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緊急対応が最優先にもかかわらず、記者会見から文科省の本音が垣間見える!? 私大連からは、私学の本質を突く重要な指摘も

本シリーズでは、主幹研究員の奥村直生が文部科学省中央教育審議会の大学分科会で現在審議進行中の「高等教育の在り方に関する特別部会」を追いかけます。
この特別部会で挙がる数々のテーマや議論の方向性は、日本の高等教育の未来に多大な影響を及ぼすものであり、大学をとりまく全ての関係者にぜひ注目していただきたいのです。
特別部会の核心に迫っていきたいと思いますので、皆さまどうぞシリーズの最後までお付き合いください。


▶まず、止血。議論はそのあと

前々回前回で、私立大学にとっては、「持続性」「永続性」が不可欠であることを申し上げました。

これは裏を返せば、
バタバタと私立大学が募集停止になりつつある現状においては、いますぐ、それを食い止めるべく緊急対応すべきである、というメッセージと同義なのです。

たとえるならば、現在出血が止まらず重篤の状態にある人の止血を最優先すべきである、ということです。
まず、何をおいても、出血を止めること・・・
議論はそのあと、なのです。

学校というのは、実は、生命を宿した組織体にもなぞられるのではないでしょうか。一つの学校が、世に誕生すると、そこには毎年生徒・学生たちが集い、学ぶ。

そこでは、教える教師と学ぶ生徒・学生たちとの間で教育が日々実践され、教師と生徒、そして生徒・学生同士の間にはさまざまな人間的なつながり、絆が生まれ、そして、次の世代へバトンが引き渡されていく・・・

ですから、そのように社会の中で永続していく学校の姿は、まるで、一つの生命体のようでもあります。
 

▶学校は、か弱い生命体

しかし、建学の精神や理念、人と人のつながりや絆で結びついているといっても、ある意味、そのつながりは、とても脆弱なものと言っても過言ではありません。
か弱い生命体なのです。

ですから、昨今のように時代の荒波が押し寄せているなかでは、一つひとつの命はいとも簡単に息絶えてしまうでしょう。
とくに吹けば飛ぶような小さな学校は、あっという間に飲み込まれ、消えてしまうのは間違いない。

しかし、それぞれの学校が抱く理念・ポリシーの価値、そして、そこで育まれた教育の魂は、学校の大小とは全く関係ないのです。
いまこそ、その部分に目を向けるべきなのです。

だからこそ、小さくても、目立たなくても、一校一校の存在を大切にしなければいけない。
 
途絶えさせることは簡単。
だからこそ、存続させることがとても大切・・・


▶ZEN大学認可に関する質疑で、ポロリ

では、そうした大学の生殺与奪の権を握る文部科学省は、本当のところ、どういうスタンスなのでしょうか。

11月8日に行われたあべ文部科学大臣の定例記者会見で、その一端が明らかになっていますのでご紹介します。

 記者)
 大学設置の関係でお伺いします。先日、通信制の大学のZEN大学というところを認可されたと思います。大規模な通信制大学となるわけですけれども、大臣の開学に関しての期待をお聞かせください。また、一方で今、私立大学が定員割れの状況が非常に問題となっております。地方の特に大学については、こういった大規模な大学、通信制の大学に生徒が取られてしまうのではないかという懸念の声も聞かれますけれども、この件について大臣の受け止めをお聞かせください。
大臣)
 大学の設置認可にあたりましては、大学設置基準等の法令適合性、また十分な学生の確保見通しが有していることなどにつきまして、大学設置・学校法人審議会における審査の結果を踏まえて認可をさせていただいているところでございます。御質問のZEN大学を含め、認可した大学においては、計画の通りに、学生に対して質の高い教育を提供していただければというふうに考えているところでございます。
 また、もう一つの質問の、多くのいわゆる地方の私学の定員割れの状況にある中での影響でございますが、ZEN大学に限らず、時代の要請に応じた教育内容の改変に対応する大学、また学部が設置されることもまさに重要でございまして、新しい大学も既存の大学も、社会やまた学生のニーズに応じた教育の質向上に取り組んでいただくことが重要であるというふうに私どもは考えているところでございます。一方で、急激な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方につきましては、中教審に諮問をいたしまして、設置認可の在り方も含めて、御議論いただいているところでございまして、文科省としても、この議論を踏まえて、大学改革にしっかりと取り組んでまいりたいというふうに思います。

文部科学省HP あべ俊子文部科学大臣記者会見録(令和6年11月8日)テキスト版より抜粋

文科大臣は、「ZEN大学に限らず、時代の要請に応じた教育内容の改変に対応する大学、また学部が設置されることまさに重要」(太字強調は筆者)と、話しているのです。

実は、この文章には省略があり、その部分を再現しますと、「私立大学に関する懸念の声も重要ですが」とのフレーズということになります。

しかし、往々にして、こうしたレトリックが使われるときは、そうした懸念の声よりも、時代の要請に応じた教育内容の改変の方が重要なんだよ、というのが本音であるというのは、どなたも納得するところでしょう。

つまり、どんどん新しい大学や学部を認めて、大学の新陳代謝をするのだ、という文科省の決意が浮かび上がってきます。
新陳代謝で押し出される運命にある大学は、“はい、サヨナラ”、なのでしょう。
 

▶特別部会に丸投げは、アリバイにも

もう一点、見逃せないのは、「高等教育の在り方につきましては…ご議論をいただいているところ」という箇所です。

要は、文科省としては、特別部会に委ねている、もっと言えば、丸投げである、ということです!
もちろん、文科省としては、大学改革にもきちんと取り組んでいることのアリバイとして、この特別部会を使っているわけですが、いずれにせよ、ここから見えてくるのは、窮状に喘ぐ私立大学には残念ながら文科省としては手を差し伸べる心づもりはない、ということになるでしょう。
なぜならば、いまのところ、特別部会にはそうした動きは見えないからです。

▶カンフル剤は、存在しない?

以前、このシリーズでもご指摘しましたが、特別部会の永田部会長は、カンフル剤を打つのであれば文科省がすべきとの趣旨の発言をされていました。
でも、文科省は、そのカンフル剤さえ持ち合わせていない、ということになるでしょうか!

では、冒頭で申し上げた、止血の応急措置は誰がやるのか?
答えは、いまのところ誰もやってくれる気配はない、ということです。
特別部会がいよいよ後半戦に至って、私立大学にとっては、想像もしたくない厳しい現実が徐々に明らかになってきているのです。

▶“合併・統合” ではなく、“連携・協力”

さて、後回しになっていましたが、日本私立大学連盟が行った高等教育の在り方に関する特別部会(第10回)で行った意見表明についても、見ておきましょう。

「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方に関する中間まとめ」に対する意見(令和6年9月27日)

私大連は、まず、冒頭で、「前提となる全体のビジョン(方向性)が明確ではない」と指摘。「方策に実効性を持たせるために国・大学等の実施主体を明確にした方がわかりやすい」としながら、末尾では、私学ならではの重要な指摘をしています。

私立大学は建学の精神に基づき存在しており、また経営体でもあるため、大学間の合併・統合 が極めて難しい。したがって、いかに大学間で有機的に連携協力できる体制を構築できるかが、今後の高等教育のあり方の重要な鍵となる。


一般社団法人日本私立大学連盟 令和6年9月27日「急速な少子化が進行する中での将来社会を
見据えた高等教育の在り方に関する 中間まとめ」に対する意見より抜粋

まさに、私立学校、私立大学が合併・統合をしづらい理由をずばり表明しているのです。「建学の精神」に基づき存在している、点です。

だからこそ、連携・協力できる体制を求めているわけです。
“合併・統合” ではなく、“連携・協力”

私大連は、そのうえで、

私学助成において支援されている「転換支援パッケージ」等の拡充をはじめ、真に連携を必要としている地方の私立大学が知の蓄積とノウハウを活かしさらに発展できるよう、財政支援を含めた連携施策を提示していただきたい。

引用元は上に同じ

と述べ、真に連携を必要としている地方の私立大学に対する支援方策に言及しているのです。

なぜ、合併・統合ではなく、連携・協力なのか。

ここに、私立大学の今後のあり方についての大きなポイントがあり、
今後の連携・統合の議論で欠かせない部分となることがわかってきます。
 

次回はこのあたりにスポットを当てつつ、
特別部会の議論をさらに追ってみたいと思います。


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