私立大にとって重要度の増す収容定員充足率。その数値は、受験生の受験校選択の際に厳しくチェックされることに。入学定員充足率との関係性にも注目!
修学支援制度でも重要なチェックポイントに
ここで、収容定員の充足率の数値が重要になってきたことについて、もう一度触れておきたいと思います。
私学助成における不支給の基準が、入学定員ではなく収容定員の充足率に切り替わったことは既にお伝えしましたが、もう一つ、「高等教育の修学支援制度」においても、収容定員の充足率が重要な基準となっているのです。
高等教育の修学支援制度とは、政府が設けている「意欲ある子供たちの進学を支援するため、授業料・入学金の免除または減額と、返還を要しない給付型奨学金」のことで、「一定の条件を満たすことを国等が認める大学、短期大学、高等専門学校( 4,5 年)、専門学校に通う学生が支援を受けられる」ものと定めています。
対象となる学校とは、国等が「一定の条件」を認めた大学等の学校のことですが、収容定員充足率が重要な条件となっています。令和 4 年 12 月に見直しがなされた機関要件の一つに、
「直近3年度の収容定員充足率が連続8割未満であると
対象機関から外される」
が設けられました。
つまり、過去 3 年間、収容定員が 8 割に達していない、とその大学に通う学生は修学支援を受けたくても受けられなくなる可能性があるのです。
受験生へ確認を促す文科省
文科省は、この支援制度を周知し、高等教育を目指す高校生たちに活用してもらうようHPで積極的にアピールをしています。さらに、受験生たちに対しては、志望する大学の収容定員充足率がどうなっているのかも確認するように促しているのです。
ですから、収容定員充足率が悪化し、支援制度の対象校リストから外れてしまうと、その大学は受験生たちの“選択肢”から外れてしまい、ひいては、経営状態の危ない大学という憶測までも生んでしまう懸念があるのです。
充足率悪化に陥った大学側からすれば、ただでさえ募集が苦しいのに、こうした扱いを受け、さらに苦境に立たされてしまう、というわけで、収容定員充足率がどうなっているかは、まさに“死活問題”となるのです。
入学定員充足率の後を追うように
さて、ふたつの充足率—「入学定員」「収容定員」それぞれの充足率にはどのような関係性があるのでしょうか。
ここに一つの単純化したモデルをご用意いたしました。
このモデルはある大学の募集において、最初の 5 年間ほど入学定員充足率が50 %まで徐々に年々低下し、その後、5 年ほどかけて回復して100 %に戻るという例です。黄色の棒グラフが入学定員の充足率を示すものです。
それに対して緑色の折れ線グラフは 4 学年全体の収容定員に対する充足率がどうなるかを示したものです。
(ここでは、編入学者や途中退学者、留年等の数は一切排除して考えます)
そうすると、はじめの数年、収容定員充足率は、入学定員充足率を追いかけるように低下していき、入学定員充足率に遅れること 4 年で 50 %にまで低下します。
その後、入学定員充足率が回復していくのですが、収容定員充足率はここでも、後を追いかけるが如く上昇し、4 年遅れて 100 %にまで戻ります。
収容定員は 4 学年分の定員に対する充足率になりますから、なぜ上のような現象が起きるのかはご理解いただけるのではないかと思いますが、
“収容定員充足率の動きは、入学定員充足率の動きより遅れて現れてくる”
ということです。
入学定員充足率が回復しても、効果は数年後に
もっと具体的に申し上げれば、現在多くの大学で見られる入学定員充足率の減少ですが、収容定員充足率の方に反映するのは数年遅れて、ということになります。のちにボディーブローのように効いてくるというわけです。
逆に、努力の結果、入学定員充足率を回復させることができたとしても、収容定員充足率はすぐには上がってこない、ということになるのです。
もちろん、以上のようなモデルは、編入学者や退学、留年等の不確定要素を排除していますから、実際にはそういった変動を総合的にウォッチし、コントロールしていく難しさがあることは申し上げるまでもありませんが、入学定員と収容定員それぞれの充足率にはこのような関係性があることを、募集業務や定員管理に携わっていらっしゃる大学関係者の方には、念のためお伝えしておきたいと思います。
入学者数では大規模・中規模に集中する傾向
ここで、前回触れた規模別でみた全国の状況をもう一度確認しておきたいと思います。
入学者の状況は、昨年比でみると、上の表でもお分かりの通り、収容定員が8000 人から 16000 人までの大規模校、および 4000 人から 8000 人までの中規模校に集まってきており、4000 人未満の小規模校は大きく減らしていることがわかります。
意外なことに 16000 人以上の超大規模校は、定員厳格化緩和下でも入学者数を抑制しており、若干ですが減少しているのです。
総在籍者数では小規模校の一人負け
これに対し、収容定員充足率につながる総在籍者数の状況についてはどうなっているのでしょうか。
こちらは、小規模校だけが、総在籍者数を減らしています。
入学定員充足率の状況だけからはなかなかわからない部分かもしれません。
小規模校における収容定員の充足率悪化がますます心配されるところです。
北関東、神奈川は明るい見通しも
次に、地区別に見た場合はどうなっているでしょうか。
地区ごとに入学定員充足率と収容定員充足率をならべて比較してみました。
すると、北関東と神奈川の 2 地区(青マルの箇所)では、入学定員充足率が収容定員充足率を上回っていることがわかります。しかも入学定員充足率は 100 %を上回っていますので、24 年度以降に向け好調な学生募集が続くことが予想されます。現時点では当面明るい見通しであると言えそうです。
北海道、東京、京都、大阪、福岡では、どちらの充足率も100%を上回っていますので、安定的な状態にあると言えましょう。
今後急速に悪化が懸念される地区も
一方、東北、広島を除く中国、京都・大阪・兵庫を除く近畿、兵庫、甲信越(赤マルの箇所)では、入学定員充足率が 100 %未満で、しかも収容定員充足率を大きく下回っています。このようなケースは 24 年度以降、収容定員充足率が加速度的に落ちてくる可能性が懸念されます。
さきほどのモデルケースで言えば、入学定員充足率を追いかけるように収容定員充足率が下がっていくパターンに該当しますが、それだけでなく、入学定員充足率の著しい低下で収容定員充足率の方も勢いがついてダウンすることが考えらるのです。要注意です。
3大都市圏に集中する傾向が明瞭
これらを 3 大都市圏とそれ以外の地区との比較でみると以下の通りとなります。
入学者数、在籍者数いずれも 3 大都市圏の方に集まっている傾向が明瞭です。地方の私立大学が苦しい状況に置かれていることが、この表からも伺えます。
さて、次回は収容定員割れの状況を再確認して、
苦しい状況の中でも充足率を向上させた事例なども見て参りましょう。
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