関西人なら「浮草」から。小津安二郎作品、入門編。
関西弁バリバリの中村鴈治郎(二代目)が主役ですから。ときどき珍妙な関西弁をしゃべる関東出身の役者がいますが、そんな心配は不要です。
舞台は三重県。小津安二郎が子ども時代を過ごし、お気くなってからは教師として勤務した、小津の第二の故郷であります。
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『彼岸花』(1958年)の制作で大映の女優山本富士子を借りた見返りに、大映で、この作品を撮影することになったそうです。
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嵐駒十郎(中村鴈治郎)率いる旅芝居の一座の乗った船が港に着く。実は駒十郎はこの街で一膳飯屋を営むお芳(杉村春子)との間に子をもうけている。12年ぶりにお芳を訪ねると息子の清(川口浩)はすっかり大きくなり、2年前に高校を卒業して郵便局でアルバイトをしながら上の学校を目指して勉強している。清は母から父は死んだと聞かされて育ち、駒十郎を母の兄だと信じ込んでいるので、実の父を「おじさん」と呼んで再会を喜ぶ。清は、夜は芝居を見、昼は二人で釣りをしながら語りあうなどして駒十郎と親しく交わる。
駒十郎の連れ合いで一座の看板女優でもあるすみ子(京マチ子)はそんな駒十郎を不審に思い、古くから一座にいる扇枡を問い詰めてお芳と清のことを聞き出す。すみ子はお芳の店に乗り込み、駒十郎と激しく言い争う。
一計を案じたすみ子は若い女優の加代(若尾文子)に金を渡して、清を誘惑してくれるよう頼む。清は加代の誘いにまんまと乗り、やがてふたりは恋仲になる。加代はふたりの立場の違いを考えて別れようとするが、清は首を縦に振らない。ふたりが一緒にいるところを見かけた駒十郎は腹を立てて加代をなじり、すみ子に清を誘惑するよう頼まれたことを白状させると、すみ子をなぐった上、どこにでも出ていけと告げる。すみ子は、これで五分五分なのだから仲直りしようと言うが駒十郎は耳を貸さない。
芝居の客足は伸びず、さらに先乗りとして新宮にでかけた木村(星ひかる)が一座の金を持ち逃げしたことがわかると、どうにもならなくなった駒十郎は一座を解散することに決める。一座の者と別れの酒を酌み交わした後、お芳と清にも別れを告げに行くが、清は加代と出かけてしまっていた。清には自分と違う立派な人間になってほしいと期待していた駒十郎は深く落胆する・・・。そして。
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すべての小津作品の中で、一番、映像が美しいといえるでしょう。これは、大映の名キャメラマン・宮川一郎の手腕におるところ。宮川一郎が小津好みのドイツ製「アグファ」のフィルムを熟知していたのも功を奏した。
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クライマックスは、大雨と赤い傘を挟んでの京マチ子と中村雁治郎の大ゲンカ。これが、やばい。
「アホ!ドアホ!」
「なにぃ!なに言うてけつかる!」
東京や東北の人が観たら、「関西人って、あんなに乱暴な言葉でケンカするの?怖いよ」と思われるかもしれませんが、まあ、あんなもんです。私も毎日のように家族に「ボケ!カス!ダボ!」「死んでまえ!」と怒鳴りつけます。関西ではあたりまえのことです。知らんけど。
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小津安二郎の映画を観よう!と思って、いきなり「東京物語」から入ると大失敗します。あれは初めての人には少々退屈です。
この作品か、松竹の屁こきウンチ映画「お早よう」がおススメです。
基本的に、小津安二郎は、非常に優秀な「コメディ作家」の資質を持った監督なんです。
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それでは、素晴らしいエンディングのシークエンスを、どうぞ。