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身体療法の選びかた


陰陽五行

刺す鍼と刺さない鍼

鍼灸といってもいろいろ

『女性臨床鍼灸ならまち月燈』は鍼灸指圧院です。
開業して7年目になります。
私自身は新しくいらっしゃる患者さんには、ほぼ指圧しかしないのですが、私の他に3人の鍼灸師がいて、それぞれの技法、哲学に基づいて患者さんへの施術をしてくれています。

一般的に、鍼と言えばこういうイメージなのではないでしょうか?


背部の刺鍼

背部に鍼を刺しています。

同じように鍼を刺しているように見えても、鍼灸師によって何にアプローチしているかは違います。

西洋医学的な診方をする鍼灸師は、脊柱起立筋の緊張を緩めようとしているのかもしれません。

中医学的な診立てをする鍼灸師は、太陽膀胱経の熱を瀉そうとしているのかもしれません。

経絡治療学的には・・あまりこういう鍼の刺鍼のしかたをしないかもしれませんが、足りない氣を補おうとしているのかもしれません。

今、三つの考え方による鍼の解釈をお伝えしましたが、実際には同じ学会に属する鍼灸師でも、鍼の向き、深さ、浅さ、鍼の数は千差万別で、鍼灸師の数だけスタイルは違います。

100本200本と鍼を刺す学派もあれば、1本しか刺さない学派もあります。

どちらが正しいかではありません。

どちらも正しいのです。

たくさん鍼を刺さなければ効かないと思っている方には、たくさん刺さないと効かないでしょうし、考え抜いた一鍼こそ効くと思っている方には一穴で勝負が決まるような治療法が合うのだと思います。

私個人は、基本的には鍼を刺されるのが怖いので、たぶん余分な緊張をしてしまうのでしょう。自分がしんどいとか辛い症状のときには鍼治療を選びません。

それでも学生のときには、これはという噂の鍼灸の先生の治療を受けて、症状が消失した経験が何度もあります。

楽になることがわかっているのに、どうして選ばないのでしょう?

ということを、最近よく考えることがあります。

私は指圧が好きです。
鍼刺激が苦手なのは、ピアスの穴を開けるのも怖い・・というようなことも関係するかもしれません。

ピアスの穴が耳に何個も開いていたり、舌とか、口唇の下に穴がある方をみると、身体の感受性が違うんだろうなぁという気がします。

刺青やタトゥー、美容整形といった、痛みを伴う行為は、どんなにそこに素晴らしいメリットがあっても、わたしは痛い・・というその一点で、怖くてうけられないと思います。

なので開院当初、私は鍼灸師として鍼を刺すときに、痛くないことに全力を注ぎました。

痛くないように、浅く、本数も少なく、なるべく細い鍼で刺しました。

そして、痛くないですか?と、置鍼といって、鍼を刺した状態で置いておくときは、必ず患者さんにお伺いしていました。

刺しているか刺していないかわからなかったです・・という言葉を誉め言葉と思っていました。

だんだん経験を積むに従って、大きくわけて鍼には氣の滞りを瀉することと、足りない氣を補うという働きがあるのですが、わたしの技量では氣を補えないと思い、滞っている患部に瀉の鍼をし、補いたいところはお灸か指圧…というスタイルになっていきました。

そして、施術時間中の指圧の占める割合がどんどん多くなっていき、今ではほとんど指圧のみです。

そしてこれは、患者さんにも指摘され、私自身もそうだと思うのですが、

「先生は鍼を刺すときは、大丈夫ですか?痛くないですか?と何度も聞いてくれるのに、指圧は痛い…って言っても笑ってやめてくれませんよね?そうですよね~痛いですよね~って嬉しそうなんですけど」

そうなんです。

私の指圧は、痛気持ちいいを目指していて、痛いと気持ちいいのキワキワをいつも患者さんと模索しているような感じなんです。

「ここでしょ?」
「ああ、そこそこ~♪、そこも~♪、わぁ~、そこも~♪」

「イタタタタ…」
「痛いでしょ?すんごいボスが奥にいますからね~♪、これでどうだ?」
「わぁ~、すごいすごい、響いてる、響いてる…」

みたいな感じです。

卒業してもうすぐ10年になろうとするのに、いまだにおっかなびっくりの鍼とは大きな違いです。

でも、不思議なことに、私自身は大きく指圧だけに舵をきったつもりなのですが、指圧は指圧で受けても、鍼は鍼で刺してほしいという患者さんが今でも一定数続いていることです。

鍼は鍼で効いている実感が患者さんにあるそうなので、私はそれを面白く思って、肩肘張らずに刺鍼しているのがいいのかもしれません。

でも、私自身の指圧はエネルギーワークだと思っていて、勝手に氣が双方向に補われたり、邪気が払われたりすることで、患者さんが元気になられていく感触があるので、治り心地としては、ゆっくりしっかり・・なんだろうなと思います。

私自身がそういう施術を求めているし、そういう施術を求めている方と相性がいい。

コーチングを学び始めて、最初にアイスブレイクの時間をとると学んだ時に、わたしの望診、聞診、脈診、腹診の時間はアイスブレイクだったんだなぁと思いました。

ゆっくりと、お会いしていなかった時間の氷を溶かすような、ゆっくりとしたペースで始めてから、本題の施術に入る。

なので、よくあるリラクゼーションの15分から選べるメニューを見ると、私には絶対無理!!!と思います。

肩なら肩だけ15分というアプローチは、やはり、柔道整復師さんや理学療法士さんといった西洋医学系、解剖学系の学問に立脚した施術師さんでないとできないと思っていました。

最低でも50分、理想的には90分あれば、アイスブレイクにしっかり時間をかけて、終結へのストーリーが描けるのが、わたしの指圧コースです。

そして、『ならまち月燈』の他の2人の鍼灸師の先生も、内容は違えども、時間の長さへの必要性は同じなのではないかと思います。

でも、『ならまち月燈』には、もう一人刺さない鍼専門の先生がいらしていて、そこではまた全く違った世界が展開されるのです。

アイスブレイクも一切必要なく、さっと風のように始まって、風のように終わる、10分あれば充分という鍼治療。


刺さない鍼


刺さない鍼=てい鍼

一般的に、鍼は刺すものと思われています。

わたしが専門学校に入学した時点では、まだ銀鍼という銀でできた鍼を消毒したり、研いだり・・というようなことを学びましたが、今はステンレスの鍼を一回づつ使い捨てにするということが主流であると思います。

でも、鍼を刺すということじたいが、大きな侵害刺激になると考える学派があります。

鍼灸師なのに、鍼を刺したらダメ・・というのは、大きな論理矛盾のように感じるかもしれませんが、それは思いこみのこわさで、鍼を刺さなくても鍼は使えます。

具体的には、鍼を刺さずに皮膚表面を転がす、撫でる、摩る・・といった方法で、体表を流れている氣を操作します。

氣は目にみえないものなのですが、間違いなくその人のその時の状態によって、増えたり減ったり、滞ったり流れたりします。

難しい話にしなくても、単純にやる気があるときとないときでは、勉強も仕事もはかどり方がまるで違うことは当たり前におわかりだと思います。

関西人だったら、「551のある日」と「551のない日」の対比できっとわかるでしょう。

551のアイスキャンディーがある…という氣が、家族全体の氣の上昇に貢献します。

551のアイスキャンディーがない…という氣が、家族全員の氣をどんよりさせます。

そういう日常的な氣の昇降と同時に、季節の邪気というものがあります。

これからの梅雨なら湿邪です。湿気という邪気は身体を蝕みます。

そういう季節の邪気を払うのが、刺さない鍼はとても得意です。

小児鍼も刺さない鍼です。

疳の虫…という症状があります。

昔、樋屋奇應丸というお薬のCMで、「赤ちゃん夜泣きで困ったな、疳虫、乳吐き困ったな…」というのがありましたが、幼少時の精神症状みたいなもの、他にも夜驚、夜尿症などには、小児鍼がよく効きます。

今でいうタッチセラピーやベビーマッサージのようなものと類似点があり、東洋医学的な専門的な知見が加わった、とても効果のある方法です。


鍼をあてるだけで身体は変わる

現代におけるささない鍼の役割

農耕民族として、稲作や、肉体労働としての家事に従事するひとが大部分であった日本人は、腰痛や足の疲れに悩み、単純な血の流れの悪さ、水の滞りなどに、お灸をセルフケアとして利用してきたと思います。

現代の灸師の灸はもっとセンシティブだと思いますが、昔は民間療法として、お互いにびわの葉にもぐさを載せて燃やしたり、お寺や宿場町のお灸処で、温熱療法としてのおおらかなお灸が楽しまれていたと思います。

そして、鍼師は、鍼医者として、むかしは漢方と鍼治療とで病人を治していた時代が長かったわけですから、氣の病や、血の病を治療していたのでしょう。

そして、宮中や貴人のような、氣を病むような環境にいるひとは鍼師や陰陽師が治療をしていました。

現代人は、そのほとんどが、昔の貴人のような生活をしています。

肉体労働者が就労人口に占める割合は、激減していますし、頭脳労働者、そして、感情労働者というような労働が圧倒的に増えているのです。

わたしたちが臨床の場でお伺いするお悩みは、たいてい人間関係や、感情労働の部分です。

たとえば、学校の先生なら、こどもたちに勉強を教える・・という部分ではなく、保護者とのやりとりや、合わない同僚、理解のない上層部・・といったところにモヤモヤがあり、それが大きく体調に影響しています。

そういう方には、邪気を払うささない鍼がとても穏やかに効くだろうなぁと思います。

そして、一般的に刺さない鍼は時間がかかりません。

かけてはいけないのです。

一瞬で氣は変わるので、その瞬間を見逃さないようにする、やり過ぎないように注意する。

それが、刺さない鍼の極意であり、そこに一番のいのちを賭ける治療であるのです。

わたしには、一生かかってもできない治療です。

最近、臨床で出会う患者さんには、よく「わたし、HSP(敏感体質)なんです…」と仰る方がいらっしゃいます。

そういう方への第一選択は刺さない鍼だろうと思います。

でもこればっかりは、なかなか言葉で説明するのは難しく、まず来てみて施術を受けて感じてみてくださいとしか言えません。

「ならまち月燈」の刺さない鍼の先生は土曜日担当です。

なにか気分が鬱々として優れない、人の心ない悪意を正面から受けとめて苦しんでしまう、氣になることがあって前に進めない・・というようなことでお悩みの方は、是非お試しになってみて下さい。





最後まで読んでくださって有難うございます。読んでくださる方がいらっしゃる方がいることが大変励みになります。また時々読みに来ていただけて、なにかのお役に立てることを見つけて頂けたら、これ以上の喜びはありません。