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私大協がついに意見表明。私立大としての矜持、高等教育全般のパラダイムシフト、そして私立大を苦しめる規制についての意見や税制についての提案も。しかし・・・

高大接続ラウンドアップマガジン📚
本シリーズでは、主幹研究員の奥村直生が文部科学省中央教育審議会の大学分科会で現在審議進行中の「高等教育の在り方に関する特別部会」を追いかけます。
この特別部会で挙がる数々のテーマや議論の方向性は、日本の高等教育の未来に多大な影響を及ぼすものであり、大学をとりまく全ての関係者にぜひ注目していただきたいのです。
特別部会の核心に迫っていきたいと思いますので、皆さまどうぞシリーズの最後までお付き合いください。


私大協は小原会長自ら意見表明

9 月 27 日に行われた高等教育の在り科に関する特別部会(第 10 回)では、私学関係 4 団体(全国公立短期大学協会、日本私立短期大学協会、日本私立大学協会、一般社団法人日本私立大学連盟)のヒアリングが行われました。

このうち、加盟校数が一番多い 417 校(令和 6 年 10 月現在)の日本私立大学協会(私大協)の小原芳明会長(玉川大学理事長・学園長)が行った意見表明から、私大協としてのメッセージのポイントがどうであったのかを振り返ってみたいと思います。

「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)」に関する意見 
(高等教育の在り方に関する特別部会(第10回)配付資料4:日本私立大学協会提出資料PDF)

※以下、記事内の「 」付き太字はこの意見文書からの引用部

▶私立大を中核に据え、国立大は大学院を中心に再編を

まず、国公私の設置者別の役割について。
私立大学については、私立大学が果たしてきた役割に鑑みて、私立大を中核とした高等教育のグランドデザインの構築と、「多様な価値追求を行う私立大学を高等教育の中核に据える「高等教育政策の構造的大転換(パラダイムシフト)」の速やかな実現が求められる」、と述べました。

この点は、実際に、明治維新以降、私学が果たしたとてつもなく大きな実績があるわけですから。単なる自己顕示的なものとしてではなく、自信を持っていただき、もっと強調しても良いくらいだ、と感じました。

一方、国立大学については、「大学院を中心に再編し、国策に基づく世界トップレベルの研究や国立大学でなければ困難な教育研究に特化」すべき、としました。
ここには、やっぱり、“国立大が上位で、私立は下位”、ということを自ら認めていてしまっているような印象を受けますね。さきほどのパラダイムシフトを掲げた意気軒高な方向性とはちょっと矛盾するようにも感じますが、みなさんはどのようにお感じになりますか。
 
いずれにせよ、このメッセージの裏には、国立大の学部定員については、もういい加減、縮小してもいいのでは、との控えめな示唆が含まれているのでしょう。

▶私立大の公立化も牽制

公立大学については、「地方交付税交付金という国費の多額な支出を伴う公立大学の設置や収容定員増、更には既存私立大学との競合を招く公立大学化については抑制的に取扱い」と述べ、民間の教育機関で費用対効果の高い私立大学の活用とその支援に叡智を傾けたい、と遠回しに公立大学の闇雲な拡大へ懸念を述べました。

この発言により、近年相次ぐ私立大の公立化についても、否定的な考えを明らかにしたということになります。
これについては、実際、各地の私立大自身が学生募集や経営等の理由により、自らの判断で公立化を画策するケースが多いわけですから、いわば身内の加盟校に対しての牽制ともいえるのかもしれませんね。

▶通信制大学のあり方についても注文

教育研究の「質」の項目では、外国人留学生や社会人をはじめとした多様な学生の受入れは促進すべきであるが、こと外国人については「卒業後の日本での就労や入国管理等の問題が存在」することを指摘し、「教育行政の枠を超えて改善すべき障壁も数多く存在」していると述べました。

ただし、どうしたら海外からの学生の募集を促進できるかについての方策や、入り口における選考や選抜についての明確なアイデアは示されませんでした。少々残念です。

遠隔授業と通信制大学の質保証の項目では、「今後一層の拡大が予想される通信制大学については、「知の総和」の維持向上への貢献が期待される反面、その設置基準は依然として簡便なものとなっているため、定員規模の在り方、授業運営や成績評価を含む教育の質保証等について改めて検討する必要性が生じている」とし、これからの安易な通信制大学の誕生にクギを刺してます。
「通学」制大学の存続を脅かす「通信」制大学に対する警戒感が滲み出ていたようです。


▶定員は維持したままで、一時的に削減

定員管理政策の転換については、新しい提言がなされました。
定員未充足大学に対する新たな定員管理制度の導入案として、「各大学の判断により、①『収容定員』は維持したままで、②これまでの入学者実績等を踏まえて収容定員から『一時的に削減する定員数』を文部科学省に届け出ることを可能とする恒久的な制度の創設」をする、というもの。

「例えば、大学が定員増や改組転換等を行う場合には、『届出』によって従来の収容定員に戻す」ことを認める、というわけです・・・

これは、私立大のみならず、少子化で苦しむすべての大学にもかかわるプランかもしれません。適正な定員の在り方に関する一つの具体的な提言として、注目されていいかもしれません。

また、パートタイム学生(科目等履修生など。現行、単位は取得可能だが合計しても学位取得にはならない。欧米では学位取得可能な学生区分)の収容定員への加算も提案しました。
今後の課題としても上がっていますが、現在注目されているマイクロクレデンシャルを目指す社会人学生も学生数のカウントに組み込め、というわけです。
これも、重要な提案でしょう。

ただし、そもそも定員というものは、文科省が諸条件に照らして認可した数字であって、適切とされる目安の人数であり、さらに言ってしまえば、一つの“決めごと”なのです。
この定員自体が独り歩きをしてしまって、大学の存立そのものを揺るがせていること自体、本末転倒ではないでしょうか。

一体、定員とは何ぞや。

この根本哲学こそ、早急に議論すべきでしょう。

▶「学生に責任のない要件」は撤廃を!

私大協は、さらに重要な指摘をしました。
高等教育の修学支援新制度における機関要件の撤廃です。

高等教育の修学支援制度は、意欲ある子供たちの進学を支援するため、授業料・入学金の免除または減額と、返還を要しない給付型奨学金として、令和 2 年 4 月から開始された制度です。令和 6 年には多子世帯、理工農系にも新規拡充区分を増やしたことで注目されました。

この制度を利用して進学するためには、受給者が要件を満たしていることの他に、進学先の高等教育機関側も機関要件を満たした対象校であることが必要となります。

機関要件の確認事務に関する指針(2024年度版)令和6年3月29日文部科学省PDF

小原会長は、「『学生に責任のない』機関要件は撤廃されるべき」と、学生の立場に立った見直しを要求しました。

これについては、まさに、その通り!と、頷かされました。
もう少し早く声を上げてほしかった気もしますが、本当に、学生には何の責任もない規定はおかしいと言わざるを得ませんね。

学生に責任のない機関要件についての詳細はこちらが参考になります👇

《参考記事》2024年1月17日アルカディア学報2951号 私学高等教育研究所


▶地方自治体がもっと関与し、財政支援を

さて、注目の高等教育の「規模」および高等教育への「アクセス」については、「現在のような規制強化による収容定員管理を続けていけば、地方の人口減少に拍車をかけ、やがては地方から大学進学の機会が失われ、若者の地域流出を助長させかねない」とし、「地域の貴重な高等教育機関として存在する私立大学を、国や地方自治体が積極的に支援していく発想の転換が求められる」と、地方自治体の関与も提言しました。
これをいいかえれば、地方の私立大学が潰れて困るのはそれぞれの自治体なのだから、国に任せっぱなしではなく、地方自治体も関与せよ、といったところでしょうか。

※「適正」や「アクセス」については、当シリーズで既に取り上げておりますのでご覧ください👇

そして、高等教育機関への財政支援については、「高等教育に対する公財政支出の更なる拡充、そして基盤的経費である私立大学等経常費補助金による『2分の1補助』の早期実現が図られるべき」と、財政の強力なバックアップを求めました。

さらに、新たに、自治体による私立大学の財政的支援もこれに加え、地方自治体に対しては、私立大学に対する地方交付税交付金を含む助成金の積極的な拠出を求めました。

募集が芳しくなくても、資金さえあればなんとかなる、、、
経営者としてのそのお気持ちは理解できなくもありませんが、、、

▶高等教育全般の財政支援・負担についての議論を急げ

しかし、巨額の借金を背負っていると言ってもよい我が国の財政状況に鑑み、「もう限界です」と白旗を挙げてしまった国立大学ともども、いったい高等教育に回す巨額の予算を作り出す打ち出の小槌は、一体どこにあるのでしょうか?

現在、東大の学費値上げ等で注目を集めていますが、高等教育全般の公財政支出をどうすべきか、誰がお金を払うべきかについての議論が、早急に行われることを願います。

また、私大協は寄附税制についても指摘しています。
学校法人に対する寄附促進のための税制改正として、「税額控除対象法人への個人寄附に係る税額控除率を現行の 40 %から、最大 100 %まで引き上げること」、そして、「全ての学校法人を寄附金税額控除の対象とするためのPST要件の撤廃など、寄附へのインセンティブを高める税制の見直しが不可欠」、としました。

これは、米国などの海外大学に見習って、日本でも早急にできることはやるべきではあります。ただ、これについては、寄付が増すことでの寄付者の発言力が増してしまうことの危険性を指摘する意見もあります。寄付者が経営にまで関与、あるいは圧力をかけてくる可能性もあるということです。

《参考記事》
2024年10月11日(金) 日経新聞 米大学への寄付8兆円、日本の30倍 研究促進・圧力も

※下リンクは有料記事のため全文はご覧いただけません


ここまで、私大協の発表についてみてまいりましたが、全体としては、私立大学としての自負も感じられ、注目の提案・提言も含め、各方面における課題に対して的確な意見が述べられていたことには、安堵の気持ちも湧きました。

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ところが、永田部会長はご不満?

※以下、「 」は発言部分。引用元の議事録は後日部会ページ掲載予定。

小原会長の意見表明が終わると、永田部会長は、「小原先生がおっしゃられたことはどれもリーズナブルであるけれど、すべてやったとしても、2040年には18歳人口が多く減少してしまう。そうではなくて、それに向けてどうされたいのかについて伺いたいのです」と、なんと不満を言われたのです!

小原会長は、おそらく驚かれたのでしょう。
かなり戸惑われたご様子でしたが、「加速度的に(私立大を)撤退させるのはいかがなものか」と、私大撤退容認の動きには断固反対する意思を示されました。

しかし、その後のやり取りの中で、
「どうしてもマーケットがなくなれば、撤退するしかない」
ともお答えになっていました。
至極当たり前のはなしではありますが・・・

永田部会長の質問には、おそらく、私大協の提案したような小手先の改善策では太刀打ちできないほどの未曾有の危機が迫っているということをわかってほしいという意図が込められていたのかもしれませんし、私立大の方からも国立や公立と一緒に連携や統合できるように自分たちから何か良いアイデアを出してほしい、というような意味もあったのかもしれません。
でも、小原会長としては、現段階では協会として、このようにしか答えざるを得なかったのではないかと、同情を禁じ得ないのです。

ある視点が欠けている、のでは

しかし、私はこのやりとりを聴いていて、ある大事な視点が欠けているのではないか、とハタと気が付いたのです。
もちろん、私立大学としては、現段階としての最善の策をまとめられ、要領よくプレゼンされていたとは思いますが、何か大事なことが語られていない・・・

これについては次回、お話したいと思います。
そして、一般社団法人 日本私立大学連盟のプレゼンについても触れましょう。


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