものの、土台となる建学の精神はおそらく全く違うものであるはずです。
そうであれば、統合・合併は難しい・・・
そういったケースでは、特別部会の大森副部会長も会議の中でご指摘されていましたが、近いがゆえに、大学同士が宿敵同士やライバル関係であったりするケースが高くなることでしょう。
ですから、なおさら、一緒になることは考えられない・・・
*建学の精神の違いに関する参考*
早稲田大学
学問の独立・学問の活用・模範国民の造就
慶應義塾大学
「智徳」とともに「気品」を重視し、社会の先導者にふさわしい人格形成
上智大学
他者のために、他者とともに
参考例としてあげた上の3校だけでも違いが分かるように、私学同士の統合・合併は、建学の精神やポリシーという点だけでみても、よほどのことが無い限り難しいのです。
当事者である私大連は、そのあたりの難しさは痛いほどおわかりになっているから、このような指摘となったのでしょう。
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高等教育の在り方に関する特別部会は、年度末に提出する答申にむけ、いよいよ大詰めの段階ですが、なかなか有効な具体案が出てきていません。
傍から傍聴していると、かなりやきもきさせられもしますが、こと私学――私立大学の固有の事情についてはしっかり斟酌していただき、慎重に議論を進めていただきたいものです。
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