読解力の授業デザイン/高校現場の実例より~社会科教員・管理職の視点~【代ゼミと考える読解力#7】
こんにちは、代ゼミ教育総研note、編集チームです。
読解力の連載、7回目。
これまでの連載はこちらからご確認いただけます。
これまで見てきた「読解力の現状」や、「大学入試で求められる読解力」を踏まえ、高校現場で生徒の読解力をどう育んでいくか、授業デザインや授業改善のヒントを実例とともに考えていきたいと思います(全2回)。
前回は、国語科教員としての様々な取り組みを学びました。
今回は、代ゼミ教育総研主幹研究員の林 正憲先生にインタビュー形式で、社会科教員として、また、管理職として、高校現場で行ってきた様々な取り組みを伺ってみました(インタビュアーは高校支援チームのSさんです)。
▶何があれば「読解力がある」と言えるのか?
―読解力には様々な定義があると思いますが、林先生は読解力についてどのように考えていますか。
端的に定義づけるなら、文脈に応じて言葉の意味と文章の論理を把握する力だと思います。高校入試段階の偏差値に関係なく、全ての高校生にとって、学ぶことの基本ですよね。
知識の暗記で乗り切れるような問題ができていても、読解力につまずきがあって失点してしまっている生徒はたくさんいます。「勉強ができる」と言われていても、読解力があるとは限りません。
―なるほど。では、何があれば「読解力がある」と言えるのでしょうか?
まず一定の語彙力は必要です。例えば、「存在」「認識」といった抽象度の高い語彙が評論文に出てきたときに、文脈から意味を類推することもできますが、ある程度の知識がなければ、何のことかわかりません。
それから、文章構造の把握です。主語と述語の関係、指示語が表す箇所、接続語の意味、それぞれの語の働きについて理解することが重要です。そして、要旨をつかむ力です。文章の中でどこが大切か、それ以外の部分は根拠なのか具体例なのか、そういった文章の構造を見極め、把握する力が、読解力の要だと思います。
▶社会科教員時代の取り組み―「読ませる」質と量
―林先生は教員時代に読解力を身につけさせるためにどのような取り組みをされていましたか。
私は社会科(地歴・公民科)ですが、主に地理と倫理、時に世界史を教えていました。
読解力、自分で読んで深く理解する力を身につけさせるために、とにかく「読ませる」ということに力点を置いていました。
教科書を読まない授業を展開する先生もいますが、私は読ませていました。その際、ただ読むだけだと機械的になってしまうので、読み方に変化を付けるという工夫をしていました。例えば、黙読と音読。音読と言っても、一人、ペア、クラス単位でといったようにやり方で読み方は大きく変わってきます。
また、教科書や副教材以外にも様々なプリントを配付しました。例えば、歴史なら司馬遼太郎とか塩野七生とか。フランス革命を教える時はミシュレとか。ガリレイのところでは、ブレヒトの『ガリレイの生涯』なども。
普通は、せいぜい紙1枚の両面ですが、普通ではない私の場合は3枚も4枚も読ませていました。量は大切です。長々と読ませるわけにはいかないので、せいぜい5分ぐらいですが、生徒が読み続けようとする姿を見ると嬉しかったです(笑)
▶機械的に読ませないために―「読む」スピードと問いかけ
-読むスピードについてはいかがでしょうか。
生徒は一人ひとり読むスピードが違います。自分のペースで、というのも大事ですが、それを意図的に変えることにも意味があると思います。早く読もうとすることで、意味のつかみ方、頭の使い方も変わります。
そして、機械的に読ませないための問いかけがより一層重要です。例えば「この文章には大事なところが二つある。それを読み取るよう、考えながら読んでみて」「読み終わったら一番難しい言葉をあげてもらうから」というように。
▶アウトプットの様々なアクティビティ
-その他にどのような取り組みをされましたか。
線を引かせる授業も行いました。ダメなのは線を引く箇所を生徒に教えてしまう先生です。「ここが大事」「ここがテストに出る」と線を引かせる指導は生徒の考える力を奪います。
「間違っても良いから消せない色付きペンで線を引くように」と勧めていました。「重要」が赤で、「疑問に思った」が緑で、「面白いと思った」のが青でといった具合です。重要だと思ったところだけじゃなくて、緑や青で自分の感情が動いたところに線を引くというのは、感受性の観点から読解力を養うにはとても大切な行為だと思います。
自分で考えることが面倒くさいのか、与えられることに慣れてしまっているのか、特に最近の子供たちは「どこに正解があるのか、どこに線を引けば良いのか教えてくれ」とすぐに求めてきます(笑)。これを全否定するのは、気の毒です。
ですが、生徒たちが自分で読み解き思考し、自分の意見を語って人生を生き、さらにはよりよい社会を創っていくことを望むのであれば、重要部分を自分で見つけ、赤線くらい自分で引けるようになって欲しいです。
線を引いた後は、隣の人とどこに線を引いたか、疑問点を言い合ったり、クラス全体で面白いと感じた部分を共有したりしていました。言い合うだけではなく、ノートに二行で大事だと思った部分をまとめさせることもしました。こんな感じで、「読む」だけでなく「聞く」「話す」「書く」といったアクティビティの組み合わせを工夫しながら指導していました。
▶トライしてわかった課題のありか
-そうした取り組みの成果はありましたか。
読解力に限定して評価をしたことがなかったので、ハッキリとしたことは言えません。新井紀子さんのリーディングスキルテストがあれば、面白かったですね。また、国語科とコラボして読解力の変化を読み取る試みは楽しかっただろうな、と今になって思います。
(読解力以外の様々な要素も関わってくる話なのですが、)地理を教えていて、ある時から模試の振り返りに力を入れ始めました。
誤答の原因や理由について、生徒とやりとりします。生徒に自己分析させ、私からそれを踏まえたフィードバック、アドバイスをします。
正解するためには、もちろん、知識の習得が前提。しかし、問題文や図表などの資料の読み取りの間違いが多くて驚きました。単純な読み方の間違いです。単純ですが、本人にとってはそれが自然で習慣的なものとなっているので、そこに課題があると気がつかないのです。
今と異なりICTなどないので、分析作業には時間がかかりましたが、自分の授業改善につながる発見も多く、有効なアドバイスができたと実感できる振り返りでした。生徒にも課題のありかを明示できたことで、学び方が変わる一助となれたのではないでしょうか。
▶管理職としての取り組み
ー林先生は教頭や校長職も歴任されています。読解力について何か管理職として取り組まれましたか。
生徒の学力が低い学校では、先生はやはり教えること自体が大変なので、読解力どころではなかったようです。「あんな長い文章、生徒は時間内に読めない」と言う先生もいました。
読めないから定期テスト対策のプリントを暗記させる、穴埋めプリントをひたすらやらせる先生も少なくなかったです。しかし、それでは、読解力も、思考力も、主体的に学ぶ態度も身につきません。
とにもかくにも、読む練習です。少しずつ語彙を増やすよう、授業改善を促しました。全校生徒が漢検を受けるという取り組みもしました。とにかく、教科書以外のものでも構わないので、読むことへの抵抗感をなくすことです。また、先生の口から読解力の大切さを語ってほしいと言いました。
「学力が低い」生徒は自信がないのです。学びに対し消極的になっています。私も校長講話で、わかる喜び、できる楽しみ、読書の大切さを具体的に語るようにしました。
朝読書、朝新聞や、「今日の四字熟語」を日直の生徒が朝のHRで説明する取り組みを行う先生もいました。
新聞は、毎朝のようにプリントを作成している先生がいました。内容理解と思考や表現に係る問いがバランスよく載っていました。特定の新聞社のものに偏らない工夫もされていて感心しました。最近は、生徒も大人も新聞を読まなくなってきていますが、読解力の育成や知識の獲得、視野を広げるのに有効なメディアです。
また、本の紹介もしました。ある学年団(チーム)の先生方が廊下の掲示板に本の紹介コーナーをつくったのは効果的な取り組みでした。シンプルなお勧め本の紹介もありましたが、400字の原稿用紙に印象に残った部分を書写して廊下に掲示したところ、それを真似て自分の好きな本を紹介した生徒がいたのは興味深かったです。
大学入試に必要な読解力、仕事で求められる読解力を身につけることが大切ですが、自分の好きな本を見つける、本を巡って生徒と先生が対話する、お互いに本を紹介し合うといった文化ができると素敵です。
生活に占める本や、読書の比重が大きくなって、結果的に、読解力の基礎が培われていくのは理想的です。
▶読解力とは?を考えた授業改善を
―授業改善について、もう少し教えてもらえますか。
ある学校では「基礎・基本を意識した授業改善」を掲げました。その基礎・基本には「読解力」も内包されます。
「読む力がうちの生徒にはない」と言う先生もいます。そういう先生には、まずは「読む力」とは具体的にどういう力かを尋ねます。先生たちの話し合いから、様々な考えが出てきます。教科ならではの読解力もあれば、共通する読解力もあります。それを踏まえて、具体的な策を考えてもらいました。
そして、授業改善で最もよいのは、お互いが気軽に授業を参観し、感想を述べ合うことです。「あのアクティビティは、読解力の育成によかった」「別な問いかけをすると、もっと読むことを意識したのではないか」、そんなやりとりを促しました。これは教科の違いに関係ありません。
いずれにせよ「授業が命」です。
校長が、学びについて、どんなに良いことを言ったり書いたりしたとしても、結局、実際の授業がどうか、です。授業で、学びの基本も読解力も身につけることができます。
授業のデザインを考えることは、大変ですけれども面白いですよね。どこで「読む」と「書く」を組み合わせるか、どこで統計や地図を見せていくか、端末活用とアナログをどう絡めるか、どこでペアワークをさせてみるか考えることは、最高に面白い。学びの基本である読解力の育成を中心として、授業をデザインする。ぜひ、授業改善を楽しんでほしいと思います。
―読解力を鍛えるために授業を見直し改善していく姿勢が大切なのですね。貴重なお話をありがとうございました。
2回に分けて高校教員の皆さまに向けて「読解力の授業デザイン」について発信しましたが、いかがでしたでしょうか。
国語科の先生、社会科の先生、それぞれ共通する手法があったのが、編集チームとしても興味深かったです。
何か今後のご指導に向けてのヒントが見つかれば幸いです。
次回は、読解力を育むための一つの答えともなる記事です。
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8/8(木)
8/9(金)
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