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とろけるチーズをとろけさせずに食べる夜

「今日のアテ、何にしよっかな♪」と冷蔵庫を開けたときに目が合ったのは、生ハムだった。お肉屋さんに勤めている嫁さんが、賞味期限切れをもらってきたやつ。

そういえば、ずっと置いてあった生ハム。真空パックだし、いつ食べてもいいや、とのんびり構えていたのだが、こうもハッキリと目が合ってしまったら、こちらとてバツが悪くなる。そろそろ食べよう、いや、いい加減食べないと生ハムに悪い気がする。「とりあえず、一枚食うか」と決心して、いざ開封。

開けて、食って、びっくり。
思ったより、うめえ。
ナイス塩味。
これ、結構いいやつ。

やってんなー。
おい。
やってんなー、生ハム。
ちゃんとしたハモンセラーノじゃん。

テキトーな日の、テキトーなタイミングによる、テキトーな晩酌には少々もったい気もする。生ハムに申し訳がないが、現在クラッカーもチーズもない。生ハムすんませんソーリー。

・・・

ん?ちょっと待てよ。チーズはあったような気がする。今一度、冷蔵庫を確認する。あった。あった。「とろけるチーズ」があるじゃんねー。

よっしゃとばかりに、生ハムを乗せたお皿の上にとろけるチーズをとろけさせていない状態でそのままドバドバっと添える。

***

ふと、20代の頃に働いていたワインショップ、仕事終わり閉店後のバックヤードでの光景を思い出す。その日、廃棄になってしまったとろけるチーズをアテに、店長や仲間と赤ワインを飲んだことがあった。

とろけるチーズをとろけさせずにそのままポリポリと食べたのは、このときが初めてだった。「とろけるチーズは、とろけやすいチーズであって、そのまま食うてもうまいねん」と当たり前のことを店長は、言った。「それに世の中のチーズは、何もとろけるチーズだけが、とろけるだわけではないしね〜」と付け足した。考えようによっては、哲学ちっくに感じる言葉だ。

蛍光灯の白い灯りの下、在庫に囲まれたバックヤードでホームセンターで買ったであろう安テーブルの上にそれなりの赤ワインととろけるチーズを置く。店長がコルクをポコンと抜き、試飲用のグラスにハイハイハイハイと注ぐ。一人一人がワインの木箱に腰掛け、お疲れ様です〜、と乾杯する。

***

ビールが切れた。ジンソーダを作ろうと思ったが、なんだか赤が飲みたくなってきた。生ハムの残りは、明日の晩酌用に残しておこう。

明日の帰りは、前の職場に寄ろう。もう知ってる人は誰もいない。けど、なんとなくあの店で赤ワインを買いたい気分だ。全然高いやつじゃなくていい。2000円以下でセンスと直感で選んで帰ろう。

クラッカーは、いらねえか。冷蔵庫にある残りの生ハムととろけるチーズで今日のように乱雑に食べよう。お手頃な赤を飲みながら。


・こぼれ話

結局買ったのは、1,000円の赤ワインでした。コスパ抜群でした。ほぼジャケ買いなり。

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