理系の女性にビビビッときた本【先生のための本棚】
再び書籍紹介を担当いたします、高校支援チームのSと申します。
前回の記事では、理系もとい科学に興味を持つきっかけになった本をご紹介しました。
今回は少し時を進めまして、私が中学生~大学時代に夢中になった本から 、
中学生~高校生のみなさんにぜひ読んでほしい、理系へ進む道しるべになる漫画・小説をチョイスしました。
理系女子のロールモデルになりそうなキャラクターたちが出てくる作品です。
特にキャンパスライフを描かれた物語をあつめました。男女問わず、大学進学を考える時期の良い刺激になると思います。
研究に没頭する女性たち、
なんてかっこいいんだろう。
1.いつも自然体、いつでも研究室に現れる。
ネイルじゃなくて、試料で荒れた指先が魅力的。
漫画「動物のお医者さん」より菱沼聖子さん。
説明不要なくらい有名な漫画ですが、簡単にあらすじを。
北海道にあるH大 獣医学部を舞台に、主人公の学部3年生~院生卒業までの学生生活を描いた物語。
出てくる動物は、主人公が買っているシベリアンハスキーのチョビをはじめ、猫に鶏、各種わんちゃん、スナネズミ……獣医学部の実習もあるので、牛、馬、羊からダチョウまで、様々な動物たちが登場します。そして特徴的なのが動物の気持ちをト書きで入れるスタイル。これがとてもいい味、出しています。
今回、特にご紹介したいのが獣医学部 公衆衛生学講座に所属する、院生の「菱沼聖子」さん。
マイペースでおっとりとした外見とは違い、話が進むごとにユニークすぎる生態が出てくる、出てくる……。
最初にこれは!と思ったシーンは、菱沼さんがぺった ぺった ぺったと試験管の掃除をするシーン。検査で別れた血液成分の餅っぽい所を、嬉々として掃除しています。しかも、自分の実験ではなく、通りがかった授業の片づけを手伝っているという……怪しい か、かっこいいー!
研究室でのドタバタにおっとりと参加する菱沼さんですが、さすが主人公たちの先輩、ちゃんと研究もしています。そして、メインとなる回では博士論文や院卒後の就職にまつわるお話も。
菱沼さんが登場する回は、明るく楽しいお話である一方、(今から25年以上前に連載していた漫画ですので)当時の女性研究者への世間の目、就職の苦労など、時代を感じる部分もあります。
現在はまったくそんなことはない…と言いたいですが、未だにこういった思考が足枷になり、理系への芽が摘まれてしまうこともある、と思う部分もありました。
2.自分のやりたいことをやる。強い!怖い!
けれど、後輩にはちょっと優しくて、可愛らしい。
漫画「もやしもん」より長谷川遥さん。
「もやしもん」は酵母や細菌など“菌”を肉眼で見ることができる主人公を中心に、農大での学生生活を描いた物語です。
主人公がその力を見初められて入学と同時に通うことになったゼミは、(多分)発酵を研究するゼミでした。研究を兼ねて、みんなで一から発酵を実践する様子は毎日が文化祭のようで、とても楽しそう!農大ならではのイベントも多々あり、とても充実した大学生活にワクワクします。
このゼミに所属する唯一の院生が「長谷川遥」さん。
初登場時はたいへん高圧的な女性でちょっと恐ろしいのですが、主人公含む後輩たちと過ごす中で、やさしさと気遣いが垣間見られ……そんな自分に照れる様子がグッときます!
後輩たちに厳しいこともいうけれど、本人が心から尊敬している教授の元でストイックに研究している、というベースがあるのでそんなところも魅力的に見えてきます。
私が高校生の時です。
「もやしもん」の連載が始まり、農大にスポットが当たりました。
教科の中で一番好きな生物、大学では菌や細胞の小さな世界を、もっと深く・詳しくずーっと毎日学べるんだ!なにそれ最高!!と衝撃を受けました。
ところで、菌の働きを菌自身が解説する「もやしもん」。
今だと「はたらく細胞」がそれに近いのでしょうか?
もちろん、実際の菌や細胞は人間のように個々に人格があったり、思考したりはしません。あくまでローファンタジー。
その現実との乖離で評価が分かれるけれど、勉強にならなくても多少フィクションが混ざっていてもOK、というスタンスだった私はとても楽しめました。
さらに言えば、私の友人の場合は「学ぶ反応(化学変化や機能)にストーリーがつくことで、その仕組みが物語のようにすっと頭に入るんだよね」とのことでした。
なるほど、あえて人格を与えることで興味や親しみを持てる、勉強に助力するパターンもあるのか!と目から鱗でした。
そういえば、菱沼さんと長谷川さん、まったく違ったタイプのキャラクターですが、実験白衣の下の服装にはちゃんと個性があり、各々こだわりのおしゃれをしているのも魅力的ですね。
3.自分を磨くよりも試験管を磨く。
植物に恋する彼女に読者も恋をする。
小説「愛なき世界」より本村紗英さん。
「愛なき世界」の主人公は、大学近くの食堂で働く青年です。
彼は出前などで繋がりのある研究室で出会った大学院生の女性に、恋をしました。しかし、彼女は人生のすべてを植物(シロイヌナズナ)の研究に捧げるほど植物が好き。はたして主人公は彼女と恋を発展させることはできるのか……?という物語です。
恋のお相手である、「本村紗枝」さんの所属する研究室は、今回紹介している3名の中では一番、私が在籍していた学部に近いと思います。
なので、器具や実験が出てくるたびに「分かる!」とうなずきながら読んでいました。
個性豊かな研究室の面々にも「あ、居そうだわ」とにやけてしまいました。
本村さんの魅力は何よりも研究に没頭できるところです。
研究に関係のない所は「まぁ、いっか」と頭の中から消えてしまう。自身の興味にのめり込んで生きる人。ときにはそんな偏った生き方をしていいのか迷ってしまうけれど、彼女の「知りたい」という情熱はとまりません。
主人公の青年の目を通して、そんな彼女に尊敬と愛おしさを感じました。
「何かを好きになれた」その気持ちを大切に。
本書を読んで、忙しさを言い訳にないがしろにせず、時にはわがままに時間を割いて向き合おうと思えました。
研究に没頭している人はとても魅力的。
座学ではいまいち指導に乗り気でない教授も、フィールドでは機敏な動きや的確な助言がズバズバもらえたり。
そう、理系の実習ってほんとうに面白いんです。
私自身、罠でとらえた生物の標本を実際に作ったり、試薬を駆使して採取した水のカテゴリを調べたり、植物の群生を目視とPCを使ってまとめたり、海洋実習では船に乗って……と、たくさんのフィールドワークを経験しました。
大学だからこそ、惜しみなく捧げられる時間とお金と設備。そこで学べたことは人生の宝です。
もちろん、これらの実習をするためには、座学で知識や仕組みを学ぶ必要があります。新しいことを学ぶのは苦しいときもありますが、同じ分野に興味を持つ仲間と激励し合いながら乗り越えた思い出も宝物です。
それから一通りの履修が終わり研究室(ゼミ)に入ると、白衣を身に着け、実験を繰り返す日々がはじまります。
再現性のある正確なデータにするためには、同じ条件で何度も実験をしなくてはいけません。空調や器具の状態にも気を配って、データを集めて。
集めたデータから何が分かるのか頭を悩ませ、忙しそうな先輩、先生の様子を伺いつつ、なんとか助言をもらおうと質問をまとめて……。
いったい、自分は今なにをしているのか、これが何につながっているのか、自問自答が止まりません。
もし仮定が間違っていたら?どこからやり直せる?もういっそ、全部没にして新しい方法を探したほうが早い?ぐるぐる悩み、それでも、なんとか定期報告で発表……そして先生の質問で撃沈。
それでも何か結果が得られることを期待して、自分を信じて研究を続けます。ゼミに入る、ということは研究者としてのタフネスを鍛える場なのかもしれません。
理系とは。
話がだいぶ広がってしまいましたが、紹介しました3人の女性。
創作上の人物ですが、その人となりは全く違います。至極当たり前ですが、リケジョとくくられる人たちも十人十色。
本村さんのように研究が人生!な人もいれば、菱沼さんのようにライフとワークは別に考えるタイプもいます。
おしゃれが好きな人もいれば、白衣の下はスウェット(隠れてラッキー)な人もいます。
おしゃべりしながら作業をすすめるのが好きな人もいますし、自分の世界に没頭して思考で頭がいっぱいになる人もいます。
そして、理系科目と同じくらい文系科目が好きな人もいます。
ただ、個人的に多くの人にあてはまるかも?という部分は、「実験や観察への興味が強い」というところでしょうか。
実習で「やってみる人―」となったとき、「やります!」と手を挙げられること。なにか新しいことを知ったとき、「ほんとうに?」とできるだけ自分でも試そうとしてみること。
あと、もちろん今回紹介した作品たちが心に刺さったなら、理系の道をめざしてみるのも良いのではないでしょうか。
以上、私の好きと思い出を語る場になってしまった気もしますが、皆さんの進路選択(助言)の一助になれましたら幸いです。
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