行列計算を使わない線形代数 #4 〜 線形写像(その1) 線形写像の定義と次元定理
■定義4.1(線形写像)
$${V,W}$$を$${K}$$-ベクトル空間とする。写像$${\varphi : V \to W}$$が線形写像であるとは、任意の$${v_1, v_2\in V}$$と$${\alpha_1, \alpha_2\in K}$$に対して、
$$
\varphi( \alpha_1 v_1 + \alpha_2 v_2 ) = \alpha_1 \varphi(v_1) + \alpha_2 \varphi(v_2)
$$
が成り立つときにいう。$${V}$$から$${W}$$への線形写像全体の集合を$${\mathrm{Hom}(V;W)}$$と表す。特に、$${V=W}$$のとき、$${ \mathrm{Hom}(V) := \mathrm{Hom}(V; V) }$$と表す。
■定義4.2(線形写像の像・核・余核)
線形写像$${\varphi : V \to W}$$に対して、その像(image)、核(kernel)および余核(cokernel)をそれぞれ
$$
\mathrm{Im} (\varphi) := \{ \varphi(v)\in W \,|\, v \in V \}
$$
$$
\mathrm{Ker} (\varphi) := \{ v \in V \,|\, \varphi(v)=0_W \}
$$
$$
\mathrm{Coker} (\varphi) := W / \mathrm{Im} (\varphi)
$$
で定義する。この3つはすべてベクトル空間になる。
■定義4.3(単射・全射・同型写像)
$${\varphi : V \to W}$$を線形写像とする。
$${\varphi}$$が単射であるとは、$${ \mathrm{Ker} ( \varphi ) = \{0_V\}}$$を満たすことをいう。
$${\varphi}$$が全射であるとは、$${ \mathrm{Coker} ( \varphi ) = \{[0_W]\}}$$を満たすことをいう。
$${\varphi}$$が全単射(同型写像)であるとは、$${\varphi}$$が全射かつ単射であるときにいう。
■命題4.4
ベクトル空間$${V}$$から$${W}$$への同型写像$${\varphi : V \to W}$$に対して、ある同型写像$${\phi:W\to V}$$が存在して、$${\phi\circ\varphi=\mathrm{id}_{V}}$$かつ$${\varphi\circ\phi=\mathrm{id}_W}$$が成り立つ。ここで、$${\mathrm{id}_{V}, \mathrm{id}_{W}}$$はそれぞれ$${V, W}$$上の恒等写像である。
この同型写像$${\phi}$$を$${\varphi}$$の逆写像と呼び、$${\varphi^{-1}=\phi}$$と表す。
■定義4.5
ベクトル空間$${V, W}$$が同型であるとは、同型写像$${\varphi : V \to W}$$が存在するときにいう。$${V}$$が$${W}$$に同型であることを$${V\simeq W}$$と表すと、$${\simeq}$$は同値関係になる。
■命題4.6
有限次元ベクトル空間$${V, W}$$が同型であるならば、$${\mathrm{dim} V = \mathrm{dim}W }$$である。また、逆も成り立つ。
■定理4.7(次元定理)
$${V, W}$$を有限次元ベクトル空間とし、$${\varphi : V \to W}$$を線形写像とする。このとき、
$$
\mathrm{dim}\,\, \mathrm{Im}(\varphi) = \mathrm{dim} V - \mathrm{dim}\,\, \mathrm{Ker}(\varphi).
$$
(証明)同型写像$${\Phi: V/\mathrm{Ker}(\varphi) \to \mathrm{Im}(\varphi)}$$を構成すれば、命題4.6より定理4.7が示される。
$${[v]\in V/\mathrm{Ker}(\varphi)}$$に対して、$${\Phi([v]) := \varphi(v) \in W}$$とおくと、$${\Phi}$$は$${V/\mathrm{Ker}(\varphi)}$$から$${ \mathrm{Im}(\varphi)}$$への線形写像を定める。この$${\Phi}$$が全単射であることを示せばよい。
$${\Phi}$$の定義より全射であることは明らかなので、単射であることを示す。$${\Phi([v])=0_W}$$であるとする。$${\varphi(v)=0_W}$$なので、$${v\in\mathrm{Ker}(\varphi)}$$である。すなわち、$${\mathrm{Ker}(\Phi)=\{ \mathrm{Ker}(\varphi) \}=\{[0_{V}]\}}$$となり、$${\Phi}$$は単射である。$${\square}$$
■系4.8
$${ \mathrm{Im}(\varphi) \simeq V/ \,\mathrm{Ker}(\varphi). }$$
演習問題
【1】$${\varphi : V \to W}$$および$${\phi : W \to X}$$が線形写像であるとき、それらの合成写像$${\phi\circ\varphi : V \to X}$$も線形写像であることを示せ。
【2】線形写像$${\varphi : V \to W}$$が単射であることと、以下の条件(*)は同値であることを示せ。
(*) $${v_1, v_2\in V}$$が$${v_1\ne v_2}$$であるならば、$${ \varphi(v_1) \ne \varphi(v_2) }$$
【3】線形写像の像、核および余核がベクトル空間になることを示せ。
【4】命題4.6を示せ。
【5】定理4.7で構成した写像$${\Phi:V/\mathrm{Ker}(\varphi) \to \mathrm{Im}(\varphi) ; [v] \mapsto \varphi(v) }$$は、$${[v]}$$の代表元$${v}$$の選び方に依らずに定義されることを示せ。
【6】$${V, W}$$が有限次元ベクトル空間であるとき、以下の(1)から(3)は同値であることを示せ。
(1) $${V}$$と$${W}$$は同型である。
(2) 単射$${\varphi_1 : V \to W}$$と単射$${\varphi_2 : W \to V}$$が存在する。
(3) 全射$${\phi_1 : V \to W}$$と全射$${\phi_2 : W \to V}$$が存在する。
【6】ベクトル空間$${V}$$の部分空間$${W_1, W_2}$$に対して、その和を$${W_1+W_2 := \{ w_1+w_2 \,|\, w_1 \in W_1, w_2 \in W_2 \}}$$で定義する。
(1) $${W_1+W_2}$$はベクトル空間であることを示せ。
(2) $${ W_1 \cap W_2 = \{0\}}$$のとき、$${W_1+W_2}$$は$${W_1\oplus W_2}$$に同型であることを示せ。(※$${W_1\oplus W_2}$$の定義はこの記事を参照)
今後$${ W_1 \cap W_2 = \{0\}}$$のとき、$${W_1+W_2}$$を$${W_1\oplus W_2}$$と書く。
<目次>
#0 連載の目的
#1 ベクトル空間とは
#2 ベクトルの一次独立・基底・次元
#3 ベクトル空間の基底とその変換
#4 線形写像(その1)〜定義と次元定理
#5 線形写像(その2)〜双対空間
#6 おまけ〜ベクトル空間の引き算としてのK群入門
#7 おまけ〜ベクトル空間の具体例:線形常微分方程式の解空間
#8 線形写像(その3)〜線形写像の共役
#9 おまけ:質点系の数理
#10 線形写像(その4)〜固有値・固有値・最小多項式
#11 おまけ:線形常微分方程式の解(行列の指数関数とLie群の視点から)
#12 線形写像(その5)〜対角化・最小多項式・一般化固有空間