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【グミ編】グミチョコ読んでた青春を今すぐ肯定してくれ

『グミ・チョコレート・パイン』という本はご存知だろうか。
この本は大槻ケンヂによる
青春!自意識爆発小説である。

これは長編3部作である。
グミ・チョコレート・パインに分かれているため、順に追っていこうと思う。



まずは、グミ編について。

【あらすじ】
大橋賢三は高校二年生。学校にも家庭にも打ち解けられず、猛烈な自慰行為とマニアックな映画やロックの世界にひたる、さえない毎日を送っている。ある日賢三は、親友のカワボン、タクオ、山之上らと「オレたちは何かができるはずだ」と、周囲のものたちを見返すためにロックバンドの結成を決意するが…。あふれる性欲と、とめどないコンプレックスと、そして純愛のあいだで揺れる“愛と青春の旅立ち”。大槻ケンヂが熱く挑む自伝的大河小説、第一弾。


***

性欲すなわち、リビドーに常に突き動かされながら、オナニストとしての日々を謳歌する賢三の生活から始まる。
そして、映画や本に溺れ、自分は通俗な奴らとは一線を画すと思っている。

賢三は黒所高校に通っている。
黒所高校の奴らは、賢三から言わせれば、
「くだらん話題でしか盛り上がれない享楽的俗人間ども」
「何の話をしてもレベルが低い」
「自分たちの汎用さにも気づかぬ俗人間ども」
なのである。



わかる!わかるぞ!!賢三!!

通俗な奴らとまでは思ってなかったけど、もっと本を読んだらいいのに。とか、なんでこの人たちはなんの生産性もない会話で盛り上がってるんだろう。とは思ってた。
あと、クラスの何人かで撮ったプリクラをTwitterにあげてる奴らがいて、そこに「〇組大好き!仲良し!」 って書いてあって、「私はてめぇらのこと好きじゃねぇし、お前らと仲良しでもねぇ!!!って心の中で思って中指立ててたくらい。


***

あるとき、ふと賢三には暗い影が落ちる。
やばい、また来たかと感じる。
暗い影とは、「漠然とした不安感や自己嫌悪」である。
特に、何か少しでも良いことや嬉しいことがあるとき、よく来る。
この「黒いマント」という名の「不安感と自己嫌悪」に包まれると、奴はこんなことを言ってくる。

『お前今ニコニコ笑ってるけど、学校や家に自分のいる場所ないんだろう?毎日つまんないんだろ?』
『お前今うかれてるけど、自分のやりたいことやってないだろ。それさえ見つけられないんだろ?』
『お前今ワクワクしてるけど、女の子と話もできないんだろ?』
〔中略〕
プライドばかり高いくせに本当はなにもできない、賢三が薄々は自覚している自分の本当の姿が、不安感と自己嫌悪を呼び込んでいるのだ。
〔中略〕
「いつかやりたいことをやってやるよ」
『でもいつかっていつなんだよ』

(大槻,1999,p.94)


あーあ。
言われちゃったよ。
将来への漠然とした不安、何もできない自分への自己嫌悪。
どうしようもない、どうもできない。
消えたほうがいい。
何者にもなれない。
たまに、みんななるでしょ?
私だけじゃないでしょ?
ねぇ、そうなんでしょ?
そうなんだろ?
言えよ。


教えてくれよ。
いつ死ぬかぐらい。


***

そんなことを思いながらも、また映画を観に名画座へ行く。
すると、そこには同じクラスの美甘子がいるではないか。
美甘子をイケてる女子のうちの一人だと思っていたが、今、この暗い名画座にいる。
そして、話しかけると、美甘子の口からB級映画監督と名前が発せられ、まさか話がわかる人間だとは思わず、驚きを隠せなかった。
賢三は美甘子に惚れる。
そして、美甘子ではオナるまいと決める。

数日後また美甘子と会う。
美甘子と話すと彼女はなんとこんなことを思っていた。

「アハハ、黒所なんかにこんなマニアックな生徒さんがいるなんて、美甘子はちっとも知りませんでしたよ、アハハ」
「黒所なんか……?」
「そう、黒所の人たちってさ、私イヤよ。くだらない人ばっかりなんだもん」
「え、でも山口さん、いつも明るく笑ってんじゃないか」
〔中略〕
「あれはさ、一応合わせといたほうがいいからなの。私本当は毎日つまらなくてつまらなくて、本当は映画の話とか本の話とかロックの話とかできる人はいないもんかと思ってたのよ」

(大槻,1999,p.159-160)


いつも明るく笑っていた美甘子が賢三と同じことを考えていたのである!!


ありがとう!美甘子!
そんな自分も映画や本の話がしたい人間である。
しかも、サブカルの。

メインカルチャーの映画はいずれテレビで入るんだから、別にいま観に行かなくてもいいと思ってしまう。
本だって、遅かれ早かれ、映画化、ドラマ化するでしょう。
だったら、やらなそうなサブ観に行ったほうがいい。

本だってBOOKOFFに朝から晩までいて、自分の好きな本を見つけに行く。
好きな作家さんだって他人と合わない。
でも、それだと自分の感じたことが合ってるのか不安になる。
だから、たまに他人に本を渡して感想をもらって、自分の価値観と違うところを見つけたり、自分が分からなかったことを知ったり、同じところに目がいけば自分は間違ってないって思えたり。
その人の要望を聞けば、合いそうな本を見繕うことくらいはできると思う。
要望を聞けば、だが。

だから、賢三が美甘子と出会えたのは羨ましい。
賢三良かった。


私もバチバチに話が合う人間に会ってみたい。
まあ、これはあくまで小説だから、そんなこと起こらないわけですが。
このまま死ぬんだろうな感は否めないけど。


***

文芸坐であるじいさんに出会う。
そのじいさんに孫を助けてくれと頼まれる。
じいさんの話を聞いていると、賢三はあることを思う。
じいさんの孫は同志であると。

自分を取り巻く全てのものに強い嫌悪感を抱き、何かやらねばと思いながらその何かが見つからず、モンモンと、時々やってくる自己嫌悪マントの影に怯える「同志」

(大槻,1999,p.172)

であると。

そして、じいさんはこんなことも言ってくる。

〔前略〕
人はみんな赤ん坊のころ、半径5メートルの世界で生きておる。自分を中心に世界が動いておると信じ込んでおる。つまり天動説じゃ。ところがこの世の真理は天動説ではない。本当は人間なんぞというのは社会、そして現実という太陽の周りをクルクルクルクルまわるちっぽけな衛星のひとつにすぎんのじゃ。この世の真理は天動説ではなく地動説なのじゃ。自分の小ささを認め、口惜しかろうが無念であるうが、わがままの通用せぬ地動説という真理を認めることが大人になるということじゃ。
全ての少年少女はいつか大人にならなければならん。

(大槻,1999,p.180-181)


やだよーだっ。
ずっと半径5mから未だに出られている気がしない。
なんならもっと狭いとこ。
フラワーカンパニーズも言ってたよね。
半径30cmにも半径15cmにも満たない。
やってられない。
地動説は理解してるけど、理解してるってこととできるってことは違うよね。

大人が嫌いだ。
あいつらは何も分かってくれないってことだけはわかってる。
早く生まれたから偉いのか?
歳食ったくらいで何の中身のないお前が何を言おうが意味がない。
威張り腐って何を言う?
存在してるだけ。息してるだけ。
意味がない。


特大ブーメラン。
戻ってくんな!
あっち行け!!!


***
美甘子とふたりで遊びに行く仲になる。
受験の話になり、お互い現実はわかっているものの、口論となる。

「ねえ、大橋君、人生ってなんだと思う?」
「いきなりでかいくくりだなあ。人生?」
「人生よ。あたしね、人生ってグミ・チョコレート・パインだと思うの」
「グミ・チョコレート・パインだって?」
「そう、ホラ、ジャンケンして、グーだったらグミ、チョキだったらチョコレート、パーだったら、パインって、それぞれの言葉の数だけ前に進めるゲームのことよ。人生って……生きることって、あのグミ・チョコ遊びだと思うの。自分の出した手が相手を負かすことがあって、でもその手は必ず一番強いわけじゃなくて、負かした相手より弱い手で負けちゃったり。そうして勝ったり負けたりしてるうちに、いつの間にかくっきりと勝者と敗者とが分かれてしまうのよ。生きてくって、そういうことなんだと思う」

(大槻,1999,p.223-224)


ここで題にもある『グミ・チョコレート・パイン』が明確に表れる。
一番最初に出てくるのは美甘子が妹とグミチョコをやっているのを賢三が目撃する場面ではあるが。
美甘子は生きてくことをグミチョコに例える。
いずれ勝敗がハッキリ分かれてしまうのが人生だと。
おそらく美甘子は学校でつまらない奴らのつまらない話に合わせる能力を持ちつつも、自分はもっと素晴らしい世界を知っているんだという気概を持ち合わせ、賢三以上にモンモンとした日々を過ごした上での見解なのではないかと考えられる。


美甘子は強いなと思った。
つまんない奴らにも話を合わせてやろうと思えること自体凄い。
勝ち負けがあるとわかっていても、別にネガティブじゃない。
通俗な奴らとは違うという考えは賢三と似てはいるものの、何か全然違うものも感じる。
賢三が憧れるのも無理はない。


***

なんだかんだで、何かを成し遂げたいボンクラ野郎のカワボン、タクオ、山之上、賢三はバンドを始める。
一体彼らはどうなっていくのか。

***


ここまでは独断と偏見で胸打たれた言葉を紹介させてもらった。
もし、あなたがこの本を読んだときに、また違った場面を面白いと思うかもしれない。
だからこそ、今のあなたの感性でこの本を読んでもらいたいと思う。


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チョコ編へ続く。


【引用文献】
大槻ケンヂ(1999)「グミ・チョコレート・パイン グミ編」(角川文庫)角川書店

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