2023年度入試の結果、私立大の定員充足率は一段と悪化。とくに小規模校は深刻な状況に陥り、規模の大小による明暗も明らかに。
入学定員だけでなく、収容定員もチェック
前回まで、前置きとして、国の政策で進められてきた私立大学の定員厳格化について、その背景・経緯、そして 2023 年度入試での方針転換である“緩和措置”を見てまいりました。
今回から、その結果、私立大学の定員充足率がどうなったか、そして緩和措置の影響はあったのかどうか、具体的に見てまいりましょう。
なお、このシリーズでは、入学定員だけでなく、収容定員もどうなったのかを併せてご覧いただきたいと思います。
※学生募集を行っている私立大学全てを対象に調査し、
9 月末段階での判明した約 560 校を集計しております。
なお、入学定員判明校数と収容定員判明校数は異なります。
学生募集を行っている 4 年制私立大学の 90 %以上となります。
まず、定員充足率がアップしたのか、それともダウンしたのか、についてです。
入学定員充足率、収容定員充足率いずれもダウンした校数が全体の過半数を超えていることがわかります。
今回の入試では定員厳格化が“緩和”されたわけですから、文字通り、各私立大学においては、いっとき厳しい定員管理を緩めることができるようになり、この機に充足率を高めることも可能になったわけです。
そして、実際そのように充足率を高めることができた学校もありました。
しかし、意外にも、逆に充足率を低下させてしまった学校の方が圧倒的に多かったことがグラフからわかります。
緩和され充足率を高めたかったのにもかかわらず、充足率を高められなかった・・・
そのようなジレンマに陥った大学があちこちで見られた、ということです。その結果、全体としては、充足率を下げてしまった大学の方が多かったというわけです。
規模によって4つのカテゴリーで分析
ふたつの充足率を比較してみると、収容定員充足率のほうがダウンした比率は約7㌽高くなっていることがわかります。
統計上そのような現象となった背景には、数の上では圧倒的に多い小さい規模の大学の動向が作用しているのです。
ここで、大学の規模別による状況の違いを分析することにしましょう。
私たちは、私立大学を収容定員数により 4 つのカテゴリーに分けることにしました。
私学助成が行われる際の分類では、8,000 人以上を一括りにして大規模校としています。
しかし、ここではその大規模校を敢えて 16,000 人以上の「超大規模校」と、それより小さい通常の「大規模校」の 2 つのカテゴリーに分けて集計することにしました。
というのも、大規模校は、8,000 人から 5、6 万人を超える規模のマンモス校もあり、一つのグループに収めるにはあまりに規模に大きな開きがあるからです。
おそらく、中堅・小規模の大学に甚大な影響を与える可能性の高いと思われるこうした超大規模校を敢えて分けて分析すべきと考えたからです。
まず、入学定員についての充足率を規模別にどうなったかを見てみましょう。
入学定員充足率では超大規模校と大規模校は、アップ・ダウンの数ほぼ半々ずつとなり、おおむね均衡のとれた募集結果となったことがわかります。
一方、中規模校、小規模校と規模が小さくなるにつれ、ダウンしたところが多くなっています。その数は過半数を超えていることがわかります。
この段階で、緩和措置が行われたにもかかわらず、規模の小さい大学は充足率がむしろ下がっているところの方が多かったことをご確認いただければと思います。
入学定員充足率とは異なる
収容定員充足率の状況
では、次に収容定員についての充足率の方を見てみましょう。
こちらは、入学定員の方とは様相が一変していることが一目でわかります。
超大規模校および大規模校は、7 割を超える大学が充足率をアップさせているのに対して、それ以外の規模の小さい大学はダウンしている割合がさらに高くなっています。
特に、小規模校はほぼ 4 分の 3 がダウンしているのです。
入学定員充足率と収容定員充足率が、これほどまでに異なった様相になったことには驚きですね。
では、大きな規模の大学の収容定員充足率が、なぜこれほどまでアップしたのか。
入学定員は均衡のとれた募集であったにもかかわらず、なぜ収容定員充足率がアップしたのか。
収容定員の充足率は、その年の春、卒業して抜けた学生数と新たに入学してくる学生数のバランスが大きく作用するのです。卒業生の数が入学者の数より多ければ全体の在籍者は減少し、逆であれば増加します。
おそらく、この春の卒業生数はそのほとんどが 2019 年の入学者になるはずですが、すでに定員厳格化で抑制されていて少なかった。
※このあたりの経緯は前々回、前回の内容をご確認ください。
超大規模校および大規模校における 2023 年度の入学者数は比較的抑制された規模であったにもかかわらず、収容定員の方の充足率が上昇した背景には、おそらくこうした要因があった可能性があります。
一方、規模の小さな私立大学は、逆の現象がすでに起きていたものと推定されます。過去数年にわたり入学者数を十分に確保できない状況が続く小規模校において、比較的人数の多い卒業生が卒業してしまい、新入生の数が僅少という現象が多くの大学で発生し、全体的な収容定員充足率のさらなる悪化をもたらしたものと考えられます。
状況悪化が著しい小規模校
収容定員の悪化が著しい小規模校の状況を詳しく見てみましょう。
入学定員と収容定員の充足率を 10 %ごとに区分けして、22 年度と23 年度を比較してみると、どちらの充足率も 100 %を切る定員割れが増加し、半数をはるかに超えたことがわかります。
区分ごとに詳しくみると、入学定員充足率においては70%台の大学が増加し、収容定員充足率では 80 %台の大学が大きく増えていることがわかります。
22校が入学定員充足率50%割れ
さらに注目すべき点として、入学定員充足率で 50 %を切る深刻な状況に陥った大学が 22 校判明しました。
こうした大学は 2024 年度以降、収容定員充足率にも極めて深刻な影響が出るのではないかと懸念されます。
これまでは、あまり話題にのぼらなかった収容定員の充足率。
前回までにご説明しましたように、収容定員の充足率は 2023 年度から私学助成の新たな基準となっただけでなく、別の観点からも重要なデータとなってきました。
つまり、収容定員充足率の悪化——
これは、各校における今後の学生募集や経営に直截的に影響を及ぼすことにつながる、のです。
次回は、収容定員充足率の重要性を改めて確認し、
入学定員充足率と収容定員充足率との関係は
どうなっているのか、についても見てまいりたいと思います。
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