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ペスト【読者のきろく】

物語によって、苦しみや悲しみの感情を体験させてもらう

ずっと読みたいと思ってた積ん読からまたひとつ、読み終えました。
カミュの『ペスト』。
出版されたのは第二次世界大戦直後の1947年だけど、70年以上経った2020年に話題になった作品です。理由は、都市封鎖されるほどの疫病。

もう改めて言う必要はないと思いますが、僕たちの今までの生活を一気に変えた新型コロナウイルスと重ねて、注目されました。

もちろん、完全に一致する疫病ではありません。でも、爆発的な感染力、周囲と隔離される生活、それによって生まれる別離、感染状況に心が揺さぶられ続ける人々の姿、先が見えない不安など、連想してしまう部分、そして考えさせられる部分は多々あります。
ドキュメンタリー風に書かれているものの、舞台となっている都市でペストが実際に発生したわけではなく、架空の物語だそうです。創作物としてこれを書けるって、本当に凄いと思いました。だから、歴史を越えて読まれているわけですが。

さて今、読み終えて感じたことを書き留めようとしていますが、なかなか難しいです。

今の日本のタイミングとしては、日々の新規感染者数は一時期よりも大幅に減って、落ち着きの感覚があふれています。緊急事態宣言も明けました。物語の終盤、ペストが突然、遠ざかっていく場面と重なります。落ち着きを喜びつつ、手放しで受け入れていいものか、また状況が悪化するのか半信半疑の状態。
現代はまだ、明日が、来週が、来月が、来年がどうなるか、誰にも分かりません。できれば、このまま収束してほしい。こんな状況だから、読み終えても物語の中から抜け切れず、立ち止まって考えてみたくなります。

考えてみて、ひとつ思ったことがあります。
物語に登場する主要な人物たちは、自分の心のなかに少しずつ存在しているに違いない。

どんなに悲惨な状況でも、自分の持ち場で与えられた職務を全うする自分。
面倒な問題は、しばらく時間が経つうちに勝手に解決していてほしいと願う自分。
自分は部外者だから、この場から抜け出す権利があると主張する自分。
非日常にある都合のよさを知り、この状況が続くことも心のどこかで臨む自分。
周りがどんな状況でも、夢に向かった行動をコツコツと重ねられる自分。
常に、大きなやさしさで、目の前の相手を包み込む自分。

コロナ禍にあり、自分と向き合う時間が今までよりも増えた結果、いろんな心の在りように直面している気がします。
そこから何を選ぶかを、考えさせてくれる作品と言えそうです。

そして、このタイミングだからこそ、物語の終盤が重くのしかかってきました。
今も、一時期と比べてどんなに数が減ったとはいえ、重い症状に苦しんでいる方や、亡くなられる方がいらっしゃいます。
それを考えて何も行動しない、という選択肢で思考を止めるのではなく、そんな人もいることを忘れないこと。

物語によって、苦しみや悲しみの感情を体験させてもらう。その意味を考えさせられる作品でした。


読書のきろく 2021年53冊目
『ペスト』
#カミュ
#宮崎嶺雄
#新潮文庫

#読書のきろく2021

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