相次ぐ募集停止で問われる、私立大学のレーゾンデートル ③
私学破綻を見据え、新たなルール作り?
苦境に立たされている女子大。
これまで、その背景を詳しく見てまいりましたが、
そのような矢先、驚きのニュースがとびこんできました。
記事によると、今後、経営が悪化する私立大学が相次ぐことが予想されるため、政府は、閉鎖された大学の学生を受け入れる大学の定員について基準の充足率を超過しても補助金を減額しない特例を設ける方向で検討を始めている、とのこと。
まさに、一刻の猶予も許されない切迫感が感じられますね。
私立学校経営には不可欠な補助金
まず、私立大学には補助金が支払われていることを、みなさんはご存知でしょうか。
私立学校については、大学をはじめとする学校に対して、国(文部科学省)から、日本私立学校・共済事業団を経由して、「私立学校等経常費補助金」が毎年交付されているのです。
日本私立学校・共済事業団のホームページにはこのように記載されています。
更に、詳しくみると、 教職員の給与費、教育と研究の経費等を対象とする「一般補助」と、特定の分野や課程等に係る教育・研究の振興を図るために「特別補助」の2つの枠が設けられていることがわかります。
この政府からの補助金、私立大学にとっては、経営の大きな支えになっているのです。私立大学全体では、収入の多くは学生からの授業料等でまかなわれていますが、その一方、経常的経費の約1割は補助金で補っていると言われています。
定員超過による不支給は地方創生が背景に
ここで、着目したいのは、この補助金の支給にあたっては、定員の充足率の如何によっては、支給をしない場合がある、という規定があるのです。
日本私立学校共済・事業団
「私立大学等経常費補助金取扱要領 私立大学等経常費補助金配分基準」(以下、補助金取扱)
平たく言えば、合格者を多く出し過ぎて、入学者が定員を超過し、収容定員に対する充足率が100%を大きく上回ってしまうと補助金がカットされる、というルールです。
仮に補助金が全額不支給となれば、教職員への給与や、日々の教育活動に支障がでることは必至でしょう。
昨年までは、入学定員に対する充足率が基準でしたが、近年トラブルが多発したため、今年度よりルールが変更になり、4学年全体の「収容定員」に対する充足率に変更されました。
文部科学省
「令和5年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱いについて(通知)」
近年、国を挙げて、「地方創生」の旗が振られる中、大都市の学生数を抑制し、地方大学への学生進学を促そうとして、都心部の大規模大学の入学定員の充足率が厳しく制限されていることは、メディアでもたびたび報じられてきましたので、ご存知の方も多いかと思います。
つまり、都心部の大学が合格者を水増しし過ぎると、地方の大学がさびれてしまうという危惧があったためです。昨年まで適用されていたルールでは、収容定員が8000人以上の大規模大学の超過率は1.10倍までと、かなり基準が厳しくなっていたのです。
定員割れの不支給の方がダメージ大
今回、ここで注目したいのは、こちらの基準ではなく、下回った場合のルールです。
つまり、入学者が定員を下回り、大きく定員割れを起した場合に行われる補助金カットのルールです。
具体的には、在籍学生数の収容定員に対する割合が 50%以下の学部等については補助金が不支給となるものです。
(上記、補助金取扱 5頁 「4.補助金の減額等」の[定員の充足状況による不交付措置] 「イ 学部等に係る補助金を交付しないもの」⑶より)
先ほど申し上げました通り、世間では定員を大幅に上回った場合の補助金カットはよく知られていますが、反対に、学部単位の収容定員が大きく定員割れを起こした場合にも補助金がカットされるというルールは、これまであまり知られてこなかったかもしれません。
しかし、大学にとって、とくに定員が下回った場合の不支給は、よほど潤沢な蓄えや他の収入がない限り、たちどころに経営が立ち行かなくなる状態に陥ることは容易に想像できます。
とりわけ、恵泉女学園大学のような、小規模な大学にとっては、深刻な問題です。
たとえていうならば、崖から落ちそうになり窮地に追い込まれている大学が握りしめているロープを取り上げてしまうようなものと申し上げていいでしょうか。
それくらいに厳しいペナルティなのです。
今後は、18歳人口減少がますます進行するにつれ、こちらのルールの方に注目が集まってくるのかもしれませんね。
私学助成金の不支給要件も募集停止の判断の大きな要因か
では、募集停止を発表した恵泉女学園大学の場合、学生の受け入れ状況(入学状況)や充足率はどうだったのでしょうか。
2022年5月1日現在の収容定員充足率をみると、人文学部が86.9%、人間社会学部が86.2%となっています。前年の数値と比較すると、2021年から、それぞれ7.7㌽、7.4㌽、一段と下がっているのがわかります。
補助金の不支給基準の50%にはまだ余裕があるように見えますが、前回ご紹介した入学定員についての充足率は急速に低下していましたので(2020年度1.04倍→2021年度 0.77倍→2022年度 0.56倍)、もしかすると、公表されていない2023年度の入学状況も芳しくなく、収容定員充足率が50%にかなり近づいてしまった、あるいは割り込んだ可能性はあるでしょう。
仮に、50%にまで達していなかったとしても、来年以降、改善させる方策も見当たらず、それならば大学部門は早めに店じまいをした方が、今後の法人経営には得策と判断された可能性はあります。
いずれにせよ、補助金不支給のルールがプレッシャーとなって、募集停止に踏み切らせた要因になった可能性が十分考えられます。
中学・高等学校部門に悪影響が出る前に
恵泉女学園大学は、「学校法人恵泉女学園」が経営母体となりますが、実は、同法人には別の学校、恵泉女学園中学・高等学校も存在しています。
もしかすると、大学経営の悪化によるマイナスを中学・高等学校を含む法人全体で支え切れなくなる―
大学にくらべ、経営的には順調な中学・高等学校にまで影響が出かねないとの判断がなされた可能性があります。
つまり、学校法人として生き残るための厳しい決断だったのかもしれません。
政府の真意は何処に・・・
冒頭、私立大学が破綻した場合についての政府の動きについての報道をご紹介しましたが、あくまで、学び舎を失う学生を吸収する大学に対し、条件を緩和するというもので、どうやら定員を大きく下回った大学への救いの手は差し伸べられることはなさそうです。
ここに政府の真意が垣間見えてくるようです。
次回は、政府や文部科学省の方で現在進められている
こうした大学の在り方についての議論や“思惑”を
見てまいります。
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