見出し画像

「知の総和」の維持・向上が重要命題であるなら、知の担い手を生む大学の消滅は言語道断。事態が加速すれば、国家的危機に陥る恐れも

高大接続ラウンドアップマガジン📚
本シリーズでは、主幹研究員の奥村直生が文部科学省中央教育審議会の大学分科会で現在審議進行中の「高等教育の在り方に関する特別部会」を追いかけます。
この特別部会で挙がる数々のテーマや議論の方向性は、日本の高等教育の未来に多大な影響を及ぼすものであり、大学をとりまく全ての関係者にぜひ注目していただきたいのです。
特別部会の核心に迫っていきたいと思いますので、皆さまどうぞシリーズの最後までお付き合いください。



▶人の数と、人の能力の掛け合わせで決まる

これまで、「規模の適正化」に関する発言や文言に注目してまいりましたが「中間まとめ」には、もう一つ重要なキーワードがあります。
それは、「知の総和」です。

急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)令和6年8月8日中央教育審議会大学分科会高等教育の在り方に関する特別部会PDF

「知の総和」については、「2.今後の高等教育の目指すべき姿」の(1)我が国の「知の総和」の維持・向上」に詳しく説明されています。

…我が国において未来を担う若者が新しい価値を創造し、人類が直面する課題の解決に貢献するとともに、地域社会の持続的な発展を担っていくためにも、「知の総和」を維持・向上することが必須となる。

・・・中略・・・

「知の総和」は、人の数と、それぞれの人の能力の掛け合わせで決まる。高等教育機関は、未来を担う人材の育成や、社会の新たな価値の創出に欠かせない役割を果たしており、教育と研究の機能をこれまで以上に強化することによって社会に貢献しながら、「知の総和」を維持・向上する中心的な役割を果たしていくことが求められる。

急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)P23
令和6年8月8日中央教育審議会大学分科会高等教育の在り方に関する特別部会

「知の総和」は、人の数と、それぞれの人の能力の掛け合わせで決まる、という定義です。

これを言い換えれば、

[知を持った人の数] × [能力(知の質)] = [知の総和]

という方程式となることはおわかりになることでしょう。


▶「適切な規模」の高等教育機会の供給

では、知を持った人を生み出す最大の立役者である大学の「規模」とは?
次のように説明がなされています。

「規模」とは、社会的に適切な規模の高等教育機会の供給である。進学者の観点からは、18 歳で入学する学生に関し、これまで高等教育機関進学率は継続的に上昇しており、今後、知識基盤社会が一層進展する中で、大学進学率は、一定程度上昇していくことが想定されている。

急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)P24令和6年8月8日中央教育審議会大学分科会高等教育の在り方に関する特別部会

つまり、「知の総和」を維持・向上をさせるためには、個々の知の質の向上も欠かせませんが、量を決める大学の「規模」も重要である、と述べています。考えてみれば当然のことです。
そのためには、「社会的に適切な規模の高等教育機会の供給」のフレーズにもありますように、大学の「適切な規模」が必要なのです。

ところで、この「適切」という表現には、いろいろな意味が込められていることでしょう。

多すぎてもダメ、少なすぎてもまずい・・・

しかし、どちらにしても、大学を「適切な規模」の状態にしていくことは、今後の非常に重要な検討課題であるはずです。

※「適正な規模」や「規模の適正化」については、当シリーズで既に取り上げておりますのでご覧ください👇


▶総和・総量を維持・向上させるなら、大学の減少はありえない

後半戦の2回目となった 9 月 27 日の第 10 回高等教育の在り方に関する特別部会では、私大連の副会長で上智大学・曄道てるみち学長は、「知の総和」を「知の総量」と言い換えていましたが、いずれにせよ、日本における知の総和・総量を決して減少させないためには、その最大の輩出元である大学が、18 歳人口の減少によって、消滅するようなことがあってはならないはずです。

つまり、「知の総和」をほんとうに最優先させるのであれば、なおさら大学が募集停止や廃校となることは絶対に避けなければいけないことなのです。
そして、これに付随して、「規模の適正化」も可及的速やかに検討・実施しなければいけない重要課題なのです。

ちなみに、中間まとめの 24 頁には、規模の適正化について、さらに次のような文章も用意されているのです。

「規模」の適正化について、個々の高等教育機関や進学者に委ねるのみでは、教育研究の「質」や「アクセス」確保に支障が生じるおそれがあるため、「質」の高度化や「アクセス」確保に留意しつつ、急速な少子化等を踏まえた高等教育全体の「規模」の適正化を図ることが必要である。

急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)P24令和6年8月8日中央教育審議会大学分科会高等教育の在り方に関する特別部会

質やアクセスも考慮しながら、規模の適正化を図ることが必要、ということです。

したがって、単純に、学生募集が立ち行かなくなった大学の退場はやむなし、という巷でよく聞く考え方は、「知の総和」や「知の総量」を維持・向上を図る上では、全くナンセンスなのです。


▶大学消滅がもたらす悲劇

さて、同じ 9 月 27 日の会議では、東北大学・島一則教授のプレゼン、そして、私立大学関係団体からの意見発表が行われました。

島教授は、「設置主体別の大学の役割に基づく支援方策と題し、国立、公立、私立それぞれの役割から考える支援はどうあるべきかについて講演をされました。 

設置主体別の大学の役割に基づく支援方策」資料PDF

そのなかで、看過できない重要な指摘がありました。
青森県を例に挙げ、偏差値順に並べた場合、2040 年には人口減少によって、約半数の学部が消滅してしまう。残るのは弘前大と青森大くらいになってしまうというシミュレーションを紹介されました。
(資料PDFスライド16参照)

島教授が示すのは、仮に、各地の地方大、特に私立大がこのようにどんどん消滅すれば、各地の若者の多くが大学にアクセスできず、大学進学を諦めてしまうことになり、その結果、非大卒者が増加してしまう、というわけです。

もちろん、すべての人が大学に行くべきである、と申し上げているわけではありません。
しかし、現在の日本の雇用と生涯賃金の状況を踏まえてあえて厳しい言い方をすると、生涯賃金が大幅に低くなる人たちが一気に増える、というのです。

これは、国全体に大変な事態をもたらすでしょう。

企業は労働者を低賃金で雇えるのかもしれませんが、それによって税収は大幅にダウンします。
近くに行ける大学がないのなら、地方を脱出する人たちも増えるでしょう。
地方創生という話は土台から崩れます。

そして、知の担い手は大きく減少し、「知の総和」の維持どころではありません。
国力の低下を招き、やがて、国家の危機、国家的悲劇につながることでしょう。

 

▶ついに6割が定員割れに

ところで、9 月13 日、日本私立学校振興・共済事業団は、毎年恒例の私立大全体の入学定員充足率等を公表しました。

令和6(2024)年度私立大学・短期大学等入学志願動向(PDF)

それによると、2024 年度は、約 6 割の私立大が入学定員割れに陥っています。
一層深刻になっている私立大の募集状況が明らかになっています。
小さな規模の大学、そして地方の大学における悪化は目を覆うばかりです。
 


▶悠長な議論をしている暇は、全くない

特別部会では、2040 年の高等教育の在り方を想定した議論をしており、こうした議論はとても大切なテーマであることは間違いありません。
しかし、既に危機に突入してしまっている私立大学を目にすると、悠長な議論をしている暇は全くないことに気付きます。

下手をすれば、日本の高等教育全体が、誰もが望まない、予想しなかった不幸な状況に陥りかねないことを敢えて申し上げておきましょう。

次回は、同じ会議で披露された私立大学関係団体の見解について、
触れてまいりたいと思います。


🏫「高大接続ラウンドアップ」マガジン👇

これから進学をされる未来の大学生の方々、そして保護者、大学・教育関係者やさまざまな皆様に、現在進行形の高大接続の現状をお届けしながら、その行方を探っていくマガジンです!

\\フォローお待ちしております//✨

#代々木ゼミナール #代ゼミ教育総研 #教育総研note #高等教育 #規模の適正化 #適切な規模 #定員割れ #私立大学 #知の総和