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窓のあるコンポジション【戯曲】

こちらはパウル・クレーの絵からイメージを膨らませて書いてみて欲しいと言われて、
学生時代に書いた作品です。

はじめて「抽象的な話」を書いた作品。
書くにあたって、パウル・クレーの画集を買ったのですが
その中で特に惹かれた「窓のあるコンポジション」という作品を見て浮かんできた話。



(段落・改行等読み辛くてすみません)
※ト書きは太字にしてあります


登場人物

少女A
少女B

世界


※()はその中の人物が言葉を紡ぐが、その役としてそこにいるわけではない。

僕                幕をおろせ。喜劇は終わった。
僕・少女A少女B・私・世界    これは僕の物語です。
僕・少女A            でも、僕は、僕じゃ主役にはなれない。
少女B・私            僕はいつだって、誰かの物語の、“登場人物”でしかないのだから。
僕・世界             きれいに組み立てられた物語の中で演技をすることで精いっぱい。
僕                上手に生きろ、なんて、そんなの無理。

僕     「役者に意思は必要か?」
      何故お前は台詞を言う?それは誰の言葉だ?お前の言葉か? 
      お前の内からでてきた叫びか?
      役者の身体をかりて我々は叫ぶ。
      役者の声をかりて我々は吼える。
      まるで悪魔に取りつかれた子羊のようだ。情けない。
      お前は何のために叫ぶ?
僕     わかんないよ。そんなこと。
      1つ1つ積み重ねた、想いとか、記憶とか、感情とか、
      そういうありきたりなものがあるでしょう?
      自分の中で生まれた、そういう安っぽい欠片をさ、
      1つずつ自分の中から取り出しては並べて、積み重ねる。
      そう、ミルフィーユみたいに!あぁ、ミルフィーユ。
      すみません、ミルフィーユ1つ。
      ここのミルフィーユ、凄く美味しいんだ。
     (激しくナイフとフォークを突き刺す)これが正しい。
     こうやってね、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて、
      跡も形もなくなるまで、こうして壊して食べるのが
       正しい食べ方なんだよ。
      きれいに、大事に、積み重ねても、
      結局最後はこうなる運命なんだ。
      …でも、美味しいでしょう?はい、あーん。

(私)   「まっず!」
少女A   「えー嘘だ―」
(私)   「いや、まずい。口の中おかしくなりそう」
少女A   「えー。今回のはいつもより自信あったんだけどなぁ。」
(私)   「いや、まずい。すごいまずい」
少女A   「そんなに言わなくてもいいのに」
(私)   「だってまずいんだもん。一体何を入れたらこんな酷い味になるのよ」
少女A   「何って…色々。」
(私)   「はぁ?」
少女A   「色々は、色々。」
(私)   「…。」
少女A   「ふぅん。私の想いは不味かったってことかぁ」
少女A   「どこで間違えちゃったのかなぁ。」
       私が間違えたのか。彼が間違えたのか。
       一緒に歩いていた道はいつの間にか2つに別れていた。
       お互い「せーの」で一歩を踏み出し、そのまま歩き続けた。
       振り返りはしなかった。
       だから彼が最後にどんな顔をしていたのか
       私には分からない。
       でも、それが笑顔だったのなら、いいなって、
       そう思ったんです。
       私が泣いた分、彼が笑ってくれればいいなって。
       今もどこかで歩き続けている彼が、この空の下にいる彼が、
       笑顔でいてくれるなら。
       何度失敗したってやり直せるって、そう思ったんです。
       やり直せるよ。もう一回、作り直そう。
       一から積み重ねはじめよう。
       いつか誰かに、笑顔になってもらうために。
       はい、チーズ。(手でシャッターを切る)ねぇ、笑って?

少女B   「…」
■■■   「■■■■」
少女B   「…はい」
■■■   「■■■■」
少女B   「はぁ」
■■■   「■■■■」
少女B   「いや、でも…」
■■■   「■■■■!!!」
少女B   「…すみません…」
■■■   「■■■■」
少女B   「…はい、仰る通りで…」
■■■   「■■■■」
少女B   「いや、そんなつもりじゃ…」
■■■   「■■■■」
少女B   「…はぁ、」
■■■   「■■■■」
少女B   「…申し訳ありませんでした」
■■■   「■■■■!!!」
少女B   「…」(笑顔)
■■■   「■■■■」
少女B   「…またのお越しを…」
■■■   「■■■■」
少女B   「…心よりお待ちしております」
■■■   「■■■■」
少女B   「…」「…」「…」「二度と来んな。」
少女B   私には何もない。知識も、才能も、財産も、愛想も。
      何もない。空っぽだ。空洞だ。
      もう、こんなところいたくない。いたくない。
      消えて、なくなりたい。
      空っぽならいいじゃない。
      そこにたくさん詰め込めるんだから。詰め込みましょう。
      全部全部、詰め込みましょう。詰め込みましょう。
      知識も才能も財産も愛想も。詰め込みましょう。詰め込みましょう。
      想いも記憶も感情も。詰め込みましょう。詰め込みましょう。
      ぐちゃぐちゃに、詰め込みましょう。
      「痛いです」詰め込みましょう。
      「もう、お腹いっぱいです」詰め込みましょう。
      「もう、入りません」詰め込みましょう。
      「痛いです」詰め込みましょう。
      「嫌です」詰め込みましょう。
      「痛いです」詰め込みましょう。
      「痛いよ」詰め込みましょう。
      「いたい」詰め込みましょう。
      「いたい、いたい、いたい」詰め込みましょう。
      「いたいんです、ここに」詰め込みましょう。
      「ここに、居たい。」
      「まだ、痛いんです。」
      「まだ、居たいんです。」
      「一緒に、いたいんです」

私     「ねぇ、これもう捨てちゃってもいい?」
(僕)   「うっわ!懐かしいこれー!こんなところにあったんだな」
私     「ねぇってば、これもう捨てちゃうけどいいよね?」
(僕)   「はぁ~絶対なくしたと思ってたのに」
私     「…捨てまーす。」
(僕)   「ちょ、勝手に処分するなって。大事なモンなんだぞ」
私     「よく言うわよ。こんなになるまでほったらかしにしてて、
       ただのガラクタの山じゃないの。
       汚いからはやく捨てちゃってよね」
(僕)   「ガラクタじゃない。ロマンだ、ロマン」
私     「…めんどくさい」
(僕)   「それも捨てちゃダメだ。あ、そっちのやつはいいぞ。
       でも向こうのはダメだ。大事な思い出だからな」
私     「…もう全部全部、めんどくさい。…もう全部いらない。
       いらない。」
      「めんどくさい…めんどくさい…」
私     考えることってめんどくさい。
      考えることを放棄するのはラク。
      世界から切り取るのでーす。世界から自分を切り取るのか。
      自分から世界を切り取るのか。
      世界から自分を切り取ったって、世界は何も変わらない。
      でも自分から世界を切り取ったら少しはラクになるんじゃないのかなぁ。
      自分から世界を切り取ったら、きっと全てうまくいく。
      だって世界に雨が降ったとしても、私の心は晴れてるし、
      世界に冬が訪れても、私には春が訪れる。
      世界に強盗が溢れても、私は何も奪われない。
      世界が死んでも!…世界が死んでも、私は生きている。
      世界が泣いても、私は笑ってられる。
      世界が叫んでも、私は笑ってられる。
      世界が呼んでも、私は応えなくて済む。
      最初から世界には私なんていなかった。
      私の声は誰にも届かない。世界の声は私には届かない。
     「ばいばい。」

(少女A) 「…今、何か聞こえた?」
世界    「…何も。」
(少女A) 「えー」
世界    「しっ!!今何か…」
(少女B) 「…ごめんお腹なった」
世界    「…」
(少女A) 「…」
(少女B) 「…てへ。」
(少女A) 「…もう嫌。帰る」
(少女B) 「ちょっと待ってよ!ごめんって!もう少し!!もう少しだけ、」
(少女A) 「…。」
(少女B) 「ね?」
世界    「…何か、ザーザー言ってる…雨が降ってるのかな…」
(少女A) 「…ただの電波障害でしょ…いつまでやったって無駄だと思うな」
(少女B) 「…今日はもう帰る?」
世界    「…やだ。」
(少女B) 「…また明日にしようよ」
世界    「…やだ。」
(少女A) 「…待ってたって、返事なんか来ないよ」
世界    「…来なくても、待つ。」
      「いつまでだって、待ってる。」
      「ハロー、ハロー、応答してください。
       惑星ナンバー003、こちらは地球。
       誰か聞こえますか?ハロー、ハロー、」
世界    プリーズ、レスポンス。プリーズ、レスポンス。
      応答してください。
      プリーズ、レスポンス。プリーズ、レスポンス。
      聞こえますか?
      ハロー、ハロー。ハロー、ハワユ。聞こえますか?
      今日も応答なし。
      返事がないのは機械が壊れているからなのか、
      僕が壊れているからなのか。
      僕の声が小さいからなのか。
      プリーズ、レスポンス!プリーズ、レスポンス!
      いくら大声で叫んでも、声が枯れるまで呼び続けても、
      返事は来ない。
      プリーズ、レスポンス。本日の天気は晴れ、時々曇り、
      ところにより雨。庭のひまわりが芽を出しました。
      プリーズ、レスポンス。隣の家の人が引っ越していきました。
      学校の帰りにアイスを買って食べました。
      プリーズ、レスポンス。
      ハロー、ハロー、ハワユ。そちらはどうですか?
      そちらの空はどんな色ですか?晴れていますか?
      雨が降っていますか?
      ひまわりは咲いていますか?
      ハロー、ハワユ。覚えていますか?
      あの日、一緒にいたことを。空っぽの僕と一緒にいたことを。
      キミがここにいたことを、僕は覚えています。
      ちゃんと覚えています。
      もっともっと積み重ねなきゃ。何度でも何度でも。
      もっと高く、もっと高く、
      もっともっと高くまで重ねていこう。
      いつかキミの元まで届くように。
      もう、かくれんぼは終わりにしよう。
      はやくキミを見つけ出すよ。
      「もういいかい?」

少女B   「お待たせいたしました。ミルフィーユです、」
僕     「味付けはお好みで。」
少女A   「幕が下りていく、」
私     「キミと一緒に。」
世界    「手を合わせて」


僕・少女A少女B・私・世界      「いただきます。」





                              ―幕―




引用
「幕を下ろせ 喜劇は終わった」   ラブレー

参考
  「窓のあるコンポジション」   1919年 パウル・クレー







素敵なサムネイル画像、お借りしました。
https://www.pixiv.net/artworks/61297542

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