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行列計算を使わない線形代数 #3 〜 ベクトル空間の基底とその変換

今回は基底の変換を紹介します。ここでようやく行列が登場します。行列計算を使わないと謳っているんですが、最低限は必要なのでこの章で書くことにします。

$${V}$$を$${n}$$次元ベクトル空間、$${\{e_1,\cdots,e_n\}}$$をその基底であるとする。

いま$${v\in V}$$を基底$${\{e_1, \cdots, e_n\}}$$の線形結合$${v=\alpha_1 e_1 + \cdots + \alpha_n e_n}$$と書いたとき、$${\alpha_1, \cdots, \alpha_n}$$をその基底に関する成分と呼ぶ。成分を縦に並べた数ベクトル

$$
\bm{a} = \begin{pmatrix} \alpha_1 \\ \vdots \\ \alpha_n \end{pmatrix}
$$

を成分ベクトルと呼ぶ。また、

$$
v = \alpha_1 e_1 + \cdots + \alpha_n e_n =:  (e_1 , \cdots, e_n)  \begin{pmatrix} \alpha_1 \\ \vdots \\ \alpha_n \end{pmatrix}
$$

と表記する。

成分ベクトルは基底の選び方に依存したものなので、異なる基底を選ぶと同じ元でも成分ベクトルは異なる。では、基底を取り替えたときに、成分ベクトルがどのように変化するのか見ていこう。

$${\{e'_1,\cdots, e'_n\}}$$も$${V}$$の基底であるとする。$${e'_j, j=1,\cdots,n,}$$は基底$${\{e_1,\cdots,e_n\}}$$の線形結合で

$$
e'_j = P_{1j}e_1 + \cdots + P_{nj}e_n = (e_1 , \cdots, e_n)  \begin{pmatrix} P_{1j} \\ \vdots \\ P_{nj} \end{pmatrix}
$$

と書ける。これらを横に並べて、

$$
(e'_1 , \cdots, e'_n) = \left( (e_1 , \cdots, e_n)  \begin{pmatrix} P_{11} \\ \vdots \\ P_{n1} \end{pmatrix}, \cdots (e_1 , \cdots, e_n)  \begin{pmatrix} P_{n1} \\ \vdots \\ P_{nn} \end{pmatrix} \right)
$$

とし、さらに$${(e_1, \cdots, e_n)}$$を前にくくりだして、

$$
(e'_1 , \cdots, e'_n) = (e_1 , \cdots, e_n)  \begin{pmatrix} P_{11} & \cdots & P_{1n} \\ \vdots & & \vdots \\ P_{n1} & \cdots &   P_{nn}\end{pmatrix} 
$$

と書く。この右辺に現れた成分を縦横に並べたものを、基底$${\{e_1,\cdots,e_n\}}$$から基底$${\{e'_1,\cdots,e'_n\}}$$への変換行列と呼ぶ。変換行列を$${P=(P_{ij})}$$とし、

$$
(e'_1,\cdots, e'_n) = (e_1, \cdots, e_n) P
$$

と略記する。

いま$${v\in V}$$が

$$
v = \alpha_1 e_1 + \cdots + \alpha_n e_n = \beta_1 e'_1 + \cdots + \beta_n e'_n
$$

とそれぞれの基底で展開できたとする。

$$
v = (e'_1, \cdots, e'_n)\begin{pmatrix}\beta_1 \\ \vdots \\ \beta_n\end{pmatrix} = (e_1 , \cdots, e_n) \, \, P \begin{pmatrix}\beta_1 \\ \vdots \\ \beta_n\end{pmatrix}
$$

が成り立ち、係数の一意性より、

$$
\begin{pmatrix}\alpha_1 \\ \vdots \\ \alpha_n\end{pmatrix} = P \begin{pmatrix}\beta_1 \\ \vdots \\ \beta_n\end{pmatrix}
$$

である。より具体的には

$$
\alpha_{j} = P_{j1}\beta_1 + \cdots + P_{jn}\beta_n, \quad j=1,\cdots,n. 
$$

また、成分ベクトルを使うことで、上記は$${\bm{a} = P \bm{b}}$$とも書ける。

■命題3.1(まとめ)

$${n}$$次元ベクトル空間$${V}$$の基底$${\{e_1,\cdots,e_n\}, \{e'_1, \cdots,e'_n\}}$$が、行列$${P=(P_{ij})}$$を用いて、$${(e'_1,\cdots, e'_n) = (e_1,\cdots, e_n)P}$$と変換されるとする。このとき、$${v\in V}$$のそれぞれの基底に対する成分ベクトル$${\bm{a}, \bm{b}}$$は、$${\bm{a} = P \bm{b}}$$となる。

<目次>
#0 連載の目的
#1 ベクトル空間とは
#2 ベクトルの一次独立・基底・次元
#3 ベクトル空間の基底とその変換
#4 線形写像(その1)〜定義と次元定理
#5 線形写像(その2)〜双対空間
#6 おまけ〜ベクトル空間の引き算としてのK群入門
#7 おまけ〜ベクトル空間の具体例:線形常微分方程式の解空間
#8 線形写像(その3)〜線形写像の共役
#9 おまけ:質点系の数理
#10 線形写像(その4)〜固有値・固有値・最小多項式
#11 おまけ:線形常微分方程式の解(行列の指数関数とLie群の視点から)
#12 線形写像(その5)〜対角化・最小多項式・一般化固有空間

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