教育のやりがいに集中できる学校へ① "若手教師" を支えるミドルリーダーのあり方②出版社の編集者が学校現場に寄り添う【教育ニュース最前線vol.12-1】
① "若手教師" を支えるミドルリーダーのあり方
横浜創英中学・高等学校に勤務する前川智美先生が、2023年9月『救え!!トイレの若手さん ー若手教師を支えるミドルリーダーの接し方ー』を出版しました。マンガもあり、とてもわかりやすい内容です。
東洋経済educationの記事では、全国的な教員不足の深刻な状況を踏まえ、前川先生の本を紹介しています。
▼若手教師が育つ学校「中堅教員」のふるまいが違う、ミドルリーダーのあり方とは 「誰一人取り残さない」温かい学校をつくるには(東洋経済education・8/13)
前川先生の最初のキャリアは東京都の教諭。初任時から東京都の教員採用をPRする若手の代表に選ばれ、全国の採用説明会などで「東京都の教員の魅力」を伝えてきました。「東京教師道場」で学び、リーダーとなって若手教員の育成に当たり、2023年度に横浜創英中高へ転身しました。
前川さんは、若手教員の離職を防ぐキーマンとなるのは、ミドルリーダー層の中堅教員だと言います。
若手の悩みに、ミドルリーダーはどう寄り添えばよいのか、論じています。
多くの仕事、いくつもの締切に追われているとき。
「やらされ感」が強くなっているとき。
「自分の授業ってつまらないな」と思いつつ、どう改善すればよいのかわからないとき。
「責任が重い」「失敗したらどうしよう」と考えてしまうとき。
初めてチーフを任されて、周りに仕事を振れないとき。
こうした具体的な悩む場面を取り上げ、わかりやすくアドバイスをしています。
💡研究員はこう考える
平成元年に教員になった私の最初の勤務校は学年2クラス。JRの駅がなくなったばかりの人口約6,000人の町で、基幹産業は漁業と農業でした。
センター試験(現・共通テスト)受験者はゼロ。初めての部活動顧問は非専門の野球部。初めて見る制服や頭髪。どうすれば「私語」をやめさせることができるか、どうすれば授業が成り立つのか、必死でした。
分掌という言葉さえ知らないぐらい勉強不足だった私は、事務仕事で苦闘し、授業準備の時間の確保に悩んでいました。
土日は野球部の練習で、車に生徒を乗せて行かなければならない練習試合もありました。町の行事に参加したり、教員チームの駅伝や朝野球もありました。
頭のどこかには「いつでも辞められる。他の仕事もできるんだ」との考えがありました。
しかし、辞めませんでした。多くの問題、困難がありましたが、辞めませんでした。
それは先輩の先生たち、つまりミドルリーダーが魅力的で、尊敬できる面を持っており、支えてくれたからです。
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そもそもの私は超個人主義者で、常にゴーイング・マイ・ウェイでした。誰かに頼るのは嫌いでした。
しかし、学校では頼らざるを得ません。教えてもらわなければ、支えてもらわなければ何もできません。
知識も考え方も姿勢も教えてもらいました。課題にどう立ち向かえばよいかを身をもって、あるいは言葉で教えてくれました。うまくいかないとき、生徒とぶつかったときにどうすればよいか、何人もの先生がアドバイスをしてくれました。
それがなければ途方に暮れていたと思います。悩みや愚痴を聞いてくれ、相談に乗ってくれました。
また、それまでは、学生時代につくられた私の価値尺度があり、それに従って、良し悪しを判断していました。それなりの年数、経験を経てつくられた尺度です。
しかし、その尺度とは異なる良し悪しのある世界が新たに開けました。そこには、教師としても、人間的にも絶対に敵わないと思える先輩がいました。
生徒に寄り添う。教えるべきことは教える。目指すべきものを示し、よい方向へ導く。
リスペクトの念は、人を支え、前に向かわせてくれます。
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また、先輩たちは、生徒が大好きでした。教育的な愛情がありました。時に「あいつはもう」「全くダメだな」と言いながら、絶対に見捨てない。多面的に見て、良さを見出す。本人も親も知らない可能性を発見する。信じ続ける。
私も文学や哲学を通して、また自分の人生経験によって、どんな生徒に対しても受容的な感情がありました。
過ちを犯しても、過ちは許せないけれど、人は許せる。人間らしさ、人間臭さへの肯定的な見方があり、生徒が好きでした。なかなかうまくは教えることも関わることもできませんでしたが、好きでした。
そして、先輩教師や生徒たちとともにやっていく学校が好きになりました。好きがベースにあり、それが最優先なら、何とかやろうとします。絶望的な状況でも「諦めたら試合終了」と思います。
学校教育は社会に必要であり、未来を創る場です。教員組織間に、相互にリスペクトしたり、ケアしたりする関係が必要です。
前川先生のように、指示命令するのではなく問いかける。相手の気持ちを想像しながら、対話を通して、絡まった糸をほぐしてあげる。場合分けし、具体的な示唆をする。
ミドルリーダーと若手教員のみならず、様々な関係性で役に立つ本です。
ぜひ読んで、教育のやりがいに集中できる学校にしましょう。
②出版社の編集者が学校現場に寄り添う
今回ピックアップした記事はエッセイです。ニュースではありませんが、是非取り上げたいと思いました。
教育書を専門に刊行する東洋館出版社の編集者、河合麻衣さんが書き手です。
▼「現場」とは、どこのことか?(じんぶん堂/朝日新聞社・8/13)
東洋館出版社のメイン読者は小中学校の教員です。文部科学省の「学習指導要領」の発行元として知られています。
近年、教育書には、教員の働き方やメンタルヘルスに関する書籍が増えています。校則を変えていく生徒のアクションを取り上げたり、学校を子どもの権利が守られる民主的な場にしていこうと提案したりする書籍も増えています。その流れをつくった出版社として評価されることもあるそうです。
河合さんは編集者ですが、学校への取材や授業見学に時間を割いています。そして、言うのです。
学校のみならず、文科省にも「子どもの学びの担保のため懸命に働く職員が存在すること」を知っていると言います。
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こうして、河合さんを編集者として、特別支援学校で教員として勤務する著者による、「教員の不適切な指導の内容と予防法、改善策」を述べた書籍が出版されました。
▼川上康則『教室マルトリートメント』2022年(東洋館出版社)
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昔から周知の事実であった「教員の経済的自己負担」についても、調査し、数値的な可視化がされ、論点整理、分析し、解決策を探る書籍が出版されました。力作です。
▼福島尚子、栁澤靖明、古殿真大『教師の自腹』2024年(東洋館出版社)
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これまで触れられなかった現実を取り上げると必ず批判があります。
しかし彼女は「教職を持続可能な職業にしたいから」と前に進みます。
エッセイでは、スクールカウンセラーや事務職員のことにも言及しています。ある切迫した感情を持って。
最後にこう言います。
💡研究員はこう考える
繰り返しますが、これはエッセイであり、ニュースではありません。しかし、ピックアップし、多くの人に読んでほしいと思いました。
学校には多くの課題があり、教職員は様々な思いを抱きながら、格闘しています。
教育は大切な仕事で、やりがいがあります。
しかし、不平不満を言いたくなることもあります。
「助けてくれ」と叫びたくなることもあります。
そんなとき、思わぬところに強力な応援団がいると「やはり、頑張ろう」と思えます。「承認欲求なんて要らない」と思っていても、「あ、わかってくれているんだ」と気づくと、やる気になります。
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私は校長をしていたとき、東京へ行き「未来の先生展(現・未来の先生フォーラム)」に参加しました。
▼関連記事
初めて、自腹で格安飛行機に乗り、カプセルホテルに泊まって参加しました。2019年のことです。
二日間、当時の並木中等教育学校の中島博司校長先生や麹町中学校の工藤勇一校長先生の話を聴き、大いに刺激を受けました。
「問い」のワークショップも、先進的な探究活動も目から鱗でした。GIGAスクール構想前夜でしたが、進んだICT機器やデジタル教材に驚きました。
そして、教員や教職を目指す学生以外に、民間企業に勤めている人たちが数多く参加していたのが想定外でした。
音楽やエンタメを通して、教育に貢献したいと思っているソニーミュージックの人の話にも魅了されました。
皆さん、真摯で、教育の本質を押さえているように思いました。
学校や教育行政以外に、こんなに教育のことを思い、応援し、自分でも何かしようとしている人たちがいるのだと感動しました。
愚痴を言っている場合ではない。打つ手は無限だ。そう励まされました。
河合さんのエッセイを読んで、その時のことを思い出しました。
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河合さんの「現場はどこか?」という問いも刺さりました。
私も、校長として、外に向かっては、現場を見てほしい、現場のことを伝えたい、現場をわかった上で施策を進めてほしいと思い発言していました。
学校においては、現場の只中から理想を立ち上げたいと思っていました。現場を無視した理想の押し付け。理想による現場の断罪。それが嫌だったのです。
教育の理念はあります。しかし、まずは現実を適切に認識し、目的や根拠を考えながら方向づけをし、責任を持って決める。そう心がけていました。
かつて、北海道立教育研究所の所長を務めた北村善春氏が掲げたスローガンは「徹底した現場第一主義で未来教育の創造を」でした。
現場はどこにあるのか。誰が当事者なのか。現場にいて、どんな未来を創ろうとしているのか。
河合さんのエッセイの問いを心に留めておこうと思います。
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